32.新しい仲間
あらかじめ、外とつなぐ役目の者を置いておけば、
少なくともレオンの側近たちが振り回されることはない。
「そうだな。使用人として後宮に置くのなら、衣食住の面倒と、
それなりの給金も出してやれるな。
審査は必要だが、考えてみるか」
「それでね、やってみてほしいことがあるの」
思い付きだけど、きっと二人も賛成してくれると思う。
「王宮との連絡係を置くことになれば、
おそらく側妃候補たちはその者に賄賂を渡すでしょう。
自分たちの要望を一番に通させるために。
それ、わざと受け取らせて記録しておくっていうのはどう?」
「わざと不正させておくのか……いいな、それ」
「それだけで追い出すのは難しいだろうが、
それを利用してもっと大きな不正をさせることもできそうだな。
よし、やってみよう」
連絡係の案は正式に採用され、結果として二人の令嬢を雇うことになった。
一人はガルチ伯爵家のアミーナ。16歳。
茶髪青目で身長がひょろりとしている。
もう一人はディーナ子爵家のルミエ。17歳。
こちらは薄茶髪で緑目、小柄でぽっちゃり。
共通するのは前妻の子で放置されているという事。
最初に手紙をよこしたのはアミーナだが、
他にもいないか調べてみたらルミエも同じような状況だった。
二人の仕事は側妃候補よりも立場が強くなくては難しい。
そのため、後宮女官長という役職付きになった。
普通の王宮使用人としての契約よりも強い、誓約契約になるが、
そのことは公言することもできない。
ただ、王家とレオンを裏切らないという誓約なので、
それほど自由が制限されるというわけではない。
後宮が無くなる時には王宮使用人として雇い直すこともできるし、
生家との縁が切れることで二人は喜んで契約していた。
そうして後宮の使用人も決まり、
建物ももうすぐ出来上がるという時期、
私の新しい護衛と侍女も選ばれ、顔合わせすることになった。
新しい侍女四人はレナとユーリの下につくため、
私が直接声をかけることはない。
お母様に鍛えられたらしく、アルベール公爵家の使用人の動きに近い。
問題なく顔合わせは終わり、侍女が六人体制となった。
問題が起きたのは護衛との顔合わせだった。
レオンとお兄様に連れてこられたのは、
金色の髪を一つに束ねた長身の男だった。
年齢は二十代半ばくらいに見える。
目が細いために目の色はわからない。
金色の髪ということは高位貴族か、それに近いものだと思うのに、
護衛として雇うのだろうか?
「ガイオだ。こいつは腕はいいんだが、態度が悪い」
「態度?」
「ガイオは敬語が使えない。陛下が相手でも言いたい放題なんだ」
レオンもお兄様も眉間にしわを寄せている。
そんなひどい態度なのに雇うなんて、それほど腕がいいのかもしれない。
「私にもひどい態度になるのかしら。
堅苦しいことが苦手なら、護衛は向いていないと思うんだけど、
それなのに護衛になってくれるの?」
「俺の条件さえ聞いてもらえれば、だな」
「条件って何?」
「家に戻らされたくない。家からの要望があっても突っぱねてほしい」
「貴族でいるのが嫌で家を出たという事?」
「ああ。貴族として縛られたくない。
結婚相手を決められたくないんだ」
「そういうこと……」
気持ちはわかるけれど、貴族なら大抵が政略結婚だ。
それを嫌がって家を出るというのはめずらしい。
「ちなみにどこの家なの?」
「ニヴェール家だ」
ニヴェール家は侯爵家で貴族順位は三位。
かなりの上級貴族だ。
家からの要望を突っぱねられるのはレオンくらいなものだろう。
「それでレオンの臣下となる気になったのね」
「この口調でもいいっていうしな。自由でいられるのなら文句はない」
「レオンはそれらの条件を認めたのね?」
「ああ。条件をのむ代わりに絶対にルシールを守るという約束だ。
ジニー一人では守るのが難しくなるからな」
「レオンがそれでいいならいいけれど。
では、私の護衛になってくれるのね?」
家に縛られないし、口調もこのままでもいいけれど、
護衛の生活というのはそれはそれで大変なことだ。
「その前に聞きたいことがある。陛下、人払いしてくれないか?」
「人払い?」
「ああ。陛下……とユリウス様はいいか。使用人たちを下げてほしい」
「……わかった」
レオンが手で下がるように示すと、使用人たちは全員が部屋から出ていく。
ジニーやレナたちまで下げて、何を話すつもりなんだろう。
「これでいいか?」
「ああ。護衛になる前に聞きたいことがあったんだ。
ルシール様は、リアーヌ様の生まれ変わりか?」
「っ!!」
「……お前、それをどこで知った?」
「誰かから聞いたわけじゃない。安心してくれ。
だが、どう考えてもおかしいと思ったんだ。
誰にも興味を持てなかったはずの陛下が一目ぼれ?嘘だろうって。
龍人の血を持つものが、一度誰かを好きになった後で、
他に目移りするわけがないんだ」
「……そういうことか」
「そう考えたら、ユリウス様の可愛がり様も、アルベール公爵家の養女の話も、
すんなりと理解できると思ったんだ」
そう言われてしまえば、簡単なことだった。
龍人の血を引くレオンが他に心移りするわけがないのだから。
「人払いしたのは誰が知っているかわからなかったからか」
「公表していないってことは隠したいのだろう?」
「ああ。リアーヌを殺した犯人がわからないんだ。
また狙われる可能性がある。ジニーとレナとユーリは問題ない。
だが、他には言わないようにしてくれ」
「リアーヌ様が死んだのって殺されたのか……わかった。
絶対にルシールを守ると約束しよう。
今度失ってしまえば、この国は終わるかもしれないからな」
「頼んだ」
「おし。じゃあ、呼び方は姫さんでいいか。
これから俺があんたを守るからさ。よろしくな?」
「え、ええ。よろしくね?」
突然の姫さん呼ばわりには驚いてしまったけれど、
この口調には慣れなくちゃいけないらしい。
レオンもお兄様もしかめっ面している割には注意しようとはしない。
直らないものと諦めているような気がする。
こうして新しい仲間が増え、安心して暮らせるようになった頃。
ようやく後宮が出来上がり、側妃候補が後宮に入る日が来た。




