62.王女たちの行動
カリーヌ王女とマリルー様は多少強引に離宮に戻されたそうだが、
それからも執拗に王宮に上がろうとしていた。
いろんな理由を述べて王宮の門を通ろうとしたらしいけれど、
レオンから絶対に入れるなと命じられていた門番が通さなかった。
同盟国の王女へ無礼だなどと怒り出したカリーヌ王女に、
門番に「許可なく押しかけるのは陛下に無礼ではないのですか」
と言い返されて、真っ赤になって離宮に戻ったのだとか。
「その門番、すごいわね」
「ここの王宮の門番は普通の門番じゃない。
近衛騎士の見習いがやっているんだ」
「近衛騎士の見習い?どうして?」
「相手が高位貴族でも近衛騎士の身分なら言い返せる。
それだけの権限を与えているからな。
見習いなのは、面倒な相手を覚えさせるためでもある」
「レオンの側妃になりたい令嬢や、
娘を売り込んで来ようとする貴族が多かったから。
そういう風にしたんだよ。
門番をしている間に面倒な相手を覚えたら、
夜会でもレオンに近づけないようにするだろう?」
「ああ、そういうことなのね」
リアーヌが亡くなった後、
レオンに会うために王宮に押しかけてくるものが後を絶たなかった。
それを効率的に追い返せるようにした結果、こうなったようだ。
それならカリーヌ王女たちを追い返すのは得意だろう。
これならあきらめるかと思いきや、
王女たちは今度は私に会おうと学園内で動き出した。
だが、その前に学園内での対策は済んでいた。
他学年の教室には行けないようにしていたため、
王女たちが直接私に会いに来ることはできなくなっていた。
王女たちがその代わりに狙ったのは、ガイオだった。
ガイオとジニーは私の授業中も教室の後ろで待機している。
だが、交代で休憩も取っている。
ガイオは休憩の間はカフェテリアで休んでいたり、
敷地内を一人でうろついていることもある。
それを知った王女たちはガイオと仲良くなろうとしたらしい。
「あいつら、また声かけてきたよ」
「また?授業中じゃないの?」
「どうしてかわかんないけど、俺が休憩だと来るんだよな。
誰かが情報を流しているかもしれん」
「困ったわね……」
休憩をとる順番を変えても、時間をずらしてもダメ。
ガイオが一人でうろついていると現れるらしい。
「仲良くなって、どうするつもりなのかしら」
「ガイオは一応は陛下の側近ですからね。
王宮に連れて行ってもらいたいのでは?」
「さすがに仲良くなってもそれは無理でしょう」
「無理だと向こうは思っていないかもしれませんよ。
何しろ、今までわがままは聞いてもらって当然だったでしょうから」
ジニーが言うのももっともだ。
この国でも自国と同じように好き勝手出来ると思っていたらしい。
あまりにもひどいようならアンペール国に苦情を送ると言っていたけれど、
つきまといの相手がガイオなのは微妙なところだ。
レオンやお兄様、私につきまとうのならすぐにでも苦情を言えるのだけど。
家名が使えないガイオだと王女を非難するのが難しい。
声をかけられただけで、ガイオがすぐに断って逃げてくるのもある。
実害がないのに苦情を入れたとしても、あまり問題視されないに違いない。
そんな風に二か月が過ぎた頃。
ジニーと交代する時間にガイオが戻ってこなかった。
少し遅れるくらいならあっても、
こんなに遅れるようなことはなかったのに。
ジニーとリン、ジュリーの三人がいるので、危険なことはないけれど、
戻ってこないガイオが気になる。
「どうしよう。誰か探しに行ってくる?」
「私が離れるわけにはいきません。
リンかジュリーのどちらかが探しに行くのなら許可しますが」
「ジニーはそうよね。じゃあ、どちらか探しに……」
ガイオがいない以上、ジニーが離れるわけにはいかない。
まだリンとジュリーでは何かあった時に対処できないからだ。
リンかジュリーに探しに行ってもらおうとしていたら、
ガイオが教室に戻ってきた。
「ガイオ!何があったの?」
「すまん、姫さん。ちょっと失敗した。
王女たちに捕まってしまって」
「っ!この匂い、香をたかれた部屋に連れていかれたの?」
戻ってきたガイオの服から、あの香の匂いがした。
まさか王女たちがあの香を持ち込んでいたとは。
「俺は問題ない。香にはすぐに気がついたし。
ただ、巻き込まれた令息が一人体調を崩してしまって。
そいつを救護室に連れて行ったから遅れたんだ」
「その令息は大丈夫なの?」
「わからない。部屋にいたのは短時間だからすぐに回復するとは思うけど、
家の者に迎えに来させて早退すると言っていた」
「これはレオンに報告しないとダメね」
「俺もそう思う。
これはアンペールに文句言ってもらわないと」
ペルラン公爵家を謹慎させ、香の問題は終わったと思っていたのに。
アンペール国にまだ残っていたとは。
たしか、アンペールでも危険視していたと思うのに。
「あのー質問なんですけど、その香がどうしたんですか?」
「ああ、ジュリーはわからないわよね」
リンとジュリーには香の話をしていなかった。
説明しなければ何がひどいのかわからないはずだ。
「その香って、私が子どもの頃に流行った香ですよね」
「え?」
「一度、流行したことがあったんです。
令嬢たちがみんなその香の匂いだったことがあって、
久しぶりに匂いを嗅いで懐かしいなって思ってたんですけど、
今の話だと身体に悪いものなんですか?」
みんな、その香の匂いだった?
そういえば、私も匂いを嗅いだことがあると思ったはず。
「ジュリー、それって、いつの話?」
「えっと、私が十歳か十一歳だった時の話です……あ」
「どうかしたの?」
「あの……ルシール様は陛下の前の婚約者様のことご存じですか?」
「ええ、知っているわ。それがどうかして?」
「流行っていたのは、陛下の前の婚約者だったリアーヌ様が、
側妃を選ぶお茶会を開いていた頃なんです」
「……え?」




