46.企み(ペルラン公爵)
王宮からの書簡はその日のうちにきた。
対応が早すぎる。すべての準備を終えた状態で離縁したということなのか。
おそるおそる中を確認して、ほっと息を吐いた。
予想よりもずっと処罰が軽いことに安堵する。
「あなた……どうでしたか?」
「マリアンヌは今後一切の社交を禁じられた。
もちろん、王宮に行くことも他の貴族と交流することも許されない」
「そんな……では、再婚も」
「無理だろうな。領地に送ることにしよう」
「ああ……」
嘆く妻には、もう一つのほうが堪えるかもしれないな。
「ペルラン公爵家の謹慎期間が延びた。
あと三年、合計で六年も謹慎することになる」
「六年も!!」
「だが、マルティンだけは一年だそうだ。
十五歳になれば学園に行ってかまわないと」
「本当ですか!」
「ああ。あくまでも罪は私にあるという判断なのだろう。
これに抗議すれば、マルティンの学園入学許可も取り消されるかもしれない。
おとなしくこの処罰を受け入れよう」
長男マルティンの学園入学まで取り消されなくて良かった。
これでマルティンが跡継ぎになる道は閉ざされないことになる。
ほっとしたけれど、やはり処罰に納得できないのか妻が泣き崩れている。
「どうしてこんなことになってしまったの……。
あなたが香など作らなければ良かったのに。
隣国になんて売りに行けなければ王女と子など作らなかったのに」
ルシールを連れて帰ってきたことをまだ根に持っているのか、
そんなことをつぶやいている。
私だって意味もなく他の女と子を作ったわけではない。
「お前がきちんと龍人の血を持つものを産んでくれたら、
私だって他の女を相手にしなくても済んだのだ」
「私のせいだっていうの!?」
「産めなかったのは事実だろう。
二人も産んだのに、たいして魔力も多くなかった」
「ひどいっ……子供たちまで馬鹿にする気なの!?
それに、あなたが女遊びするのは結婚前からじゃない!」
「私は龍人の血を持つ特別な存在なんだ。
女に求められるのは仕方ないことだろう。
それはお前もわかっていて結婚したはずだ」
「でも、だからって……他の女に子を産ませるなんてっ」
「お前だけがひどい目にあったような顔をするなよ。
きちんと龍人の血を持つ跡継ぎが生まれていれば、
私だってこれほどまで苦労することはなかったのに」
「!!」
「もう少し魔力の多い女を妻にするべきだった。
第三王女を妻にしていたら良かったかもしれないな」
「……」
言い過ぎたかと思ったが、こちらとしてもずっと言いたいのを我慢していた。
容姿は悪くないが、貴族らしい傲慢な性格。
下位貴族をいじめている時の醜悪な表情。
他にちょうどいい相手もいなかったから、ずっと見て見ぬふりをしてきた。
初めてぶつけた本音に耐えられなかったのか、泣きながら部屋から出て行った。
私には他の者にはない、大事な使命がある。
この国に龍人の血を持つものは四人しかいない。
私、アルベール公爵家の元当主、現当主ユリウス、そして陛下。
陛下もユリウス殿も公爵令嬢を亡くしたことで、誰にも興味を持てないようだった。
ならば、私が龍人の血を増やさなくては、この国は終わってしまう。
妻がきちんと龍人の血を持つ子を産んでいれば、問題なかったのだ。
だが、二人とも平凡な魔力しか持たず、次世代にも受け継がれる可能性はない。
三人目はもう産めないだろうと医師に言われ、妻に産ませるのはあきらめた。
それからたくさんの夫人や令嬢と子を作ろうとしたが、
魔力の差がありすぎると子が生まれにくい。
魔力の多い高位貴族は簡単には不貞しない。
そんな時に隣国の第三王女に出会った。
恐ろしいほどの魔力を持つ彼女は夫に嫌われていた。
まさか公爵とは白い結婚だったとは思わなかったけれど、
口説かれ慣れていない彼女は簡単に俺の手に落ちた。
元王女なだけあって財力だけはあったから、
別宅で暮らす彼女のもとを訪れても誰にも知られないですんだ。
夫とはほとんど交流していないからか、子を産んでも気がつかれていなかった。
本当は男児を産んでもらいたかったけれど、
ルシールが生まれる少し前に隣国との同盟が結ばれた。
龍人の血を持ってはいなかったけれど、魔力量は多かった。
この子なら孫の代で龍人の血を持つ子が産まれるかもしれない。
それに隣国の王族の血をひいている。
私の娘は、陛下の正妃になれる。
第三王女が死ななければ、五年後に隣国の公爵令嬢としてお披露目する予定だった。
夫であるジョアン公爵の弱みは握っている。
二女として認知させ、私は実の父親として権力を握るつもりだった。
それがほんの少し早まったけれど、ルシールは無事に陛下の婚約者になれた。
あとは私が後見になり、権力を持つはずだったのに……。
なぜ、こうなってしまったのだろうか。
香も隣国で問題視された時にすべて処分させれば良かった。
まだ何かに使えるかもしれないなど思ったのが間違いだった。
ペルラン公爵家に厳しい処罰が来なかったのは、
責任の所在をはっきりさせたくなかったのだろう。
隣国からこの国の王家に責任をとれと言われかねない。
処罰が軽かったのはいいが、六年間も謹慎していれば社交界に疎くなる。
そうなれば再び権力を持つことも難しくなる。
今回のことは、妻に責任がある。
何も考えずにマリアンヌに香を渡したのだから。
その責任を取って、妻とは離縁しよう。
どうせもう子も望めないような妻だ。害になるようなら、切り捨ててしまおう。
それでペルラン公爵家として責任を取ったことにしよう。
これ以上、香のことを調べられたら、あの件まで気づかれてしまうかもしれない。
騒ぎにならないように、水面下でペルラン公爵家の復権のために動かなくては。
そうだ、あの令嬢を使うか。
あの令嬢だって、あのことを知られたらまずいだろうからな。
私のために動いてもらうことにしよう。




