51.マノン様への処罰
いつもより起きるのが遅くなったのは、
昨日の夜にバタバタしていたせいだ。
マノン様が部屋に忍び込んでくると情報を得て、
捕まえるために眠るのが遅くなってしまった。
レオンと執務室に向かうと、
もうすでにお兄様は仕事をしていた。
「お兄様、もう仕事していたの?」
「なるべく早くモーリア侯爵を呼べと誰かさんが言うんでね」
「どこからか情報が洩れてしまうかもしれないからな。
騒がれる前にさっさと処罰を決めてしまいたいんだ」
なるほど。モーリア侯爵家はそこそこ力のある家だ。
マノン様を処罰すると知ったら、
いくつかの貴族家も巻き込んで抗議しにくるかもしれない。
その前にお兄様が証拠もそろえ、処罰してしまうらしい。
「いつ呼べる?」
「昼過ぎには呼んで構わないよ」
「わかった」
「ねぇ、マノン様はどうしているの?」
「朝方まで牢から出せと騒いでいたらしい。
今頃は疲れて寝てるんじゃないか?」
「そう」
もしかしてマノン様はまだ自分のしたことを理解していないのかも。
貴族牢に入れられたのに、何も処罰せずに出すことはありえないのに。
レオンの部屋に忍び込んできたのは事実だし、
その前に賄賂の件や自死すると騒いだこともある。
どれだけ厳しい処罰になるのかな……。
「ルシールも立ち会うか?」
「え?モーリア侯爵に伝えるのに?」
「ああ。部屋にはルシールもいた。
俺だけじゃなく、ルシールへの不敬もあるからな」
「それもそうね。じゃあ、私も立ち会うわ」
「わかった」
モーリア侯爵家へ召喚状を送り、早めに昼食をとる。
食後のお茶を飲んでいたら、モーリア侯爵が王宮に着いたと知らせが来た。
「早いな」
「驚いて飛び出してきたのかもね」
「それはありそうだな」
準備を整え、謁見室に向かう。
レオン、私、お兄様の順で謁見室に入ると、
そこには頭を下げたままモーリア侯爵が待っていた。
椅子に座った後、レオンが声をかけた。
「顔をあげよ」
「はっ」
マノン様のことを知らされているからか、顔色が悪い。
「なぜ呼び出されたのかは聞いたな?
これから処罰を言い渡す」
「……陛下、発言をお許しください」
「なんだ?」
「……あの、何かの間違いということはないのでしょうか。
娘が貴族牢に入れられるようなことをするとは信じられず」
「信じられない、か。何をもってそう言うのだろうな。
マノン嬢は昔から無礼なふるまいや自分勝手な言動が目についていた。
侯爵にも何度か警告したはずだな?」
「……あれは子どもの時のことですから」
「そこから成長していないという事だろう」
自分が特別扱いされていると思い込んでいたのか、
マノン様はレオンとお兄様に対して馴れ馴れしかった。
学園に入る前ならばともかく、準成人してからも、
後宮に入り成人した後も、あまり変わっていないようだった。
だが、父親の侯爵の前では違ったのかもしれない。
「あの子は病気がちで大人になれないかもしれないと言われていて。
そのせいで少し甘やかしてしまったとは思っておりますが。
素直で優しくて、とてもいい子なのです。
何か勘違いされて牢に入れられることになったのでは……」
「側妃になれなければ死ぬと騒ぎ、後宮女官長に賄賂を贈り、
王宮の俺の部屋に夜這いをかけてくる……。
これが素直で優しくていい子なのか?」
「そんなことを!?」
具体的な話までは聞いていなかったらしい。
レオンは近衛騎士に指示を出して、布袋を二つ運んでこさせた。
「これが二人に贈った賄賂だ」
「……こんなに?」
「二人には受け取ったふりをしておけと命じていた。
実際には日時と額、見返りに何を求められたかを記録し、
俺に報告することになっていた。
王宮に忍び込む手伝いをするように言われたそうだ」
「それは……初めから疑われていたということでしょうか?」
「マノン嬢だけを疑っていたわけではない。
側妃候補すべてに同じ対応させていた」
「そうでしたか……それで、あの……娘はどうなるのでしょうか?」
もう言い訳はできないと観念したのかもしれない。
覚悟が決まったような顔で侯爵が聞く。
「こちらとしてもそこまで厳しい処罰はしたくない。
だが、内々ですますことはできない。
あの時、部屋には俺の妃になるルシールもいた」
「なんとっ」
「わかっているだろうが、俺に対する不敬罪とは別だ。
隣国の王家の血を引く者がいる部屋に不法侵入したのだからな」
「……申し訳ございません」
完全に血の気が引いた顔で、侯爵が床に額をつけた。
「どうか、命だけは……」
「処刑することはしない。
侯爵が家に連れて帰れ。側妃候補として失格だ。
そして、今後王宮に立ち入ることは許さない」
「……はい」
「王宮以外の夜会やお茶会へも出席は認めない。
俺やルシールに関わろうとすることは何があっても許さない。
もし、破るようなことがあれば、今度はモーリア侯爵家に処罰を与える」
「……わかりました。寛大な処分を感謝いたします」
「ああ」
この数分で何歳も年を取ってしまったような侯爵は、
近衛騎士に付き添われてマノン様を迎えに行った。
「永久に社交が禁止されるのはつらいでしょうね」
「そのくらいで済むのだから、軽いだろう。
社交が禁止されなかったとしても、
後宮から追い出された令嬢を娶る家はないだろうが」
ということは、マノン様は嫁ぐこともできず、
ずっとモーリア侯爵家で暮らすことになる?
ほんの少し可哀想に感じるけれど、
マノン様はやりすぎてしまったのだと思う。
王宮に忍び込んでくるような真似をしなければ、
もっと穏便な方法で後宮から出されたはずなのに。
でもこれでレオンの負担は減るはず。
後宮に残っているのはティナ様だけ。
月に一時間だけ我慢してお茶を飲んでいれば終わるのだから。
少ししてマノン様が王宮を出たと報告が来た。
後宮につきそってきた使用人たちも引き上げ、
荷物もすべて侯爵家に持ち帰られたそうだ。
それから五か月後。
のんびりと過ごしていた私たちに、驚くことが知らされた。
「マノン様が嫁いだ?それって本当?」




