56.王宮の客室
レオンに用意された部屋は客室の中でも一番上等な部屋で、
侍従や侍女の待機室までついていた。
「俺とルシールはここを使うが、ジニーとガイオ、侍女も全員がここに待機できるな」
「なんだったら、私もここでいいな」
「ユリウスには別の客室が用意されているようだが?」
「一緒にいたほうが何かあった時に対処しやすいだろう?」
「まぁ、それもそうか」
という話し合いの結果、全員がレオンに用意された客室で過ごすことになった。
部屋数もあるし、安全面からもそのほうがいい。
アンペール国から見れば、警戒されているということでもあるから、
友好的には思われないだろうけど。
「最初からルシールを引き離そうとしてきたし、
今後も隙を見せたら何か仕掛けてくるはずだ」
「ルシールを正妃だと認めるつもりはないんだよ。
正妃候補を何人用意しているのかは知らないけれど、いるのは間違いない。
検査以外の行事に出ないと言ったから、慌てているだろう」
十日後の検査の前にレオンを歓迎する行事がたくさん書かれていた。
そのすべてに出ないと言ったのだから、相手はどう出るかな。
「こりずに誘ってくるかもしれないけど」
「俺は検査を早めるかもしれないと思ってる。
その後で夜会や公式行事に出席するように勧めてくるつもりだろう。
ルシールがいたとしても、俺が他の令嬢を選べはいいと考えていそうだ」
「この国は側妃がいて当たり前の国だったな。
レオンのしつこさを知らないんだろう」
「おい、しつこいとか言うな。一途って言えよ」
アンペール国の前国王には側妃が二人いた。
元第三王女は正妃からの生まれだが、第一第二王女は側妃から生まれている。
だからこそ、不吉な髪色でも公爵家に降嫁できた。
ジョアン公爵がそれを望んでいなくても。
今の国王にも側妃は一人いる。
王太子である第一王子にはまだ妃は一人のようだけど。
国王になる頃には側妃がいてもおかしくない。
王族の子は多い方が王家が強くなる。
そういう考え方なのだと思う。
一方のノヴェル国はだいたいは正妃のみだ。
龍人の血を持つ者は気質が一途なため、側妃を娶っても子が生まれることはまれだ。
例外として、唯一を持たないで女好きになる者がいる。
後宮を作ったという先代や、ペルラン公爵のような者だ。
まぁ、たまにそういう者がいるから、
龍人の血を持つ者の数が保たれているのかもしれないけれど。
それから三日間、晩餐会などの誘いを断り続けていると、
検査が早まるという連絡が届けられた。
予定よりも早く前王妃が王宮に到着するからだという。
「前王妃を急がせたかな」
「そうかもしれないな。
レオンがこんなにも外に出てこないとは思わなかったんだろうし」
私たちは用意された部屋から一歩も外に出なかった。
食事なども自分たちで用意できるし、
部屋の中にいても魔術具を持ってきているので大抵のことはできる。
アンペールの者の手を借りずに居心地の良い生活ができていた。
食事の際や、中庭の散歩など、外に出る機会があったとしたら、
そこには令嬢たちがいて、偶然の出会いを作られていたはずだ。
こちらとしては、わかっているのに出るわけがない。
二日後、準備をした私たちを迎えに来たのはアンリ王子だった。
私たちの接待役に決められているのかもしれない。
「五日間も部屋にいたそうですが、退屈ではなかったですか?」
「いや、仕事もあったからな。暇ではなかったよ」
「こちらに来てまで仕事ですか」
他国に来てまでと思っているだろうけれど、
ノヴェル国の執務室と魔術具でつなげて連絡はとれる。
これまで通りの仕事ができていた。
「祖父母は足を悪くしていますので、謁見室ではなく、
応接室での検査になりますが、かまいませんか?」
「場所はどこでもいい」
「それでは、こちらへ」
案内されたのは、広めの応接室だった。
中では高齢の男性と女性、中年の男性と若めの男性が待っていた。
その場にいた男性全員が金色の髪。
おそらく、前国王と国王、そして王太子。
パッと見て思ったのは、雰囲気がどこか私に似ているという事。
ペルラン公爵にも母である元王女にも似ていないと思っていたけれど、
アンペール国の王族の顔立ちだったようだ。
同じことを思っているのか、全員の視線が私に向けられていた。
「待たせたようだな。ノヴェル国国王のレオンハルトだ」
「あ、ああ。問題ない。アンペール国国王のアンドレだ」
国王同士が挨拶をし、アンドレ国王が前国王夫妻を紹介する。
元国王のアロイス様、そして元王妃のナディア様。
お二人とも高齢のために足が悪いそうで、ソファに座ったまま。
「わざわざ検査のために来てもらってすまないが、
ここにいるルシールと血縁者か検査をさせてほしい」
「その前に、どうして私だったのか、お聞かせください。
メリザンドの娘だというのなら、伯父であるアンドレや、
従兄のアルマンやアンリでも良かったのでは?」
「確実に血縁者だとしめしたかったからですよ。
あと、二度手間になるのはお互いの国のために良くないので」
「二度手間?どういうことかしら?」
「アンドレ国王とメリザンド元王女の父親が違う場合、
ルシールとの血のつながりが薄くて反応しない可能性がある。
その場合に母親と再検査をさせてくれと言うのは難しいからな」
「なっ……なんて無礼なことを」
「可能性の問題だ。そうなった場合、言い出すのはお互いのためにならない。
だから、そうならないように確実に検査できる母親をお願いした。
名誉のために検査をしたいというのなら、ナディア元妃だけでなく、
アロイス前国王とも検査してもいいのだが」
「では、そうしてください」
不貞を疑われたことが屈辱だったのか、ナディア様が真っ赤な顔で願い出た。
こちらとしてはナディア様が検査してくれれば、
アロイス様との検査はどちらでもいいことだ。
レオンの指示で魔術具が持ち込まれ、設置される。
「これはどういう魔術具なのだろうか。初めて見るな」




