60.新しい女性護衛騎士
そんな話をしていると、応接室のドアが開いた。
「つっかれったー終わったよ、ユリウス様」
「何人残ったんだ?」
「一人」
「一人か……まぁ、仕方ないな」
「じゃあ、中に入ってきて」
呼ばれて中に入ってきたのは、こげ茶色の髪をぎゅっと一つに結んだ女性。
目は琥珀色で背が高い。二十代後半くらいだろうか。
「ジュリー・パララと申します!」
「パララ伯爵家の令嬢が女性騎士に?」
パララ伯爵家はアルベール公爵家の分家筋だったはず。
どうしてそんな令嬢が女性騎士に?
「伯爵家ですが、子だくさんで……。
持参金の問題もあり、三女の私は嫁くよりも王宮で働くことを選びました。
まぁ、結婚に興味がなかっただけなんですけどね」
思い出した。パララ伯爵家の三姉妹。
ジュリー様……リアーヌの一つ下で、側妃選びのお茶会にも出席していた。
上のお二人はとても積極的な方だったけれど、
末妹は無言でお茶菓子を食べ続けていたのが印象的だった。
側妃になる気がないのねとは思っていたけれど、
結婚そのものに興味がなかったとは。
「でも、それなら王宮女官でもよかったのでは?」
「もともとは王宮女官として働いていました。
女性騎士の募集を見て応募したのです。
ですので、騎士としての腕はまだまだなのですが……」
王宮女官に募集をかけたのかとお兄様を見る。
「護衛騎士なら強ければいいというものじゃない。
前提として、身元がきちんとした者じゃないと、
ルシールに近づけさせるわけにはいかない。
女官なら問題ないし、女官兼護衛として働いてもらおうと思って。
目立つように女性騎士を置くのは良くないしね」
「たしかに女性騎士だと目立たせるのはまずいわね。
私もそれが良いと思うわ。
それに、側近として働いてくれる女官が欲しかったところなの」
「かしこまりました。女官としてもお役立てください」
「よろしくね、ジュリー」
今まで執務室には侍女や女官を入れられなかった。
ジュリーなら私の仕事を手伝ってもらえそうだ。
「よし、ジュリーはリンとジニーと顔合わせしておけ」
「はい」
応接室のすみで三人が挨拶を交わしている。
小柄なジニーとリンの兄妹とジュリーとはかなり身長差がある。
三人の相性は悪くないのか、笑顔で話している。
様子を見ていると、後ろでお兄様がガイオに小声で聞いていた。
「ジュリーは大丈夫だったんだよな?」
「何の反応もなかったよ。俺が陛下の側近だと言っても無反応。
陛下の話にもほとんど反応しなかった。
勤務内容とか、ルシール様がどんな人かって時だけ真剣に聞いていた。
で、これなら一緒に働いても大丈夫だろうって」
「へ~そうなのか。それなら大丈夫そうだな」
ガイオだけじゃなく、レオンにも反応しなかったと聞いて、
なんだか私も少しだけほっとする。
一応は側妃選びに出席できる身分の女性でもある。
ジュリーがレオンに言い寄ることはなさそうだ。
こうして迎え入れる準備も整った一か月後、
カリーヌ王女とマリルー様が離宮に到着したと報告が来た。
「陛下にご挨拶したいと謁見を希望されていますが、
どうなさいますか?」
「……挨拶しないわけにもいかないか。
わかった。明後日、謁見すると伝えてくれ」
「かしこまりました」
レオンもお兄様も側近たちも面倒だという顔を隠さないけれど、
同盟国の王女からの挨拶を受けないわけにもいかない。
謁見の日、私も同席するように言われ、王妃の席に座る。
これを見て、王女たちはどう思うのだろうか。
「アンペール国第一王女カリーヌ様、
ジョアン公爵家マリルー様が到着しました」
「中に通してくれ」
謁見室の扉が開かれ、お二人が中に入ってくる。
玉座にレオン、その隣の王妃の席に私。
宰相のお兄様がその隣に立つ。
二人が入室してもレオンは立ち上がらない。
私も座ったまま、二人が頭を下げるのを見ていた。
「顔をあげてくれ」
顔をあげたカリーヌ王女は、私がいるのに気がついたようだ。
怒りなのか、すぐに顔が赤くなったけれど、
感情を見せないように抑えようとしている。
素直な性格なのか、顔に表れやすい方のようだ。
「お久しぶりです、レオンハルト様。
この度は留学の許可をいただき、ありがとうございます」
「ああ。こちらの国もそちらに留学生がいるからな。
同盟国として許可を出すのは当然のことだ」
「それでもあこがれの国に留学できるのはとてもうれしいです。
魔術を使ってみたいとずっと思っていました」
「それならば、魔術教師に当てができてから留学すべきだったな。
残念だが、王宮では魔術教師を紹介できない」
「まぁ……それでは気長に探すしかないですね。
そういえば、レオンハルト様は上級魔術師なのでしょうか?」
「……王族や高位貴族の当主はほとんどが上級魔術師だ。
上級魔術師になるためには魔力量が多くなくてはなれない。
そのため、上級魔術師のほとんどが高位貴族で教師にはならない。
教師を探すのが難しいのはそのためだ」
「そういう理由があるのでは、探すのは困難になるのでしょうね」
じっとりとした視線でレオンを見つめているけれど、
まさかレオンに教師になれとは言わないわよね?
一国の王がそんな暇ではないと、王女ならわかっていて当然だけど。
「上級魔術師の名簿はあるのでしょうか?」
「あるが、それを王女に見せることはできない」
「どうしてでしょうか?」
「この国の戦力を公表することになるからだ」
「……教師を探すために使うだけです」
「どういう理由であれ、他国の者に見せることはできない」
今は同盟国であり、長年戦争にはなっていないけれど、
今後も同じように平穏な関係が続くとは限らない。
上級魔術師は戦争になれば前線に立つ者たちだ。
王女であろうと、他国の者に知らせることはない。
それに、その中でも魔術教師の名簿というのは、
当主ではなく、貴族に仕えていない者たち。
他国に引き抜こうとされたら困るのだ。
王女がそこまで考えているわけではないと思うけれど、
周りの者がそうとも限らない。
「では、やはり王宮で教えてもらうことはできませんか?」
「王宮で?」
「ええ。レオンハルト様がお忙しいのはわかっていますが、
ほんの少しでも見ていただければ」
さすがに言わないだろうと思っていたのに、
カリーヌ王女はほんのり頬を染めてレオンにお願いをした。




