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幸せになるために私ができること  作者: gacchi(がっち)


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26.モーリア侯爵家

次に来たのはモーリア侯爵家のマノン様だった。

こちらも当主である侯爵と一緒に来ていた。


礼をして顔を上げた時、私の方を見たので何か言われるかと思ったけれど、

口を開いたのはマノン様ではなく侯爵のほうだった。


「側妃候補の条件で、お聞きしたいことがございます」


「なんだ?」


「使用人が十人とは少なすぎませんか?」


もっと別なことを聞かれると思っていたからか、レオンも拍子抜けしたようだ。


だが、幼い頃身体が弱かったマノン様を過保護に育てたという噂の当主は、

大真面目に心配しているのか真剣な表情だった。


「マノンには専属侍女だけでなく、教養のための教師も多数雇っております。

 後宮に入っても我が家と変わらずに過ごさせたいのです。

 人数を決めなくてもいいではないでしょうか?」


「ダメだ」


「なぜでしょう!?」


「後宮内では高位貴族も下位貴族も同じ側妃候補という身分になる。

 使用人の人数をそろえるのは、危害を加えることがないようにするためだ」


「!!」


考えもしなかったからか、侯爵が驚いた顔をする。


後宮内には男性である近衛騎士は入れない。

女性だけの世界になるが、暴力がなくなるわけではない。


高位貴族の者が多くの使用人を引き連れて後宮に入った場合、

使用人が少ない下位貴族の者を囲んで虐げることができてしまう。


同じ人数がいれば、そのような数の暴力で押し切られることはない。

そのため、十人という条件になっている。


「しかも、誤解があるようだが、その十人は侍女だけではない。

 護衛や下働き、料理人の数も入れて十人だ」


「は?護衛はまだしも、下働きや料理人とは?」


「王宮側は住む場所を提供するだけだ。

 こちらは下働きの者や食事の提供はしない」


「そんな!どうしてですか?」


「死んだ場合、責任が取れないからだ」


「……死ぬようなことがありえるというのですか?」


「候補同士で争えば、そのようなことも起きる可能性がある。

 だから、令嬢の命を守りたいと思うのならば、

 下働きや料理人も信用できるものが必要になるだろう」


「そんな……たった十人で」


侍女、護衛、下働き、料理人、そして学園を卒業していない令嬢なら、

教養を身につけるための教師も必要になる。


何を重視するかによって配置する人数は変わるだろうけれど、

十人におさめなくてはいけない。


とはいえ、下位貴族なら十人を出すのも大変だろう。


「俺は側妃が必要だなんて言っていない。

 お前たちがどうしても娘に会え、話せば魅力が伝わるなどと言って、

 納得しようとしないから後宮などという無駄なものを作らなければいけなくなった。

 俺が、王宮が、迎え入れたくて後宮に入れるのではない。

 入りたければ条件に従え。従わない者は即日追い出す。そのつもりで来い」


「……かしこまりました」


侯爵はちらりとマノン様を見て、レオンに返答した。


本当は後宮になどいれたくないのだろう。

それでも可愛いマノン様の願いを叶えるためなら仕方ない、そういう表情だった。


これでマノン様も下がるかと思ったら、にっこりと笑って口を開いた。


「レオンハルト様、正妃候補様を紹介していただけますか?」


「紹介?なんのために」


「これから一緒にレオンハルト様を支えていくのですもの、交流は必要でしょう?」


「……いらないな。側妃候補はあくまで候補だ。

 ルシールは正妃になることが決まっている。関わる必要はない」


「それではリアーヌ様にお願いされたことが果たせません。

 お茶会で交流するくらい許してくれてもいいと思います」


敵対するつもりはないのだと言いたいのか、私に向かって微笑んでいるけれど、

その言葉に反応したのはレオンだけではなかった。


「陛下……発言してもよろしいでしょうか?」


「ユリウスが言いたいことがあるのなら、好きに言って構わない」


「ありがとうございます」


正妃候補の後見人としてここまで黙っていたお兄様が、

冷たい視線を侯爵とマノン様に向けた。


「私はこれまでマノン嬢がリアーヌのことを話しても黙っていた。

 それはマノン嬢が幼かったからだ。

 リアーヌへのあこがれから嘘をついていても幼さ故と判断していたからだ」


「公爵、嘘とはどういうことですかな?」


「マノン嬢はリアーヌに陛下を頼まれたからだとよく言っている。

 だが、リアーヌはマノン嬢とは友人ではなかった」


「そんなことありません!リアーヌ様とは一番仲良くさせていただきました!」


「それはない。リアーヌには必ず使用人をつけていた。

 一人きりにさせたことは一度もない。

 だから、当時のマノン嬢との間に親しいやり取りがなかったことはわかっている」


「!!」


お兄様がはっきり言ったことで、それを聞いた者たちがざわつきだした。


今まで、マノン様はリアーヌの意思を継いでレオンの妃を見極めると言っていた。

頼まれたからには約束を果たさなければいけないと。


リアーヌの名を出されて賛同する令嬢も多かったと聞く。

だけど、それが嘘だったと知られたなら。


今、マノン様に向けられているのは疑いの目。そして軽蔑するような目も。


「リアーヌ様は内緒話だと言って人払いしていました。

 それを報告しないようにリアーヌ様が使用人にお願いしたのでは?」


「リアーヌのお願いだとしても私に黙っているのは無理だ。

 なぜならその者たちは隷属しているのだから」


屋敷のものを隷属させているなど、本来なら隠すべきことだ。

だけど、これ以上の証拠はない。嘘をつくことなど不可能なのだから。


「……それでも私は言われたのです。

 リアーヌ様のためにも、私はレオンハルト様を守らなくてはいけません」


涙をこぼしながら訴えるマノン様に、侯爵はマノン様を信じると決めたようだ。


「何かの行き違いがあったのかもしれません。

 ですが、娘がリアーヌ様を思う気持ちに間違いはありません。

 尊敬しているリアーヌ様の思いを継ぐくらい許してはもらえませんか」


「勝手に思うだけなら放っておいてもいい。

 だが、リアーヌの名を使うことは今後一切許さない。

 もしあれば、公爵家から正式に抗議させてもらう」


「……わかりました。マノン、下がろう」


「……」


涙を拭くことなく、マノン様は侯爵に手を引かれて下がって行く。

最後に私をにらみつけていったところを見ると、あきらめてはいないようだ。












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