36.側妃候補たち(レオンハルト)
「後宮をなくす予定なのですね?
では、側妃はどちらに住まわせるのでしょう?」
後宮がなくなる意味を誤解したらしいリリアナ嬢が目を輝かせている。
はっきり俺が答えても良かったのだが、ここはユウリが会話を引き取った。
「後宮は長くても八年で閉めますからね。
と言っても、最長でもティナ嬢の七年ですから、
新しい側妃候補が入ってこない限り、七年後には改築工事が始まります」
「は?」
「おや?後宮にいられる期限があるのは知ってますよね?」
「それは……知っているけれど」
「ああ、よかった。当然知ってましたよね?
リリアナ嬢は五年後には出ていくことになっています。
改築するのは後宮に人がいなくなった後のことなんですよ」
「いなくなった後……」
「はい。後宮がいらなくなったら、離宮に作り替えるんです」
にこにこと話し続けるユウリとは反対に、引きつった笑いになっていくリリアナ嬢。
「……ですが、それとは別に側妃になれば後宮から出られるのでしょう?」
「側妃については何も決まってないのですよね」
「決まってないというのは?」
「レオンハルト様が側妃候補を側妃にしたいと思ったら、
その時に決めるんじゃないでしょうかね。
今、決めても意味がないですから」
「意味がないなんてことはないでしょう?」
「こちらも忙しいですからね。
必要にならない限り、側妃の宮なんて作らないですよ」
側妃のことなんて何も考えていないんだとユウリが言えば、
さすがにリリアナ嬢の機嫌は目に見えて悪くなっていく。
マリアンヌが何か言うかと思っていたが、優雅にお茶を飲んでいるだけだった。
絶対に何か仕掛けてくると思っていたけれど、
初日だから様子見なのだろうか。
結局、この日マリアンヌが何かを言うこともなく一時間が終わる。
時間だからと立ち上がれば、リリアナ嬢が引き留めようとした。
「もう帰ってしまうのですか?会うのに三か月も待ったのですよ。
それに、まだ話の途中です。もう少しいてくれませんか?」
立ち上がったリリアナ嬢がこちらに手を伸ばそうとしたけれど、
その間に入ってくれたのはアミーナだった。
「お待ちください、リリアナ様」
「何よ、邪魔しないで」
「ですが、よろしいのですか?
陛下を引き留めた場合、来月の面会の時間が短くなりますよ?」
「え?」
「次の区画に行く時間が遅れた場合、来月のリリアナ様の時間がその分減ります。
それでも引き留められますか?」
「……もういい」
悔しそうな顔したリリアナ嬢をそのままに部屋から出る。
ようやく一人終わったのか。まだ三人もある。
うんざりして大きく息を吐いた。
部屋の香の匂いが服に移ったのか、動くたびに匂いがする。
帰ったらすぐに着替えなくては。
「次はどちらへ?」
「最初の予定通りにゴーシュの妹のところへ」
「わかりました。ルリアナ様ですね」
ゴーシュの妹ルリアナ・クインツ伯爵令嬢はもうすぐ十九歳になる。
素行が悪いために側妃候補になっているが、後宮では遊ぶ相手もいない。
こっそり外に抜け出そうとして使用人たちに止められていたと報告が来ていたが、
三か月たった今も後宮に居続けている。
遊べないのに嫌気がさして出ていく可能性もあると思っていたが、
本人は本気で側妃になろうとしているようだ。
部屋に入ったとたん、隣にいたユウリとラルフがひぇぇと軽い悲鳴を上げた。
「アミーナ、ルミエ、ルリアナ嬢の服をなんとかさせてこい」
「か、かしこまりました!」
「すぐに!」
部屋で待っていたルリアナ嬢はひらひらした夜着姿だった。
いくらなんでもこれはありえない。
扉を閉めて外で待機したら、中からもめている声がする。
「え?何なの?」
「ルリアナ様!どうして夜着姿なのですか!」
「だって、成人しているのは私だけだもの。
陛下だって、そのつもりで来ているでしょう?」
「お茶を飲むだけです!すぐに着替えてください!」
「え?それは建前じゃないの?」
「違います!本当にお茶を飲んで話すだけです!」
「じゃあ、いつするの?」
「陛下がその気にならなければお召しはありません!」
「今、その気にさせればいいじゃない。
側妃候補なんだから、それがお役目でしょう?」
「ですから、違います!」
説得するのに苦戦しているらしい。
仕方なく、扉を外からノックする。
「アミーナ、ルミエ、もういい。
違う側妃候補の部屋へ行く」
「え!?」
「わかりました。ルリアナ様、失礼いたします」
扉を開けてアミーナとルミエが廊下に出てくる。
それを追いかけてルリアナ嬢が外に出てこようとするが、制止させる。
「そのようなはしたない格好で廊下に出てくるな。
次回、まともな服でなかったら、もう二度と面会はしない」
「そんなっ!じゃあ、今すぐ着替えますから!」
「もうよい!」
それでも追いかけてこようとするので、ルリアナ嬢の使用人に警告をする。
指示に従わなければ後宮から追い出すと。
さすがにルリアナ嬢が屋敷に戻っては困るのか、
必死になって廊下に出てこようとするのを止めている。
それでもルリアナ嬢はしつこく俺の名を呼んでいたけれど、
一切反応しないで次の候補の部屋に向かう。
「次は誰だ?」
「ティナ様です」
ティナ・ベラント伯爵令嬢はまだ十三歳だと聞いている。
さすがにルリアナ嬢のようなことはないだろうが、
念のために先にアミーナとルミエを部屋に入れて確認させる。
「陛下、問題ありません」
「そうか」
部屋に入ると、人形のように着飾ったティナ嬢に迎え入れられる。
「ようこそお越しくださいました」




