28.お披露目の夜会
夜会の日、昼過ぎから準備が始まり、しっかりと身体を磨かれる。
リアーヌの時には夜会に出席したことはない。
正妃候補に決まってはいたけれど、夜会に出席できるほどの体力がなかったし、
急いでお披露目する必要もなかったからだ。
十五歳になった後で改めてお披露目することになっていた。
今の私はリアーヌよりも幼い十歳だけれど、
早目にお披露目をして立場を強固なものにする必要がある。
ペルラン公爵家が謹慎している三年の間に、
私の後見がアルベール公爵家だと知らしめる意味もある。
夜会デビューになるので、ドレスは白が基調となっていて、
それに同じ生地を青に染めたもので作られた薔薇がいくつもつけられている。
一歩進むごとにスカートのレースが揺れてきらめく。
着心地もいい最高品質のドレスにうっとりとしてしまう。
「どうだ?気に入ってくれたか?」
「ええ、とっても!」
「本当によく似合うな」
「ふふ。レオンとお兄様のおかげね。ありがとう!」
このドレスは初めてのお出かけの時に仕立て屋により、
レオンとお兄様が選んでくれたものだ。
初めての夜会ということで、本来なら生家の者が用意する。
だが、ペルラン公爵家には用意されたくない。
ドレスを作った時にはまだアルベール公爵家の養女でもなかった。
それでも用意したいというお兄様の希望を叶えるためにも、
レオンと二人で用意するということに落ち着いたのだ。
準備が整い、夜会が開かれる大広間に向かう。
レオンに手をひかれ、お兄様が後ろからついてくる。
大広間の扉の前ではお父様とお母様が待っていた。
「まぁ!ルシール!とっても素敵なドレスね。
あなたにぴったりだわ」
「本当だな。まるで天使が来たのかと思った」
「お母様、お父様、ありがとう。
レオンとお兄様が選んでくれたのよ!」
「そう。本当によく似合っているわ」
私を見て涙ぐむお母様に、私も泣きそうになる。
夜会デビューを楽しみにしてくれていたお母様に、
喜んでもらえたことが何よりもうれしい。
「では、先に入っていますよ、陛下」
「ああ、ルシールを頼んだ」
入場はアルベール公爵家と一緒にすることになっている。
お父様がお母様を、お兄様が私をエスコートする。
お兄様の手を取ると、機嫌がよさそうに笑う。
「ようやく妹だとお披露目できるな」
「はい!」
養女になってからは人前でもお兄様と呼んでいるけれど、
まだ知らない貴族もいることだろう。
仲の良さを誤解される可能性もあった。
ここでお披露目してしまえば、知らないほうが悪いことになる。
案内係が名を告げ、扉が開けられる。
お父様とお母様が入場した後をお兄様と続く。
ここで私を初めて見る者が多い。
小声で話していても聞こえてくる。
「何を言われていても聞く必要はないからな」
「ええ、お兄様。気にしていません」
知らない貴族からの評価などどうでもいい。
幼いことや他国の王族の血を引くことなど、
気にしたとしてもどうにもならないことだ。
だから、まっすぐに前を向く。
礼儀作法はお母様から叩きこまれている。
何も恥じることはない。
指定された場所まで行くと立ち止まり、レオンの入場を待つ。
今、王族にはレオンしかいない。
先代国王と王妃との間にはレオンしか生まれなかった。
詳しくは知らないが、他の妃との間に子を作ろうとしてもダメだったと聞いている。
王族の入場になり、レオンが大広間に入ってくる。
その堂々とした姿に、本当にレオンが国王になったのだと実感する。
壇上にあがったレオンが夜会の開始を告げる。
いよいよだと緊張していたら、レオンがこちらを見た。
「ルシール、こちらに来てくれ」
「はい」
お兄様にエスコートされ、壇上にあがる。
差し出されたレオンの手を取り、隣に並んだ。
「俺の正妃になるルシールだ。
隣国の元第三王女の娘だが、アルベール公爵家の養女になっている」
「ルシール・アルベールです。
レオンハルト陛下の正妃になるべく、これから精進してまいります」
「もうすでにルシールには正妃として王宮に部屋を与えている。
身分としては婚約者、準王族ではあるが、
俺と同じ身分だとして扱うように」
その言葉に会場中がざわつきだした。
まだ十歳の婚約者に国王と同じ権限を与えると言ったのだから、
反発する者もいるに違いない。
だが、一番反発するであろう筆頭公爵家の当主ユリウスが、
後見人として後ろに立っているのだから、他の者が言えるはずもない。
ふと、近くで震えるほど強く扇を握りしめている夫人がいると思えば、
デュクロ公爵夫人のマリアンヌ様だった。
不満を口にしたいのだろうけど、次期当主夫人の立場では言うこともできない。
扇を握りしめる音がここまで聞こえてきそうだけれど、そちらは見ないことにした。
夜会が始まるとレオンと私は王族席に向かう。
そこで貴族たちの挨拶を受けるのだが、最初に来たのはお父様とお母様だった。
「陛下、ご婚約おめでとうございます」
「ああ、二人にもいろいろと協力してもらうことになるが、
ルシールのことをよろしく頼んだぞ」
「ええ、お任せください。
実の娘のように大事に支えていくとお約束いたします」
「わたくしもですわ。王妃教育のことはお任せくださいませ。
陛下の正妃としてふさわしい教育をするとお約束いたします」
「ああ、二人ならば安心だ。
ユリウスも妹として大事に守ると誓ってくれているしな」
後ろに立つお兄様が深くうなずく。
お父様もお母様も笑顔で挨拶を終え、去っていく。
これでアルベール公爵家が形式的なものではなく、
本気でルシールの後見をしていることが知られたはず。
近くにいて聞こえていたはずのデュクロ公爵と夫人は、
戸惑うような顔を隠さずに王族席に挨拶にきた。
公爵夫妻の後ろには次期当主とその妻のマリアンヌ様。
そして白いドレスを着たリリアナ様。
そういえばリリアナ様は十五歳だった。
これが夜会デビューになるらしい。




