34.側妃候補の使用人
「どうする?許可を出すか?さすがにこれは想定外だろう?」
本当に想定外すぎる。
側妃候補の使用人として、次期公爵夫人が来るなんてありえない。
「どうするって、帰すしかないだろう?」
「でも、条件には書いてなかったわよね?
使用人として高位貴族を連れてきてはいけないなんて。
既婚者がダメというのも侍女たちの中には既婚者もいるでしょうし」
「条件にはないが、レオンがダメと言えばダメになるだろう」
条件にしてはなかったけれど、これは常識ではありえないと断ることもできる。
何よりも、後宮なのだからレオンが命じれば退出させることは可能だ。
「……帰すのは簡単たが、何を考えて来たのか気になる。
もしかしたらリリアナ嬢よりも先にマリアンヌのほうが失態をする可能性もある」
「あえて使用人として受け入れるという事か?」
「それも一つの方法だと思ってな。
どうせ後宮にいたとしても三か月は関わることがない。
その間に対処を考えてもいい」
「それはそうね」
レオンとの面会は三か月後からになる。
それまでは後宮にいたとしても交流はない。
三か月もあれば、何を考えて後宮に来たのかつかめるかもしれない。
「じゃあ、何も言わなくていいのか?」
「……いや、そうだな。
身ごもっていないかの検査を使用人も含めて全員に受けさせよう。
これを拒むのであれば、使用人の後宮入りを認めない」
「検査?」
「ああ。マリアンヌは自分が側妃に選ばれることも考えているのかもしれない」
「ええ!?……既婚者なのに?」
「既婚者が側妃になってはいけないということはない。
過去には既婚者が愛人となって子を産んだ後、側妃なった例もある」
「そんな……」
「面会は三か月後だが、その後で身ごもったと言い出す可能性がある」
誰かしら身ごもったと嘘を言うことは予想しているが、
貴族順位二位の公爵家でそんなことを考えるとは思ってもみなかった。
「だが、身ごもったと言い出したところで問題はないだろう?」
「一応は警戒しておかないと、逆にあやしまれるだろう?」
「それもそうか」
親子関係を鑑定できる魔術具はできている。
レオンの子を身ごもったと言い出す側妃候補がいれば、
それを理由に貴族家を処罰するつもりでいる。
だけど、あまりにも警戒しなすぎるのもおかしく思われる。
結果として、すべての側妃候補の使用人も身体検査をさせることが通達された。
それを嫌がった一部の使用人は身体検査を拒否し、
入れ替えになったけれど、マリアンヌ様はそのまま滞在している。
何を考えているのか不気味ではあるが、こちらから尋ねることも難しい。
デュクロ公爵家とペルラン公爵家の周りを調べさせることとなった。
その結果が出たのは三週間後のことだった。
デュクロ公爵夫人と親しい貴族家から情報が入った。
やはり、マリアンヌ様が来たのは自分が側妃になる事が目的だった。
しかもそれに協力しているのは公爵夫人らしい。
「やはり自分が妃になる予定だったか……」
「リリアナ様ではなく、マリアンヌ様がレオンと面会するってこと?」
「いや、あくまでもリリアナ嬢のつきそいとしてレオンと会うつもりらしい。
ほら、成人していない者を召し上げる気はないと言っただろう?」
「言っていたわね」
側妃候補のお茶会で、成人していない者には手を出さないと言っていた。
リリアナ様は今年十六歳になる。
そのため、あと二年は絶対に側妃になる事はない。
「リリアナ嬢が相手できるようになるまで、
自分が代わりに相手すると言い出すつもりらしい」
「……レオンがそれで相手すると思っているのかしら」
「自分に自信があるマリアンヌだからな。思っているんだろう」
レオンの妃には自分がふさわしいという態度だったのを思い出す。
結局は側妃候補からも外され、デュクロ公爵家に嫁いだけれど。
それでもきっかけがあれば選ばれると思っているのかもしれない。
「夫のニクラス様はそれでいいの?」
「夫には本当のことは言っていないらしい。
リリアナ嬢を支えるためだと言っているようだ。
あとは、夫人が子供を作るのはまだ早いと止めていると」
「早い?」
「側妃の子が生まれることになってから、公爵家の子を作ったほうがいいと。
今まであまり王家と関わらなかったデュクロ公爵家だが、
夫人は自分の孫が王太子と年が近くなるのを望んでいるようだ」
「それは貴族家ならばどこも考えることよね。
側妃が子を産んで、その子が王太子になれば、の話だけど」
「さすがにルシールが子を産むのを待つのは難しいだろうよ」
今年二十五歳になるマリアンヌ様があと八年以上待つのは難しい話だ。
公爵家の次期当主の妻なのだから、本来なら早く子を望まれるはず。
ニコラス様も母親の説得によって後宮に行かせることを納得したのかもしれないけれど、
まさかマリアンヌ様自身が側妃になりたがっているとは思ってないだろうな。
「じゃあ、レオンが面会に行ったら二人を相手にすることになるのね」
「……それは面倒だな。ユリウスを連れていくことはできないし、
ゴーシュも無理だから、ユウリとマルスを連れていくことにするか」
「護衛は連れて行かなくていいの?」
「一応、二人はそれなりに強いぞ。
それに近衛騎士を連れて行くと、側妃候補に同情される可能性がある。
追い出すものに同情されるとよけいな噂を流されたりするからな。
あまり関わらせたくないんだ」
「なるほど……初めての面会まであと二か月。
後宮内はもめているようだけど、全員残っているかしら」
「いなくなる分には問題ない」
レオンはむしろ減ってほしがっているようだったけれど、
結局三か月が過ぎるまで全員が後宮に残っていた。




