25.側妃候補のお茶会
国王であるレオンの到着が知らされると、
騒がしい茶話室が静かになる。
扉に手をかけたゴーシュにレオンがうなずく。
静かに扉が開かれ、レオンとエスコートされた私が入室する。
その後ろをお兄様、そして側近の三人がついてくる。
小声で何か話しているのは私のことだろう。
思ったよりも幼いな、などと聞こえてきている。
王宮に来てまともな生活になったとはいえ、まだ十歳の身体。
隣にいる二十四歳のレオンとは差がありすぎる。
まぁ、そんなことはレオンも私も重々承知のこと。
生まれ変わってまた出会えただけで神様に感謝している。
今さらそんなことで文句を言うことはない。
集まったのは十一の貴族家。
側妃候補の令嬢と、その付き添いの一人。
ここには二十二人の貴族が待っていた。
令嬢の付き添いだから夫人か姉妹だと思っていたけれど、
数人は当主のようだ。
そして、知ってはいたけれど年齢がバラバラだ。
私よりも幼い子がいるのが見えた。
一段高くなっている場所にある席に到着すると、
レオンが先に私を座らせる。
そして、レオンは椅子を動かして私のすぐ隣へと座った。
それを見て思わず小声で問いかけてしまう。
「そんなに近づかなくてもいいんじゃないの?」
「いや、男性当主が何人かいる。もし、暴動を起こされたとしたら守り切れない」
「そんな心配を?」
「下位貴族もいる。高位貴族に命じられたものがいてもおかしくない」
心配しすぎだと思ったけれど、そういえばリアーヌが死んだとき、
犯人にしたてられそうだった貴族家があったのを思い出した。
あれはその前に訴え出て来られたから対処できたけれど、
もし家族を人質にでも取られていたら訴えることなどできなかったかもしれない。
そして、今日のお茶会には脅した側のペルラン公爵家の長女、
デュクロ公爵夫人も出席している。
レオンが警戒してもおかしくない。
そんなことを考えているうちに、側近のラルフが開始を宣言する。
今日はラルフがこの場を仕切るようだ。
「それではこれより側妃候補を集めたお茶会を始めます。
案内があるまでその場でお茶を楽しんでください」
王宮の使用人たちが側妃候補のテーブルにお茶をふるまう。
レオンと私、お兄様たちのテーブルのお茶は、
私の専属侍女のレナとユーリが担当する。
お茶会で倒れたリアーヌの死因がわからないうちは、
レナとユーリ以外の給仕は受け入れられない。
いい香りのお茶を楽しんでいると、一組目の側妃候補が連れて来られる。
高位貴族から順に連れてきているらしい。
デュクロ公爵夫人になった元ペルラン公爵家のマリアンヌ様。
そして、その義妹であるリリアナ様
十五歳のリリアナ様は高位貴族らしい金髪で緑目。
ふわふわの髪を耳のあたりで少し結い髪飾りをつけている。
可愛らしいと言うよりは綺麗な令嬢だった。
レオンが声をかけるとマリアンヌ様とリリアナ様が顔をあげて挨拶をする。
何か期待をしているようなリリアナ様に気づいているだろうに、
レオンは顔色一つ変えないでため息をついた。
「デュクロ公爵家は娘が可愛くないのか?」
「え?……いえ、リリアナのことはお義父様もお義母様も可愛がっています」
「なら、どうして側妃候補になどするんだ?」
「それはもちろん、リリアナが側妃にふさわしいと思っているからですわ」
自信ありげに微笑んだマリアンヌ様だけど、
側妃と側妃候補には差がありすぎることには気がついていない。
「それを決めるのは俺だ。後宮に入れた後、何があっても苦情は聞かない。
それでもかまわないのなら好きにすればいい」
「……わかりました」
納得はしていないのだろうけど、ここで反発しても意味がないと思ったのか、
マリアンヌ様は礼をして去っていった。
リリアナ様が不服そうな顔をしていたけれど、本当に後宮に入るのだろうか。
次の高位貴族はイノーラ侯爵家。
五つある侯爵家の中では二番目。
当主が連れてきているのはまだ七歳の末っ子ローラだった。
薄茶色の髪に青い目。可愛らしいけれど、この子を後宮に?
たどたどしい挨拶をしたローラを見て、レオンが当主をにらみつけた。
「本気か?こんな七歳の子を後宮に入れると?」
「陛下は幼い娘が好みだと聞きましたので末の娘にしたのですよ。違いましたかな?」
ニヤニヤと笑う当主は私のほうをちらりと見た。
十歳の私でもいいなら、七歳のローラでもいいだろうと言いたいらしい。
「そういえば、詳しい条件を言っていなかったな。
側妃候補として入るのは何歳でもいいが、俺は成人していない者に手は出さないぞ。
月に一度の茶はいいが、閨に呼ぶことは絶対にないと言っておこう」
「ですが、そちらの正妃候補の方は呼ばれていると……」
「ルシールと同室で寝てはいるが、手は出していない。
大事にしているから婚姻するまでその予定はないな」
「……ですが、そのうちローラを気に入ってということも」
あきらめきれないのか、ごにょごにょ言っている。
ここで側近のゴーシュが間に入った。
「そういえば、先に条件をお伝えしておりませんでしたね!
側妃候補として後宮にいられるのは最長で八年。
正妃候補であるルシール様との婚姻までです!」
「はぁ?」
「そして、その前に二十歳になった者は強制的に出されます」
その言葉に席で待っていた者たちから疑問の声があがった。
「そんなっ!」
「どうして!?」
「後宮に居続けても、その後のことは何も保証いたしません。
いいのですか?八年後まで後宮にいて放り出されても。
二十歳で外に出れば嫁ぎ先を見つけられるだろうと、レオン様の恩情です」
申し込んできた令嬢の最年長は十八歳だった。
八年後は二十六歳。もう完全に行き遅れてしまう。
そもそも後宮に八年もいて見初められなかったものに価値はつかない。
誰も欲しがらないだろう。
現実が見えてきたのか、令嬢と付き添いの夫人たちが黙り込んだ。
「今、ゴーシュが言ったとおりだ。
その娘が後宮に入ったとしても、八年後でも成人していない。
側妃になることなく追い出されるのがわかっていても後宮に入れる気か?」
「そんな……」
「……お父様、私そんなところ行きたくない」
「ローラ、でも側妃になれるかもしれないんだよ?」
「なれないよ、そのくらい私でもわかるもん」
当主よりも七歳の令嬢のほうが正常な判断ができているらしい。
思わず微笑んでしまったら、ローラは顔を赤くして当主の後ろに隠れた。
さすがにあきらめたのか、肩を落とした当主は礼をして下がっていった。




