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幸せになるために私ができること  作者: gacchi(がっち)


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39.気になる香

「ルシール?どうしたんだ?」


「この匂い、どこかで嗅いだことがあるの。

 なんだか嫌な感じで、でも、それがどうしてなのか思い出せなくて」


「嫌な感じ?この香を嗅いだ時、魔力が揺らいだんだ。

 だから、何かあるんだと思って調べさせている」


「魔力が?」


魔力に干渉してくる香なんて聞いたことがない。

いったいどういう意味があるんだろう。


「最初は媚薬か何かの効果があるのかもしれないと思ったんだが、

 特にそういう気分になることもなかった。

 ……まぁ、結果が出なければわからないが」


「そう……」


どういうことかと悩んでいれば、後ろからのんきそうな声がかかる。


「なぁ、その香がどうかしたのか?

 なんでそんなめずらしくもないもので騒いでるんだ?」


「え?めずらしくない?」


「ああ、アンペール国ではよくある香だけど、

 もしかしてこっちの国は流通していないのか?」


「どういうことだ?というか、なんでガイオがここにいるんだ」


歩きながら話しているうちに私室に入っている。

二人きりの時は使用人たちは気を使って人払いしてくれているのに、

ガイオは部屋の中までついてきたらしい。


「いや、なんでって逆におかしいだろ。

 護衛が勝手に離れるわけないんだから」


「……それもそうか?」


「あらかじめ部屋に入ったら離れろとか指示があれば別だが、

 俺は姫さんから離れるなとしか指示されていない。

 それなら部屋に入っても護衛するに決まってる」


「それはそうだな。……悪かったよ」


いつもジニーは使用人たちと一緒に下がっていたから気にしていなかったけれど、

護衛としてはおかしなことなのかもしれない。


指示しなくても周りが動くことに慣れていたけれど、

本当はそうではいけないことに気づく。


レオンも同じだったようで気まずそうな顔をしている。


「わかった。今度からはもう少し丁寧な指示を出す。

 で、今はこの香について聞きたい。

 これは隣国ではめずらしくないんだな?」


「ああ。俺が隣国に行った十年前にはもう流行り始めていた」


十年も前から流行っていたのに、

この国では流行らないというのはおかしなことだ。


この香が媚薬なら、この国でも流行っていてもおかしくない。

ましてやレオンなら使われていてもおかしくないのに。


「本当にこの国では流行っていないのか?」


「この国で、というか俺は初めて嗅いだ匂いだった。

 この香は媚薬なのか?」


「いや、媚薬ではない。そこまで強いものではないんだ。

 この香は気持ちが少し高揚するだけ」


「高揚?」


「ああ。気持ちが高揚すると、一緒にいる者を好きかもしれないと思うだろう?

 これは軽い惚れ薬として流行ったんだ」


「本当に強い効果はないものなんだな」


レオンだけじゃなく、ユウリとラルフも平気だったということは、

強い効果がないのは本当なんだろうと思う。


「最初は惚れ薬として広まったんだけど、

 これを使うってことは、そういう関係になりたいってことだろう?

 令嬢たちが好んで使い始めたんだ。あなたが好きですと伝えるために」


「そういう理由ならわからないでもない」


「だが、夜会で使うと、身体の関係になりたいという合図になる」


「か、身体の関係?」


大人たちが夜会でそういうこともするというのは知っている。

休憩室が設けられているのはそういうことだと。


だけど、そういうことを想像させるようなことを言われると動揺してしまう。

ガイオは慣れているのか平然と説明している。


「やっぱり女側からはそういうの誘いにくいだろ?

 だから香をたいた休憩室に招くことで誘っている合図になるんだ」


「夜会の場で使っても問題にはならないのか?」


「媚薬じゃないし、男側はそんな気になれなかったら部屋から出ればいい。

 強制的にそういう気にさせられるのならともかく、

 ほんの少し気持ちが高揚するだけなんだ。

 嫌なら断れるんだから、問題になんてならない」


「そういうことなら理解できる。

 それで、隣国では誰もが知っている香だと?」


「誰もがではないな。貴族なら知っている。

 令嬢も令息も、一度は嗅いだことがあるだろう。

 というか……おかしいな」


「何がだ?」


「この香の産出国ってこの国だと聞いていた」


「は?」


「だから、なんでこの国で流通していないんだかわからない。

 法的な問題でもあるのか?」


「……いや、それくらいの効果なら問題ないはずだな。

 香を調べさせるのと同時に販売元も調べさせよう」


この国で作られているのなら、デュクロ公爵家が持っていてもおかしくはない。

だけど、流通していない香だというのなら、疑問は残る。


「デュクロ公爵家が製造に関わっているのかしら」


「それはありえるが、その場合この国で売らない理由がわからないな。

 強力な媚薬効果があるのなら制限するのはわかるが」


「そうよね……」


結局、調べなくては何もわからない。

ただ、調べる必要がありそうだというのはわかる。


「ガイオ、今日はもういいぞ。助かった」


「じゃあ、帰るわ」


「ありがとう、ガイオ」


「ああ、お休み、姫さん」


指示が出たからか、ガイオは手を振って部屋から出て行った。


「護衛として雇ったんだが、情報源としても役に立ちそうだな」


「私も思ったわ。十年もアンペール国にいて、貴族相手に護衛していたのなら、

 もっといろんなことを知っているのでしょうね」


「そうだろう。普段からそばに置いてみるか」


「……あの口調でもめなければいいけど」


「どうしようもなくなったら身分を明かせばいい。

 王家と対等とは言えなくても、それなりの身分だ。

 他の者たちの不満は抑えられるだろう」


それはたしかにそうなんだけど。

家から逃げてきているのだから、明かすのは嫌がりそう。


「もう少し落ち着いたら湯あみをして寝よう。

 精神的に疲れたからか、なんだか身体もだるいんだ」


「今日は本当にお疲れ様」


香の匂いを気にしてか、レオンが私をそっと膝から降ろした。

それが少し寂しくて、使用人たちを呼び戻して湯の用意を早めにしてもらうことにした。








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