27.お茶会の終わり
その後も側妃候補の挨拶は続き、最後の令嬢まで終えた。
親に言われて後宮に入ろうとしている令嬢、
レオンを慕って少しでも近づこうとしている令嬢、
他に行き場がなく後宮に追いやられそうな令嬢。
そのどれにもレオンは反応しなかった。
以前のレオンは柔らかな微笑みで令嬢に対応していた。
おそらくそれは正妃候補の私に嫌がらせが来ないようにと。
私がいなかった十一年でレオンとお兄様は変わった。
令嬢に隙をみせないように人前で表情を変えることはなく、
必要のない会話は切り捨ててきた。
学園に通う間も二人と令嬢の間には常に近衛騎士を置いておいたらしい。
令嬢たちは話しかけるどころか、見つめるのも難しかったという。
それでもレオンとお兄様の人気は衰えず、
令嬢たちのあこがれの存在だったのは間違いない。
そんなレオンの側妃になれるかもしれないのだから、
期待してここに来たのだろうけれど。
冷たい態度に令嬢たちから笑顔が消えていた。
さて、どれだけの令嬢が後宮入りするのだろう。
お茶会の終わり、退出する前に思い出したかのようにレオンが言う。
「後宮の建物ができあがるのは半年後だ。
そして、俺が後宮に顔をだすのはその三か月後からになる」
どこかから「三か月後……?どうして」と声がした。
「身ごもったまま後宮に入り、俺の子だなどと主張されても困るからな。
三か月したら、まず妊娠していないことを確認させてもらう」
その言葉に顔色を変えたのは当主たちのほうだ。
身持ちが悪いかもしれないと疑いをかけられたのだから、
貴族としての矜持を傷つけられたのかもしれない。
だが、後宮に入れるというのはそういうことだ。
必要とされていない側妃候補にするのだから。
「一度後宮に入れば親兄弟でも会えなくなる。
自分の娘がかわいいのなら、やめておくんだな」
これだけ言えば、よほどのことがなければ側妃候補なんて出さないだろう。
そう思ってレオンは言ったのだろうけど、
マリアンヌ様とマノン様は覚悟を決めたような顔をしていた。
「ルシール」
「え?」
レオンに呼びかけられて振り向いたら、抱き上げられた。
「疲れただろう。退出しよう」
「ええ」
これも令嬢たちに見せつけるつもりなのかな。
愛しそうに私を見つめ、ほんの少しだけ笑う。
誰かが茶器でも倒したのか、扉が閉まる前にガシャンと音がした。
レオンはそのまま私室までいくつもりなのか私を抱き上げたままだった。
「あー疲れたな。本当にあきらめが悪い貴族ばかりだ」
「ずっと側妃にさせるつもりで育ててきたのでしょう。
簡単にはあきらめられないんだと思うわ」
「まぁ、あの条件ならそれほど多くはないだろう」
それはそうだと思う。
あまりにも側妃候補を馬鹿にするような条件。
それでも後宮にきたいと思う令嬢は少ないはず。
私室に戻るとレナとユーリがうれしそうな顔で出迎えてくれた。
「何かあったの?」
「ルシール様の夜会用のドレスが届いています。
すぐにご確認なさいますか?」
「夜会用……少し休んでからにするわ」
「かしこまりました」
レオンとお兄様と出かけた時に作ったドレスが届いたらしい。
今すぐ確認したいところだけど、レオンが疲れ切っている。
「見なくていいのか?」
「レオンが疲れているでしょう?もう少ししてからでいいわ」
「そうか」
奥の寝室にも大きなソファが置いてある。
この部屋にはレナたちも許可なくはいってこないので、
ここにいれば二人きりになれる。
レオンは私をおろすことなくソファに座る。
私はレオンの胸にもたれかかるような状態で落ち着く。
「夜会は二週間後か。騒がれることになるが、平気か?」
「ええ。お披露目の夜会だもの。注目されるのは仕方ないわ」
本当なら十歳の私では夜会に出席できないけれど、
レオンの婚約者として準王族になっているので特別に参加できる。
今回の夜会はレオンとの婚約、
そして私がアルベール公爵家の養女になったことのお披露目だ。
どちらもうれしいことなので、早くお披露目したい気持ちもある。
「側妃候補の令嬢たちも出席するだろう。
夜会の間は離れないように」
「そういうわけにもいかないでしょう?
大丈夫よ、お兄様もいるし、お父様とお母様もいるんだもの」
「はぁぁ。国王なんてめんどうなもの、早く誰かに渡したいんだが」
「お兄様も嫌がるわよ。お父様だって」
「そうだな……俺とルシールの子が成長するまで待つしかないか」
先代の国王、レオンのお父様はあまり強い国王ではなかった。
そのせいか、レオンが成人するとすぐに引継ぎを始め、
二十歳になったのを機に譲位してしまった。
亡くなった王妃様と過ごしたいと言って、
どこか旅にでてしまったらしい。
これはめずらしいことではなく、この国の国王は愛する妃を亡くすと弱っていく。
そして、跡継ぎに譲位して、姿を消してしまう。
レオンの場合、リアーヌとはまだ結婚していなかった。
だからそこまで弱ることはなかったのだろうけど。
これは龍人の血がもつ性質らしいので、私もそうなのかもしれない。
「本当はひと時も離れたくないんだ。
国王なんてやめてルシールとずっといられたらいいのに」
「そうね……こうしていられたらいいのにね」
そんなことができないのはわかっているけれど。
この気持ちに嘘はなかった。




