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幸せになるために私ができること  作者: gacchi(がっち)


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38.レオンンのいない執務室

嫌そうな顔を隠さずに後宮に向かうレオンに手を振る。

背中を見てもわかるくらい、嫌なんだろうな。


側妃を娶らないためには仕方がないとはいえ、

できれば令嬢たちに会いたくないに違いない。


見送った後は、いつものように王妃の仕事を始める。


これまでレオンが国王の仕事と兼任していたせいで大変だったようだけど、

私の仕事はお兄様も手伝ってくれるからそれほどでもない。


まだ社交はできないけれど、そこはお母様が頑張ってくれている。


最初はペルラン公爵家の縁者として敬遠されていたけれど、

今ではアルベール公爵家の養女として少しずつ受け入れられてきている。


早くレオンの正妃として認められるように頑張らないと。


黙々と三時間ほど仕事をしていたら、飽きたのかガイオが話しかけてくる。


「なぁ、姫さんは嫌じゃないのか?」


「え?」


「いくらその気がないとしても陛下が後宮に行くの、嫌じゃないのか?」


「ああ、そうね。嫌だと思うわよ。

 でも嫉妬するというよりかはレオンが嫌な思いをしているだろうから」


「嫌な思い?」


「おそらくその気になるように側妃候補たちは頑張るでしょう?

 でも、レオンはそういうの好きじゃないと思うから。

 相手するのは苦行のようなものだと思うの」


「なるほどね。陛下のほうが大変ってわけだ。

 じゃあ、何かご褒美でもあげたらいいんじゃないか?」


「ご褒美?」


「ああ。姫さんがご褒美をくれるなら頑張れるだろ」


「ご褒美ねぇ……」


後宮へ行くのは今回だけじゃない。

これから毎月一回行かなければならない。


何をしたらレオンのご褒美になるだろうか。

悩んでいる間、暇そうなガイオは剣をクルクル回して遊び始めた。


暇なら手伝ってくれてもいいと思うのに、ガイオは書類仕事は苦手らしい。


「ねぇ、ガイオは学園を卒業してから家を出たの?」


「そうだよ。卒業したその足で隣国に逃げたんだ」


「卒業式の日に?家に戻らずにってこと?」


「戻ったら結婚させられることになっていたんだ」


「えぇ?婚約者を置いて逃げたの?」


「違う。勝手に妻を用意されていたんだ」


「……どういうこと?」


貴族なら親が婚約者を決めるのは当然のことではあるけれど、

ガイオの場合はそれとも違っているようだ。


「俺は二男だし貴族は向いてないから家を出るって言ってあったんだ。

 だから婚約とかも無理だって断っていたのに、

 無理やりにでも結婚させてしまえば貴族でいる気になるだろって」


「もしかして、それを知って逃げたの?」


「正解。幼い頃から面倒見てくれていた侍従がこっそり教えてくれたんだ」


「そう……」


侍従は家の指示に従うものだけど、それでも黙っていられなかったのかな。


「それで家を出た後はアンペール国に行って冒険者になってた」


「……冒険者。貴族なのになれるのね」


「貴族だと言えば問題になるだろうけど、言わなければいいんだ。

 向こうの国の連中は魔術があまり得意じゃないだろう?

 だから重宝されてさ。すぐに出世して護衛任務とか頼まれてたんだ。

 けっこう稼げていたし、平民として暮らすのも嫌じゃなかった」


たしかにガイオは貴族とも平民とも見分けがつかない感じがする。

お兄様も会話が気になったのか、仕事の手を止めた。


「それなのにどうしてこの国に戻ってきたんだ?

 家に捕まりたくないなら、戻ってこなければよかったんじゃないか?」


「それがさぁ、向こうの貴族令嬢に惚れられちゃって。

 どうやって調べたのか、俺が侯爵令息だってこともバレてさ。

 婚約しろとか言い出したから、また逃げてきたんだ」


「まぁ……それは災難ね」


「結婚が嫌で家出したのに、婿入りなんてするわけないだろうに。

 ……今のところ家には見つかっていないようだけど、

 そのうち王宮まで来るだろうな」


「ちなみに家を出たのは何年前の話なんだ?」


「十年前だな」


「それでもあきらめないのか。ずいぶんとしつこそうな性格しているな」


「だろう?」


ガイオは二十八歳なんだ。レオンとお兄様とは学園でも会わない年齢だ。

たしかニヴェール侯爵家の二男は社交嫌いだと話題にはなっていた。

夜会にも出たことがないはず。


ガイオは本当に貴族に向いていない性格のようだ。

それなのに、どうしてそこまでして家に戻したいんだろうか。

優秀だから?長男が家を継ぐのに何か問題がある?


さすがにそこまで聞くのは失礼だなと思っていたら、

レオンが疲れた顔して戻ってきた。


「何を話していたんだ?楽しそうだな」


「あ、おかえりなさい。……なんだか疲れている?」


「ああ。予想よりも精神的にきつい……。

 もう来月は行きたくないくらい疲れた」


「まぁ……」


よほど嫌な思いをしたのか、眉間にしわが寄っている。

ユウリもラルフも疲れた顔して自分の机に突っ伏してしまった。


あまりにも可哀想だったから、レオンの頬に口づけをする。


元気になってくれたのはうれしいけれど、

お兄様が怖い目でレオンを見ていた。

あまりやりすぎると怒られてしまうかもしれない。


だけど、私は違うことが気になってしまっていた。

抱き着いた時、レオンの匂いが違った。


今の匂い……どこかで嗅いだことがある。


「ルシール、今日はもう仕事終わり。部屋に戻ろう」


「ええ」


いつものように抱き上げられて、また匂いを感じる。

首に抱きつくようにして、確認するように匂いを嗅ぐ。


「……ルシール、もしかして臭い?」


「いつものレオンじゃない匂いがするの」


「これ、デュクロ公爵家の区画に行ったら香がたいてあったんだ」


「香?リリアナ様の部屋?」


「ああ」


リリアナ様の部屋……ということは、マリアンヌ様の匂い?


ううん、そんなことはなかったと思う。

マリアンヌ様ではないだれかの匂いとして嗅いだことがあるはず。


「ルシール?どうしたんだ?」


「この匂い、どこかで嗅いだことがあるの。

 なんだか嫌な感じで、でも、それがどうしてなのか思い出せなくて」



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