22.側妃(レオンハルト)
執務室に入ると、いつもとは違った雰囲気がした。
一番近くにいた側近のゴーシュに聞いてみる。
「どうかしたのか?」
「昨日の夕方から今日にかけて、七つの貴族家から同じような嘆願書が届きました」
「嘆願書?」
一つ開いて読んでみれば、側妃を早く娶ってほしいというものだった。
「他のものも同じ用件か?」
「はい」
そのうち来ると思っていたが、対応が早いな。
それも七つ同時に来たとは。
誰かが先に言い出したことで不興を買わないようにということか。
こんなことで怒ったりはしないが。
悩んでいると、側近のユウリが真面目な顔で笑えない冗談を言う。
「このことが知られたらもっと来るでしょうね」
「これ以上か?ほとんどの貴族家は側妃に関係ないだろう」
その言葉に答えたのはユウリの双子の弟でもあるラルフ。
「レオンハルト様が正妃をアンペール国の者にすると決まったのは十年前です。
それからずっと貴族家は側妃を出そうと狙っていたと思います。
協力してくれる家を見つけていてもおかしくないです」
「そうか。十年だからなぁ」
以前、リアーヌが生きていた頃の側妃候補のほとんどはもう嫁いでいる。
その下の世代に者を側妃にするべく育ててきているらしい。
「側妃を娶らないわけにはいかないでしょうからね」
「……それはそうだろうな」
国内の者が正妃であれば、側妃を娶らないこともできるが、
他国の者を正妃にしたならば、国内の者を側妃として娶らなくてはならない。
そうでなければ貴族家が納得しないだろうというのはわかっている。
「他の妃はいらないんだけどな」
「形だけでも娶らないとまずいでしょうね」
「形だけか……何か考えるか」
いつもならユリウスに相談するところだが、
ユリウスは正妃になるルシールの後見になっている。
ユリウスと相談して決めたと知られたら、
それはそれでまずいことになる。
だから、側近たちと相談しているのだが、
はっきり言って俺の側近たちはやる気がない。
いや、仕事はできるし優秀なのだが、
のし上がろうという気力がない。
ゴーシュは伯爵出身で文官になっていたが、同期や上司と話が合わず、
そのくせ優秀なことではじかれていたのを拾ってきた。
ユウリとラルフは子爵家の出身だが、
学園で一緒だった時に優秀な人材だと思い声をかけた。
最初は嫌がっていたけれど、好きに働いていいと言ったら承諾してくれた。
これに加えてユリウスが俺の側近になるけれど、
皆、優秀なのに癖が強い。
頼りになるのは間違いないのだけど。
「お前たちも家や親せきから何か言われていないのか?」
「言われてますけど、聞いてません」
「何か言っていたような気もしますが、最近家に帰っていないので」
「俺に言っても無理だってわかってますから」
「なるほどな……」
本当なら国王の側近は出世頭なはずなのに、
俺を含めてこんな感じのせいで文官たちには嫌がられている。
仕事だけはきちんとしているので問題はないはずなのだが。
「さて、どうするかな。形だけの側妃募集だとしても、
側妃を迎える場所を作らないといけないな。
本宮にはルシールがいるから入れたくないんだ」
「だったら、離宮の跡地はどうですか?」
「ああ、あそこか。五代前の後宮だったとこだよな」
この国は四代続けて直系が継いでいるが、その前は違った。
五代前の国王は女好きで後宮を作っていた。
それなのに娘しか生まれず、王弟が継いでいる。
王弟は後宮を使わず、正妃しか娶らなかった。
使われなくなった後宮がのちに離宮となり、
今では建物は崩れ落ちて跡地になっている。
それでも王宮の敷地内にあるため、もったいない土地ではある。
「そうだな。側妃はそこにいれよう。
どうせ通わないから本宮から離れていてもかまわないし」
「それなら何人入れても変わらないですね。
かなりの人数入れても大丈夫なように作っておきますか」
「そんなに?」
「使わなくなったら離宮として使えますよ」
「それはそうか」
一人か二人の側妃のために建物を作るよりも、
大きい建物を作っておいた方が利用価値がある。
「よし、わかった。
とりあえず、側妃選びをすることを公表し、
後宮を作る計画を立ててくれ」
「設計とかはまかせてもらっていいですか」
「好きに作っていい。どうせ俺は行かないからな」
「わかりました!」
建築に興味があったのか、ユウリがうれしそうに部屋から出て行った。
側妃についてはある程度決まったからいいとして、
問題はルシールにどう説明するかだな。
リアーヌの時も側妃を受け入れると言っていたけれど、
それが本心だったとは思えない。
自分では俺の子を産めないから、仕方ないと受け入れていたんだと思う。
では、身体に全く問題ないルシールでは。
側妃を受け入れる理由が何もない。
妃教育を受けてきたから、
微笑んで大丈夫だと言ってくれるのかもしれないけれど。
できる限り、ルシールを悲しませたくない。
側妃は娶らなくてはならない。
だけど、ルシールを悲しませる気はない。
矛盾しているけれど、それを実現するためにはどうしたらいいか。
ユリウスにもルシールにも頼れない。
こればかりは自分で考えて責任を取らなくてはならない。
仕事を終えて私室に戻ると、ルシールが出迎えてくれる。
思わず抱きしめて額に口づけすると、うれしそうに笑う。
「おかえりなさい!」
「夕食はもう食べたのか?」
「いいえ、まだなの。一緒に食べようと思って」
「待たせてたのか。早く食べよう」
こうして一緒に食事をして、一緒に眠れることがどれだけ幸せなことか。
この幸せを守るためなら、どんなことだってする覚悟はある。




