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幸せになるために私ができること  作者: gacchi(がっち)


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49.命をかけての脅し(レオンハルト)

「待ってください!

 レオンハルト様の側妃になれないのなら、

 私は、ここで死にます!!」


「……は?」


「私は本気です。

 ずっとお慕いしていたレオンハルト様の妃になれず、

 無理やりどこかに嫁がされてしまうくらいなら、

 今ここで死なせてください」


何を言い出すのかと思えば、脅しか。

呆れてしまっていたら、マノン嬢は手を差し出した。


「その手はなんだ?」


「レオンハルト様の短剣をお貸しください」


ここでようやく気付いた。

マノン嬢がなぜこんなことを言いだしたのか。


ルシールが俺の短剣で首を切ったことを知っているんだ。

そして、俺がその脅しに弱いと思っているらしい。


何をどういう風に聞いたのかはわからないが、

ルシールが正妃候補になったのは、命をかけて願ったとでも思っているのか。


たしかにルシールには短剣を渡した。

だが、ルシールに願われて貸したわけではない。


「なぜ、マノン嬢に短剣を貸さなくてはならないんだ。

 これは国王の証でもあるんだぞ?」


「……死ぬのならレオンハルト様の剣でと思い」


「ダメだ。国王の証をそうそう他人にふれさせるわけにはいかない」


マノン嬢がルシールのことを言い出すのなら、

どこからそれを知ったのか聞き出さなくてはならない。


あの件が他に知られたら、ルシールの評判が悪くなってしまう。

せっかく社交界で認められ始めたのに、

こんなことで水を差されたくない。


マノン嬢もどこからそれを聞いたのか問い詰められたら困るのか、

ルシールのことは口にしなかった。


「……でも、側妃になれないのなら死んでもいいと思っているのは本当です。

 ずっとずっとお慕いしていたのに、あきらめることなんて」


「そうか。誰か、剣を貸してやれ」


国王の証でもある飾り短剣を渡すことはできないが、

ここには近衛騎士が六人もいる。


近くにいた騎士に視線を合わせると、マノン嬢に剣を差し出す。

と、同時に他の五人は抜刀して俺を囲んだ。


もし、マノン嬢が逆上して俺を襲ったとしても、

その前に切り捨てるつもりなのだろう。


目の前に剣を置かれたマノン嬢は震えた手でそれを拾い上げた。

本気で死ぬつもりだろうか。


ルシールの時、止めようとしたのは、

俺が自ら剣を差し出してしまったからだ。

本気で死ぬ気の人間に武器を与えてしまったという後悔と、

幼い子をそこまで追い詰めてしまった責任もあった。


本来、令嬢が国王を脅すなどあってはならない。

しかも、自分の命を盾にするような真似は許されない。


ここでマノン嬢が死んだとしても、

責められるのはマノン嬢で、責任を取らなければいけないのは、

生家であるモーリア侯爵家だ。


マノン嬢はそのことをわかっているのだろうか。


ゆっくりとした動作で剣を鞘から抜く。

重いのか、持ち上げようとしてよろめいている。


庇護欲を掻き立てようとしているのかもしれないが、

ここに連れてきているのはあの香にも動揺しなかった鋼の精神の者ばかり。

皆が冷たい目で見ていることに気づいているだろうか。


「……死んでもいいのですね」


「そうしたいのだろう?」


「そうしたいのではなく、

 レオンハルト様の妃になれないのなら死ぬと言っているのです!」


「そうか。俺はルシール以外を娶る気はない。

 その返事は変わらない。マノン嬢がそれで死にたいというのなら止めはしない」


「っ!!」


さすがにその返事に傷ついたのか、涙がぽろりとこぼれ落ちた。

それでも意味もなく優しくするつもりはない。


何が起きても自分の妃にすることはないのだから、

その答えを変えることはできない。


「……わかりました。死にます」


何か俺が言うのを待っていたのかもしれないけれど、

何も言わずにじっと見る。


本当に死ぬというのなら、見送るくらいはしよう。

そう思っていたが、いつまでたってもマノン嬢は動かない。


そろそろ近衛騎士たちがじれったく思っているだろうな。

そう思って、ため息をついた。


それに反応したのか、マノン嬢の肩がびくっと動く。


「もういいか、剣を近衛騎士に返せ」


「いえっ。私は本気です!!」


そんな気はないだろうに、自分の首に剣を当てた。


近衛騎士の剣は手入れがされている。

すっぱりと切ったら、助からないだろう。


どうするつもりなのかと思っていたら、手が震えたのか、

首に一筋の傷がついて血が流れ落ちる。


「ひっ……」


全員がそれを見ても何も言わない。

助けようともしない。


あの時、迷いなく剣をひいたルシールとは大違いだ。

本気で死のうとしている人間にはまるで見えない。


「本気で死ぬ気があるなら、早くしてくれ。

 俺は忙しいんだ。

 こんな茶番につきあっている場合じゃない」


「茶番だなんてっ」


「じゃあ、早くしろ」


「……」


マノン嬢は剣を見て、悩んでいるようだったけれど、

ほんの少しだけ剣を動かしたら、「痛っ」と叫んで剣を落とした。


動いた拍子に少しだけ切ったようで、血がだらりと流れている。

だけど、死ぬような怪我じゃない。


剣を落とされた近衛騎士の眉がぴくりと動く。

大事な剣をあんな風に扱われて、申し訳ないことをしたな。

この騎士にはあとで新しい剣を届けさせよう。


「できないのだろう。もういいか?」


「……どうして止めてくださらないのですか!

 私の命を惜しいと思ってくださらないの!?」


「俺は自分の命をそんな風に脅しに使う者は嫌いだ。

 言い出した時点で死んだとしてもどうでもいいと思っていた」


「そんな……私は命を懸けてもいいと思っただけで」


「実際にはできなかっただろう。

 口先だけだ。みっともない。帰るぞ」


最後の言葉は側近や近衛騎士に向けたものだが、

去るのがわかったマノン嬢は俺に縋りつこうとする。


「レオンハルト様!行かないでっ!!」


だが、すぐに近衛騎士たちに取り押さえられる。


部屋を出てからも、マノン嬢が叫んでいるのが聞こえたが、

無視して王宮へ戻る。


これでようやく終わった。

あとは侯爵に迎えに来てもらって、後宮から出すだけ。


執務室に戻り、ルシールに頭を撫でてもらいながらお茶を飲んでいたら、

アミーナが今日の報告に来た。


「あの後、マノン様から指示がありました。

 今までの賄賂の分、お願いを聞いてほしいと」


「なんだと?」






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