63.王女の呼び出し(ガイオ)
「じゃあ、二時間後に戻ってくるから」
「わかりました」
姫さんが授業を受けている間、ジニーに任せて休憩に出る。
女性騎士の二人が加わったことで、休憩が取りやすくなって楽になった。
教室を出る時、姫さんの顔色だけ確認して出る。
放っておくと倒れるまで頑張るんだよな。
適度に休憩させるように陛下とユリウス様から言われている。
それにしても、授業なんて受けなくてもわかってるだろうに。
きっちり聞いているあたり、本当に真面目だよな。
カフェテリアで飯を食べ、いつもならだらだら過ごすところだけど、
同じ場所に長い時間いるとどこからか王女たちが現れる。
見つかる前に異動してしまおうと席を立ち、
涼しい校舎内をうろつくことにした。
空き教室で時間まで仮眠でもしようかと思っていたら、
顔色の悪い令息に声をかけられた。
「あのっ、すみません。手を貸してもらえませんか?」
「手を?何かあったのか?」
「倒れている人がいるんですけど、
一人じゃ救護室まで運べなくて……」
「なるほど。わかった。どこだ?」
「こっちです」
空き教室の中で倒れているのか、その令息は入っていく。
続けて中に入った時、これが罠だと気がついた。
あの香の匂いがしていたからだ。
案の定、その令息はこっそりと空き教室から出て行こうとしていた。
その腕を捕まえると、令息は飛び上がりそうなほど驚いている。
「な、なんですか!?」
「なぜ、ここから出て行こうとしている?」
「いや、もう一人呼んでこようかと……」
「違うだろう?ここに連れてくるように頼まれたんだな?」
「あ、いや……僕は……」
おろおろしながらも、令息は俺の手から逃げようとしている。
逃がすわけないだろう。
令息の腕をつかんだまま、声をかけた。
「いるんだろ?王女様、出て来いよ」
「……あら、気づいてましたの?」
「こいつに俺を連れてくるように命じたのか?」
「ええ、ちょっとお願いしましたの。連れてきてって。
だって、いつも声かけただけで逃げてしまうんですもの」
ちっとも悪びれもせず言う王女に腹が立ってきた。
こいつはここが他国の学園だということを理解しているんだろうか。
「その方はもう用はないので、解放してあげて?」
「ダメだ。空き教室とはいえ、王女と二人きりになるわけにはいかない。
こいつが出ていくなら、俺も出ていく」
もし二人きりになって、悲鳴でもあげられたら終わりだ。
こいつには最後までつきあってもらうしかない。
「そう。あなたと話がしたかっただけなんだけど。
そんなに警戒しなくてもいいのに」
「こんな男を誘う香を焚いておいてか?」
「男を誘う香?これが?」
どうやら知らなかったらしく、王女が首をかしげている。
「何だと思って焚いたんだ?」
「好感度が増すと聞いたのだけど、違うの?」
「この香を焚いた部屋に連れ込むっていうのは、
男女の仲になろうぜって意味なんだが」
「まぁ!!そんなわけないでしょう!」
「知らなかったのなら今すぐに覚えろ。
この香はそういう風に使われていたものだ。
だから、この令息を解放することはできない。わかったな?」
「……わかったわよ」
自分がまずいことをしたとわかったのか、渋々頷く。
「で、何の用なんだ」
「あなた、上級魔術師でしょう?」
「……そうだが」
「やっぱり。アンペールであなたを見かけたことがあるの。
令嬢の護衛をしていたでしょう。
あの時、魔術も使える護衛だって評判だった」
ああ、俺のことを知っていたのか。
もしかして魔術の教師になれとか言わないよな。
「上級魔術師を探していたのよ。
この国では魔術が使えない者は認めてもらえないんでしょう?」
「そうらしいな」
「だから、あなたが私たちに教えてちょうだい。
ついでに私の護衛になればいいと思うの」
「断る」
「どうして?私についてくれたら、正妃になった後取り立ててあげるわよ?」
断られるとは少しも思っていなかったのか、意外そうな顔をした。
「なぜ、妃になるのが確定しているルシール様から離れて、
妃候補にすらなっていない王女につかなくてはならないんだ」
「私はアンペール国王が認めた正妃候補よ。
あんな偽物令嬢なんて認めるわけないでしょう」
「そっちの国が偽物扱いしたところで関係ない。
陛下の相手はルシール様だって決まってんだよ」
「そんなわけないわ!」
「あるんだよ。王女が何を言ったところで変わらない。
あきらめてさっさと帰るんだな」
「絶対に帰らないわ!
私が正妃でマリルーが側妃になるって決まってるんだから!」
マリルーが側妃?二人とも嫁いでくるつもりだったのか。
「陛下はルシール様以外を娶る気なんてないよ」
「あなたが私に手を貸してくれたらいいのよ。
私に魔術を教えて、王宮に引き入れてくれれば。
陛下だって、何度か会っていれば私たちの魅力に気がつくはずよ!」
「……無理な話だな。
こんな香の小細工しなきゃ、俺に承諾させられないって思ってるやつが、
陛下に気に入られるほどの魅力なんてあるはずないだろう」
「失礼だわ!王族に向かってそんな無礼許されると思うの!?
……今すぐに謝罪して私につくと約束するなら許してあげてもいいわ」
今度は脅しか。あきらめるってことを知らないらしい。
「俺は王族相手でもこの口調でいいって陛下に許されてんだよ。
この国に留学生として来ているんなら、王女にだって問題ない」
「はぁぁ!?そんなわけないでしょう!
レオンハルト様に言いつけるわよ!」
「どうぞ……って、こいつダメなやつだったか」
令息の力が急に抜けた思ったら、真っ青な顔で倒れてしまった。
「何なの?」
「この香は一部の人間には毒なんだ。死ぬ可能性もある」
「えっ!」
「こいつはすぐに救護室に連れていく。
この香を持ち込んだこと、問題になると思え」
「そんなっ……ただの好感度をあげるだけの香だってマリルーが」
「俺には何にも効果ないんだけどな、それ」
「そんな……」
焦り始めた王女を放って、令息を担ぎ上げる。
救護室に連れて行き、香の匂いがついた衣服を脱がせる。
寝台に横たわらせたら、医務員に事情を説明した。
王宮に連絡を入れ、香に詳しいものを連れてくるように頼む。
そうこうしているうちに、令息は意識が戻った。
話を聞けば、下位貴族で王女に脅されて従ったらしい。
まぁ、こいつを責めることはできないな。
後遺症があるかもしれないから、王宮から来た者の検査を受け、
しばらくは休養するように言っておく。
あーもう交代の時間過ぎちゃってる。
早く戻らないと心配されているかもしれない。
教室に戻ったら、やっぱり探しに来ようとしていたらしい。
王女のやらかしを伝え、早く陛下に報告しなければと思っていたら、
ジュリーが香について思いもしないことを話しだした。




