67.証明
沈黙を破ったのは、レオンでもペルラン公爵父子でもなかった。
「あの……私は違うと思います」
後ろにいたマリルー様だった。
小声だけど、私たちにもはっきりと聞こえた。
「何が違うと言うんだ?」
「私の魔力が少ないという話です」
「検査結果は正しいというのか?」
「いえ……むしろ、少なく書かれていてもおかしくないと思います」
「少ない?」
「……一緒に検査をした、カリーヌ様をこえることは許されないでしょうから」
「マリルー!?」
王女の検査結果だけは忖度されていたと言わんばかりのマリルー様に、
何を言い出したのかと驚いてしまう。
これまで前に出ず、王女の後ろに隠れていたのに。
それも、王女に遠慮して何も言えなかったとでも言うのだろうか。
「王女の結果を水増しすることはあるだろうが、
それは公爵令嬢でも同じではないのか?」
「いえ、違うと思います。
そこにいる婚約者様が魔力量が多いというのなら、
同じ親から生まれた私も同じくらい多いはずです」
そういうことか……。
前回会った時に、私は前国王夫妻の孫で間違いなかったと説明した。
それをジョアン公爵家の二女で間違いないと認識したのなら、
自分も同じくらいの魔力量だと思ってもおかしくはない。
「俺は目の前にいる者の魔力量がわかると言ったはずだが」
「それをどう証明できるのでしょうか?」
国王が言ったことを疑うなんて命知らずだ。
だが、レオンが言ったことに証拠がないのも確か。
「証明していいのか?」
「ええ。私に欠点がないとわかったのなら、側妃候補にしていただけますか?」
「……欠点がないとわかったのならな」
「ありがとうございます」
側妃候補になったところで、後宮に入れるだけだと思ったのだろう。
レオンが許可を出してしまった。
それを満足げに笑うマリルー様に思わず声をかけてしまう。
「マリルー様、ここで証明するのはやめた方がいいと思うの」
「まぁ!婚約者様が心配されるのはわかりますが、
私は正妃候補になりたいわけではありません。
側妃でかまわないのです。
けっして婚約者様の地位を脅かすことはありません……。
それでも認めてもらえないのでしょうか?」
「そういうことではなくて……」
「では、姉だと認めたくないと?
一緒に育つことはできなくても、私は姉妹として交流したいと願っているのですが。
婚約者様はそれもお嫌なのでしょうか?」
大きな目に涙をため、同情をさそうようなマリルー様に、
これ以上何か言えば私が悪く取られてしまいかねない。
「そう……あなたが問題ないというのなら、止めないわ」
「ありがとうございます!」
うれしそうなマリルー様とは裏腹に、
王女は苦虫を嚙み潰したような顔をしている。
マリルー様に裏切られたとでも思っているのかもしれない。
お兄様が手配をしたのか、すぐに簡易検査ができる魔術具が届けられる。
これは魔力属性は出ず、ある程度の魔力量しかわからないものだ。
「では、最初に検査するのは誰だ?」
「っ!!私がしますわ!」
まずは王女が検査をするようだ。
器具に両手をつけ、魔力を流せば魔力量が計れる。
魔力量を示す矢印は左から右に移動し、真ん中よりも手前で止まった。
「平均以下だな」
「そんな!!」
「では、公爵令嬢がやってみるといい」
「ええ」
青褪めた顔の王女が器具から手を放してその場から退くと、
すぐにマリルー様が器具の前に立つ。
自信ありげのマリルー様だったが、結果はさほど変わらなかった。
「そんな!?どうして……」
「これで俺が言ったことが正しかったと証明できたな」
「……まだです!この検査器具が壊れているのかもしれません!」
「何?そんなことはない」
「では、婚約者様も検査をしてください!」
「は?」
「私の魔力量が少ないというのなら、姉妹である婚約者様も同じくらいなはずです!
一人だけ突出して多いなんてありえないのですから!
ここでできないというのなら、ごまかしているのでしょう!」
王女とマリルー様だけじゃない。
事態を見守っている貴族たちからも同じ疑いがかけられているのを感じる。
これは検査しなければおさまらない。
こうなりたくなかったから、止めたのに。
「レオン、私も検査をしてもいいかしら?」
「いいぞ。壊れてもかまわない」
「わかったわ」
どうしてきちんとした検査ができる魔術具を持ってこさせなかったのか。
わざと簡易のものを持ってこさせたのだとわかる。
これなら、私の属性と龍人の血を持つことはわからない。
器具に両手を置き、魔力を流す。
魔力量を示す矢印はあっという間に振り切れてしまった。
「これでいいかしら?」
「嘘だわ……どうして」
「皆も見ただろう。以前に公表している通り、
ルシールはこの国で一番魔力量が俺に近い令嬢だ。
ルシールをこえる妃はいない」
その言葉に大広間中に歓声が広がっていく。
もう誰も王女やマリルー様を妃にという声は出なかった。
「……どうしてよ!なんで、マリルーとそんなに違うのよ!
同じ親から生まれたのにそんなに違うわけないじゃない」
「ああ、そうだな。同じ親から生まれたのならな」
「え?」
もう黙っているのも問題になると判断したのか、
レオンは言うことにしたらしい。
「ルシールは間違いなく、前国王夫妻の孫だ。
だが、そちらの令嬢はどうだろうな?」
「どういうことですの……?
それでは、マリルーは親が違うように聞こえますわ」
「私が公爵家の娘ではないと言いたいのですか!?」
「その答えはそこにいるペルラン公爵が良く知っているはずだ」
「え……いえ、私には。他国のことですから」
「そうか。では、ジョアン公爵令嬢。
自分の両親は誰なのか、自国に帰って聞くがいい」
「……婚約者様とは違うのですね」
「ああ。両親とも違う。それだけは言っておこう」
茫然とした王女とマリルー様を焦ったようにペルラン公爵が連れていく。
最後まで令息は表情を変えないままだった。
もしかして、知っていたのだろうか。




