40.追い出される者
香を調べたら何か出るだろうと思っていたけれど、
分析はうまくいかなかったらしい。
分析していたラルフからはわからなかったと報告が来た。
「香そのものを入手できれば分析できるかもしれませんが、
香の匂いだけでは難しいようです」
「香を手に入れればいいのか」
「ですが、手に入れるのも難しいかと」
「販売元はわかったのか?」
「……ペルラン公爵家でした」
「は?ペルラン公爵家が?そうかマリアンヌは実家から手に入れていたのか」
あの香の発売元がペルラン公爵家だったとは。
それでは入手するのは難しいかもしれない。
「アンペール国では流通しているのだろう?
そちらから手にいれることはできないのか?」
「それが、調べたらアンペール国でも手に入れにくい状態になっているようです。
公爵が自ら売りに行っていたようで、それができなくなったからと」
「ペルラン公爵がアンペール国に度々足を運んでいたのは知っていたが、
元王女との逢瀬が理由だと思っていた。
香を売るために行っていたのか」
「レオン、それはわからないわよ。
香を売るという理由を隠れ蓑にしていたのかもしれない。
元王女が亡くなったことで会いに行く必要がなくなったから、
香も売らなくなったのかもしれないわ」
「それはあり得るな」
販売目的なのか、逢瀬が目的なのか。
もしくはその両方かもしれないけれど、公爵から聞くことはできない。
三年間の社交を禁じているのだから、こちらから近づくこともできないからだ。
「マリアンヌ様に香を聞けば怪しんでいるのが知られてしまうでしょうし、
どうにかして手に入れることはできないかしら」
「アンペール国で残っていないかどうか調べてみます」
「そうか。頼んだ」
引き続き香についてはラルフに調べてもらうことにし、
今後も警戒は続けることになった。
レオンは後宮に行くたびに嫌がり、疲れて帰ってくる。
その間、私は仕事をしながら待つしかない。
ユウリとラルフは後宮に連れて行くと三日ほど疲れて寝込んでしまうことから、
近衛騎士を交代で連れていくことにしたようだけど、
意外にも近衛騎士たちの間では後宮へ行く仕事は人気になっていた。
「仕事をさぼれるからかしら」
「どうだろうな。
後ろに立っていなきゃいけないから、それほど楽ではないと思うが」
「それもそうね。美しい令嬢たちが見られるからかしら」
「まぁ、それはあるかもね。
俺は側妃候補たちはあんまり綺麗だとは思わなかったけど」
「ガイオが思う綺麗な令嬢ってどんな人?」
「……教えない」
いつもはっきり話すガイオがめずらしく口ごもる。
話したくないなら無理に聞き出すことはしないけれど、
こんな顔をするガイオは見たことがない。
「ルシール、陛下がそろそろ戻ってくると思う。
出迎える用意をしたらどうだ?」
「ええ、そうね。そうするわ」
気まずい雰囲気を変えようとしたのか、お兄様が話題を変えてくれた。
ほっとしたようなガイオを見て、今後はこの話はしないようにしようと思う。
そうこうしているうちに側妃候補が後宮に来てから一年が過ぎた。
あともう少しでゴーシュの妹ルリアナ様が二十歳になる。
後宮を追い出されることになるのだけど、
ルリアナ様はそれを忘れているのか焦る様子はない。
問題を起こして辞めさせることは可能だけど、
ゴーシュの家クインツ伯爵家に影響が出るのは避けたい。
「ゴーシュ、ルリアナ嬢は予定通り領地に直接送ればいいのか?」
「そうしてもらえると助かります。
領地のほうにルリアナを住まわせる離れを作ったそうなので」
「素直に後宮から出ていくとは思えないが、
あまり騒がれると処罰しなければいけなくなるな……」
「家の方に処罰が来なければ問題はありません。
少々手荒に追い出してくれてもいいですよ。
王宮で騒ぎを起こしたとして領地に閉じ込めますんで」
「多少はもめたほうがいいという事か。
わかった。アミーナに伝えておこう」
もうすでに後宮から出て行ってもらう日は決まっている。
本人にそれを告げないのは騒がれたら面倒だからだ。
最後の面会の日までルリアナ様はそれに気づかずに、
レオンに気に入られようと親しげに話しかけていたらしい。
後宮から退去する日、予定時間を過ぎてもアミーナからの報告は来なかった。
様子を見に行ったゴーシュも戻ってこない。
心配していたけれど、レオンや私が見に行くのは難しい。
結果として報告が来たのは四時間後のことだった。
疲れ切った様子のアミーナの代わりに説明してくれたのはゴーシュだった。
「無事にルリアナは退去しました」
「ずいぶんと時間がかかっていたようだが、何かあったのか?」
「ルリアナが嫌がりまして……いえ、嫌がるのは予想していたのですが、
寝室に閉じこもり……服を脱ぎすてまして……」
「はぁ?服を脱いだ?」
「裸では追い出せないだろうと……」
「私の力では無理にルリアナ様に服を着させることができず、
使用人たちもおろおろするばかりで手に負えず……」
「アミーナや使用人ではどうにもならなかったところに私が行ったのですが、
いくら兄であっても裸でいる側妃候補の部屋に押し入るとは何事かと言われ」
「まぁ、それはそうかもしれんが」
二十歳の令嬢が裸で部屋に立てこもっていたなんて。
あまりのことに何も言えない。
アミーナとゴーシュが疲れ切った顔をしていたわけだ。
「結局どうやって追い出したんだ?」
「使用人を屋敷に帰しました。
ルリアナにはここに残っても使用人もいないのにどうするんだと」
「それで納得したと?」
「それでも説得に一時間かかりましたけどね。
食事もでない、湯あみもできないとわかるとあきらめたようです。
おとなしく用意した馬車に乗りましたので、そのまま領地に送りました」
「そうか。お疲れだったな」
「いえ、こちらのわがままで後宮に一年置いてもらったのですから。
本当にありがとうございました。
無事に弟の婚姻もすみまして、父も安心していました」
「それは良かったな」
これでクインツ伯爵家も代替わりの心配がなくなったわけだし、
側妃候補が一人減ったことでレオンの負担も少し減ることになる。
だが、このことで側妃候補たちは焦り始めたようだ。
本当に二十歳をこえたら後宮から追い出されるとわかったからだ。




