59.留学希望
アンペール国国王から書簡が届いた。
それは、カリーヌ王女とマリルー様を留学させたいという申し出だった。
「留学?こっちの学園に通いたいってこと?」
「そうらしい。理由は魔術を身につけたいからと」
「魔術を?」
「二人とも魔力が多く、魔術を使えるようになりたいが、
アンペール国には魔術を教えられる教師はいない。
こちらの学園に通いながら、魔術の教師に教わりたいと」
「たしかに向こうの国で習うのは無理でしょうけど、
この国に来ても教師は見つけられないんじゃないの?」
ノヴェル国の学園でも魔術は教わらない。
それは魔術の教師になれるような上位魔術師は、
各貴族家が雇っているからだ。
王宮にも上位魔術師はいるが、学園に派遣するには足りない。
そのため、魔術に関しては各個人で習うことになっている。
魔術を教えることができるのが上位魔術師に限られているのは、
普通の魔術師では魔力暴走を止めることができず、
私のせいで大やけどを負ってしまったマリアン先生のようになるからだ。
基本的には一人につき、教師が一人。
つきっきりの授業になるために、少ない魔術教師を取り合うことになる。
アンペール国の王族だとしても、すぐには見つけられないはずだ。
「王家で紹介してほしいとも書かれているが、無理だな。
留学してくることは止められないが、
王宮にいる上位魔術師を二人も貸し出すのは許可できない」
「おそらく教師が見つからなかったとしても、留学してくるだろう。
目的はレオンに近づくことだろうから」
「そうよね……正妃候補だもの」
アンペール国の夜会ではほとんど会話することもなく、
近づかせることもなく終わったけれど。
やっぱりあれであきらめるわけはなかったようだ。
「滞在場所をどうするかだな。王宮内に滞在させるのは危険だ。
レオンに近づこうとするのは仕方ないにしても、
ルシールを狙うかもしれない」
「そんなことはさせない。
外交官が来た時に滞在する離宮を貸し出そう。
あそこなら学園に近い場所にある。
向こうも文句を言えないだろう」
「わかった。離宮の準備をさせておこう」
「準備にはどのくらいかかる?」
「護衛の配置をしなきゃいけないからな。
最低でも二週間はほしい」
「わかった。
一か月後なら受け入れると返事をしておく」
留学の受け入れは一か月後から。
滞在場所は王宮ではなく、学園近くの離宮。
そして、上級魔術師の紹介はできない。
魔術を習いたければ、自分たちで探してくれ。
こんな返事を隣国に送ったところ、
上級魔術師の紹介以外は承諾すると戻ってきた。
自分たちで上級魔術師を探すのは難しい。
こちらに到着した後で相談させてほしい、そんな風に書かれていた。
「それにしても学園か……。
学年が違うとはいえ、ルシールに接触しようとするよな」
「ルシールと仲良くなってレオンに会わせてもらおうとするかもしれない」
「ユリウス、女性騎士をルシールにつける話はどうなってる?
アルベール家で訓練させているんじゃなかったか?」
「女性騎士か……いまいち騎士としては頼りないんだけど、
つけておいたほうがいいよな。手配しておくよ」
「ああ、頼んだ」
女性騎士をつけるという話は以前からあった。
アルベール公爵家で訓練させているという事だったけれど、
女性騎士を育てるのは難しい。
成人して、結婚する頃には間に合うかと思っていたけれど、
その前につけることになるようだ。
今はジニーとガイオが私を守ってくれるけれど、
女性だけしか入れない場所もある。
そんな時は侍女たちがつきそってくれていたけれど、
王女と公爵令嬢が留学してきた場合は、
女性しか入れない場所も危なくなるかもしれない。
レオンとお兄様がそう判断するのも理解できた。
お兄様が女性騎士を連れてくる日、
どんな人なんだろうとワクワクしながら待っていると、
応接室に入ってきた人を見て、思わず立ち上がってしまう。
お兄様が連れてきたのは茶髪茶目の小柄な女性だった。
まるで子供かと思ってしまうほど小さい……
「え……?もしかして……」
「お嬢様!!リンです!!」
「やっぱり!リンなのね!」
それはジニーの妹リンだった。
「リンなら問題ないからな。
再び働く気があるかどうか聞いてみたんだ」
「あ、そうよね。もう嫁いで子も産まれたって」
「ええ、そうです。子どもたちも少し大きくなって、
私が日中働きに出ても大丈夫になりましたので!
お嬢様にお仕えできるのはうれしいです……」
久しぶりに会えたからか、リンの目が涙でいっぱいになる。
あれ、そういえば。リンが私をお嬢様と呼んだ。
「お兄様、リンには私のことを話してあるのね?」
「ああ。他の女性騎士に伝えるつもりはないが、
リンはわかっていたほうが動きやすいだろうと判断した」
「けっして、他の者には言いませんのでご安心ください!」
「ええ、リンのことは信用できるもの。
護衛についてくれるのはすごく安心するわ」
ジニーと一緒で小柄だけど力持ちで、何よりも信頼できる。
新しい女性騎士がリンでほっとした。
「あ、でも、リン一人なの?何人かいるのかと思っていたけど」
「今、最終面接をさせている」
「最終面接?レオンが?」
「いや、ガイオ」
「え?」
「ガイオとも一緒に行動することになる。
簡単に惚れるような女性騎士なら足手まといになる」
「そういう……一人でも残ってくれるといいけれど」
ガイオは口が悪いけれど、とても優秀で、
護衛騎士の上にレオンの側近としても扱われている。
そのため、領地なしの侯爵位が与えられている。
目が細いせいでいつも笑っているように見えるけれど、
容姿も整っていて、高位貴族らしい金色の髪。
その上、独身で婚約者も恋人もいない。
女性使用人が狙いたくなるのもわからないわけではないけれど。
ガイオがそれを望んでいないし、
私を優先することで嫉妬されても困る。
「ガイオに色目を使うことなく、
同僚としてやっていけると判断された者だけ、
ここに連れてくることになっているんだが。遅いな……」
「誰も残らなかったんじゃないかしら」
「そうなるとリンだけに負担が大きいな。
かといって、ガイオを外すわけにはいかないしな」
「もし一人になったとしても、頑張ってお嬢様をお守りしますよ!」
「それは心強いんだがなぁ」
そんな話をしていると、応接室のドアが開いた。
「つっかれったー終わったよ、ユリウス様」




