64.夫人とのお茶会
ジュリーから話を聞いた私は、
もっと詳しい話を聞くために、ジュリーの姉二人を呼んでもらうことにした。
長女のコラリーは婿を取ってパララ伯爵家を継いでいた。
次女のレオニーは子爵家に嫁いでいるそうだ。
「突然呼び出して大丈夫だったかしら」
「二人ともお茶会が大好きですし、
ルシール様に呼んでいただけるなんて光栄ですから。
驚いているでしょうけど、喜んでいると思います」
「それならいいけど」
私専用の庭にお茶の用意をさせて、二人を迎え入れる。
ジュリーは席にはつかず、護衛騎士としての仕事を優先するようだ。
すぐ近くにガイオとジニーもいる。
まぁ、この庭に入ってこられるのはレオンとお兄様だけ。
それほど心配するようなことはないのだけど。
もう三十歳を過ぎ、どちらも二人の子供がいるということで、
落ち着いた雰囲気のドレス姿だった。
側妃選びのお茶会ではしゃいでいた頃とはまったく違う。
挨拶を終え、まずは当たり障りのないことを話し、
二人と交流を深める。
緊張が解けてきたのか、昔のように積極的な性格が見え出した。
「あの、ルシール様、そちらにいらっしゃる護衛騎士の方は」
「見覚えがございますわ!二ヴェール侯爵令息ではございませんの?」
「え、お二人はガイオのことを知っているのね」
「ええ、学園でお見かけしたことが何度か。
社交界ではお会いできませんでしたので、気になっておりましたの」
「夜会でもお見かけしませんでしたので、どうしていらっしゃるのかと。
ルシール様の護衛騎士を務めておいででしたのね」
熱のこもった視線を送られて、ガイオがそっと目をそらす。
女性に興味を持たれるのは嫌なんだろう。
「申し訳ないけれど、彼は仕事中だから。
気にしないでもらえるとうれしいわ」
「あら、そうですわね。失礼いたしました」
そろそろ本題に入ってもいいかな。
これ以上長引くとレオンたちが心配するかも。
「そういえば、先日ジュリーから聞いたのだけど、
十五年くらい前に流行った香があったのだとか?」
「香ですか?」
「ええ。前に側妃選びのお茶会が開かれていた頃、
令嬢たちがみんなその香の匂いをまとっていたと聞いたの。
どんなものだったのか気になって。知らないかしら?」
「あー、はい。ございました。
でも、流行ったのは本当に一時的なものでした」
コラリー様が思い出したようで、レオニー様に問いかける。
「ほら、レオニーがどこからかもらってきたの忘れちゃった?
リアーヌ様がお気に入りの香だから、この香を使っていれば、
気に入ってもらえるかもしれないって」
「そうでしたわね。どこのお茶会でもらってきたのかしら。
リアーヌ様が側妃を選ぶのだと聞いて、
皆が少しでも気に入っていただけるようにと。
最終的にはほとんどの令嬢がその香を使用していたと思いますわ」
リアーヌが気に入っていた香?
そんな記憶はない。
そもそも、まだ十二歳で化粧もほとんどしていなかった。
アルベール公爵家で使用していた物だったとしたら、
お兄様が気がつかないはずはない。
私が愛用していたのだとしたら、レオンが覚えているはずだ。
「……その香を使っていたのは、側妃選びのお茶会だけだったの?」
「はい、貴重な香だとかで少しずつしか手に入らなかったのです。
側妃選びのお茶会の一回目から使っていた令嬢はわずかでしょう。
二回目は少し増えて、三回目のお茶会はほとんどが使っていました」
「私もそれは覚えていますわ。
みんなが使ってしまったら意味がないとがっかりしましたから」
「ええ、リアーヌ様に対抗していた令嬢たちまで同じ匂いで。
それだけ気に入ってもらいたくて必死だったのでしょうけれど」
「それもリアーヌ様がお倒れになって……残念なことになってしまいましたので、
お茶会もなくなって香も使われなくなりましたわ」
三回目のお茶会。
それは私が倒れ、死んだお茶会の場。
やっぱり、これは偶然ではない……?
「その香は誰からもらったのか覚えている?」
「当時交流していた方のどなたかだと思うので、
だいたいはわかるはずですけど、確実に覚えているかは……」
「わかる範囲でいいから教えてもらえるかしら?」
「わかりました。それほどその香が気になるのですか?」
「……皆さんが使うほどだったと聞いて、
どんな匂いなのかしらって」
「まぁ……そうですわね。
でも、あの後は使うこともなかったので、
香のこともすっかり忘れてしまっていましたわ。
今でも手に入るものなのかしら」
交流していた令嬢たちの名をレオニー様に書き出してもらい、
その日のお茶会は終了した。
まだ話足りなかったのか、お二人は名残惜しそうな顔で帰っていく。
執務室に向かうと、レオンとお兄様が待ち構えていた。
「どうだった?詳しい話は聞けたのか?」
「ええ」
二人から聞いた話をするとどちらも怪訝そうな顔になる。
「リアーヌは気に入った香なんてなかったぞ」
「ああ。香も香水も使ってなかった。
体調が悪い時に強い匂いがあるとつらいって言って」
「そうよね……私の記憶でもそうなの。
じゃあ、私のお気に入りの香だと誰が言いまわったのかしら」
令嬢たちに嘘を吹き込んで、香を渡していた誰かがいる。
「ルシールは、それがリアーヌの死因だと考えているのか?」
「その可能性が高いと思っているの。
アンペール国でも一部の者には毒だった。
だけど、ほとんど毒性はないから体から毒は検出されない」
「魔力に影響を受けるのであれば、
病弱で魔力の器が小さかったリアーヌには命取りになる。
だとしたら、香を流行らせたものはわざとそうしたのかもしれない」
私を排除するため、私のお気に入りだと香を広めた。
その犯人はレオニー様が書いた令嬢の中にいるかもしれない。
八人の令嬢の名前が書かれていたけれど、
その中にペルラン公爵家のマリアンヌ様と
モーリア侯爵家のマノン様がいる。
だけど、あの時点で私を殺す必要なんてなかったはず。
リアーヌは長く生きられなかったのだから。
「作り出したのはペルラン公爵家に間違いないだろうが、
広めたのがそうかはわからない。
昔のことだからな。調べるのは苦労しそうだ」
「そうよね……」
「だが、その香がリアーヌの命を奪ったのかもしれないのなら、全力で調べさせる。
許すわけにはいかないだろう」
レオンとお兄様が力強く頷く。
調べた結果、その令嬢がわかったとしても、
香が原因で亡くなる理由がまだ解明できていない。
だから、殺人の罪で捕まえることはできない。
それでも知りたかった。
どうして私が死ななければいけなかったのかを。




