52.マノン様の結婚
それから五か月後。
のんびりと過ごしていた私たちに、驚くことが知らされた。
「マノン様が嫁いだ?それって本当?」
「嫁いだ?婚約じゃなくてか?」
「はい。噂を聞いて確認してみたら、婚姻届けが王宮に提出されています」
「提出されてから俺が承認するまで時間がかかるからな。
俺が知らないということは、最近の話なんだな?」
「一週間前だそうです」
マノン様の結婚を報告してきたのは側近になった、
デュクロ公爵家のニクラス様だ。
次期当主として忙しいはずだが、
マリアンヌ様と離縁し、妹のリリアナ様と公爵夫人が領地に行ったことで、
ずいぶんと精神的に楽になったらしい。
レオンの側近になったのは解放してくれたお礼だそうだが、
そのニクラス様が驚いた様子で報告してくれたのには理由があった。
「その……相手というのが問題で」
「社交できない令嬢を娶るくらいだから、地方貴族か?
それとも跡継ぎに困っている下位貴族あたりだろう?」
「いえ、ペルラン公爵なんです」
「は?」
え?ペルラン公爵?聞き間違いじゃないよね?
そう思ったのは私だけじゃなかった。
「ペルラン公爵令息か?だが、まだ十五歳になってないよな。
来年、学園に入学すると思っていたが。
やはり婚約の間違いか?」
「令息ではなく、公爵本人なんです」
「は?……本気で?」
「本気です」
ペルラン公爵って何歳だった?
一番上の子が二十八歳のマリアンヌ様だから……五十歳近いってこと?
「どういうことなんだ?」
「元妻の実家なので、縁を切ったとはいえ、噂は入ってきます。
それで公爵が再婚したと聞いたので、相手を調べてみたらマノン嬢でした」
「本当に本当なんだな……意外だった。
モーリア侯爵は娘を可愛がっていると思っていたが。
使いものにならなくなったからといって後妻として嫁がせたとは」
「これも噂の範囲ではありますが、嫁ぎたいと言い出したのはマノン嬢だそうです。
モーリア侯爵は泣いて止めたけれど、他に嫁ぎ先がないのは事実なので、
止めるに止めれなかったのだとか」
「……マノン嬢は何を考えているんだ?
そこまでして結婚したかったのか?」
ずっとレオンを追いかけていたのに、どうしてペルラン公爵に。
皆が首を傾げる中、お兄様だけは意見が違った。
「陛下に断られてからは側近の妻でもいいと言っていただろう。
あれはどうしても高位貴族に嫁ぎたかったのではないのか?
一応は公爵家だからな。公爵夫人ではある」
「貴族順位は低いぞ?」
「だが、ペルラン公爵は龍人の血を持つ者でもある。
王位継承権は持っているだろう。
もしかしたら、次の国王の母になれるかもしれないぞ?」
「そういうことか。次世代の中で龍人の血を持つ者はいないからな」
レオンの代で龍人の血を持つ者はレオンとお兄様のみ。
その下には誰もいない。
元アルベール公爵であるお父様もそうだけど、
お母様と別れて再婚する気はないだろうから、
お父様の子が生まれてくる可能性はない。
「次世代が生まれてくるのは陛下か俺の子だろうと思っていたが、
もしかするとペルラン公爵家にも生まれてくるかもしれないな。
マノン嬢の魔力量なら問題ないはずだ」
「マノン様はそれを望んでペルラン公爵に?」
「ユリウスの考えが正しいのならばあの行動も理解できる。
俺の妃になりたかった理由もそれだったのかもしれないからな」
自分の子が国王になるのが夢だったとしても、
三十も年上の後妻に自分からなりたがるだろうか。
年齢さえ気にしなければ、ペルラン公爵は女性にもてる容姿をしている。
可愛らしいマノン様と似合わないわけではないけれど。
一応は自分の父親でもある公爵がまだ若いマノン様と結婚すると思うと、
気持ち悪いと感じてしまうのも仕方ない。
「まぁ、本人が良いというのならいいだろう。
社交ができない妻でも後妻だしな」
「たしかに本人たちがいいのなら身分的にも問題はないのよね。
でも、子が生まれたとしたら嫡子はどうする気なのかしら」
「どうだろうな。子が生まれたら変更するかもしれない。
こちらがどうこう言う事でもないし、様子見するしかないが」
「そうね……」
無理やりの結婚ではないし、貴族の結婚として考えるのであれば、
問題を起こして社交できない令嬢を後妻として嫁がせるのはよくあること。
マノン様が納得しているのならいいことにしよう。
「たとえ龍人の血を持つ子が生まれたとしても、
貴族順位があがらないかぎり、意味はないだろうけどな」
「それはそうね」
国王になることができるのは、一番貴族順位が高い龍人の血を持つ者だ。
レオンが国王を降りたとしたら、お兄様が国王になるだけ。
お兄様がいなくなったとしても、お父様がいる。
ペルラン公爵家に順番が来ることはない。
「今は龍人の血を持つ子がいなくても、
どこから生まれてきてもおかしくはないしな」
「陛下、それは……」
「俺やレオンだけじゃない。
龍人の血を持つことを公表していない者もいるだろう」
「え?そんなこと許されるの?」
「魔力鑑定の結果を隠すことができる以上、
それも公表していない者もいるだろう」
「そうなんだ」
公表すれば王位継承権を持つことになる。
だけど、貴族順位が低い家に生まれてしまうと、
上位の家から養子にしたいと希望されることもあるという。
それを恐れて公表しないこともあるそうだ。
「じゃあ、意外といるかもしれないのね」
「そうだな」
レオンかお兄様の子が王位継承権を持たなかったら、
マノン様の子が次の国王になるかもしれないという不安は、
それほど気にしなくてもいいようだ。
ほっとしていたら、空気を読まないガイオがバタンとドアを開けて入ってきた。
「悪い、寝坊しちゃってさ」
「お前、王宮内で寝泊まりしてるくせにどうして寝坊するんだ」
「ちょっと夜更かししてたんだよ」
「側近になったのなら、少しは気をつけろ」
「へいへい」
いつも通りの受け答えに、話題は全く違うものへ変わっていった。




