19.隣国からの使者
手配された教師がいる部屋に入ると、
不敵な笑みを隠そうともしない教師が待っていた。
またかと思いながら挨拶をすると、
向こうは名乗りもしなかった。
それだけでなく、まともな授業をするつもりもないらしい。
教師はいかにレオンが素晴らしい皇帝なのか、
亡くなった前の婚約者であるリアーヌが淑女だったかを語りだし、
私を認めるわけにはいかないと断言した。
これは教えるつもりはないってことよね。
ため息をついた瞬間、ドアを開けてお兄様が入ってくる。
「え!?」
「まさか、このアルベール家が手配した教師が、
アルベール家が後見する正妃候補にこんな無礼な真似をするとはな」
「あのっ!違うのです!私はっ!」
「私がルシール嬢はレオンハルト様にふさわしいと思い、
後見を願い出たというのに、一族の者が認めないとは……。
当主である私に従いたくないというのなら出ていくがいい」
「そんなっ……申し訳ございません!」
平伏して謝っているけれど、多分悪いことしたと思っていないんだろうな。
この国のため、レオンのため、私を排除しようとしている。
まさか、こんなことで妃教育が進まないとは思わなかった。
私室に戻るとお兄様がまだ怒っている。
「これで十二人目だぞ!どれだけ辞めさせればいいんだ!」
「本当ね……隣国出身だし、ペルラン公爵家の血筋だし、
よく考えればアルベール公爵家には受け入れられないわよね」
「だからといって、当主が認めているというのに」
「お兄様が血迷っているとでも思っているんじゃないの?」
「……まだ当主になったばかりだしな。
説得力が足りないのはわかっている」
ため息をつくお兄様には申し訳ないけれど、
私を後見する理由がわからないのだと思う。
私がリアーヌの生まれ変わりだと知らなければ、
敵対する家の娘を後見するなんて、おかしくなったと思われても仕方ないのだから。
「でも、どうしよう。これでは進まないわね。
いくら妃教育のほとんどを終えているといっても、
確認してくれる教師がいないのでは……」
「こうなったら……父上と母上が戻ってくるまで待とう。
父上が教師に頼めば、公平な目で見てくれるかもしれない」
「そのためにはお母様の体調が戻らなければいけないのね」
お父様とお母様が王都に戻ってきたら、
養女にしてもらう予定になっている。
その前に妃教育を終えていることを確認してもらい、
その評価で養女にしたということにしようとしていたのに。
このままでは養女にしてもらう理由がない。
「まぁ、急いで養女にしなければいけないわけじゃないし、
結果として優秀だと示すことができれば問題はないから」
「待つのはいいけれど、することがなくて退屈になるの」
「それもそうか」
レオンとお兄様の仕事を私が手伝うことはできない。
せめて妃教育を終えていれば執務室に入ることもできたのだけど。
「では、ジニーと一緒に奥庭で魔術の練習をするのはどうだ?」
「いいの?」
「基本的なことだけだ。
魔力の扱い方を知らなければ学園に入った後で困るからな」
「学園……通ってもいいのね?」
「ルシールなら問題ないだろう」
「うれしい!」
リアーヌの時は学園に通う予定はなかった。
それだけ身体が弱かったから、特例で通わなくていいことになっていた。
だけど、基本的には十六歳から三年間は学園に通うことになっている。
結婚はその後になるので、あと八年もある。
「じゃあ、ジニーを連れて奥庭に行ってくるね」
「ああ、念のため、近衛騎士も連れて行くように」
「わかってます」
王宮内を歩くときはジニーだけでなく、近衛騎士も連れていくように言われている。
何かあった時に誰かに知らせるにはジニーだけでは足りないからだ。
初めて魔術の練習をしていいと言われ、うきうきな気分で奥庭に向かう。
さっきまで教師のことで悩んでいたことも忘れ、
日が暗くなるまで魔力操作の訓練をする。
夜、レオンには心配されてしまったけれど、
身体は特に何も変わった様子はない。
どうせ新しい教師を手配したところで同じことになる。
それなら魔術の訓練をしていたほうがずっと楽しい。
そう言えばレオンも納得してくれた。
そんな風に二週間ほど過ごしていたら、
急に執務室に呼び出された。
ジニーと一緒に向かうと、そこにはレオンとお兄様、
そして側近らしい令息たちが集まっていた。
「訓練中に呼び出して悪いな」
「どうしたの?」
「アンペール国から使者が来た」
「え?」
「ルシールという名の王族の血を引いた令嬢はいない、と言っている。
王家に報告するから会わせろ、だとさ。どうする?」
レオンと婚約を公表したときに、
アンペール国にも書簡を送っていた。
それで私を確認するために使者を送ってきたらしい。
「あ~そうね。私、隠されて育ったから、アンペールの王家は知らないのかも。
でも、使者に会ってどうするの?どうやって確認する気なのかしら」
「来た使者というのが、ジョアン公爵なんだ」
「戸籍上の私のお父様ね。会えばいいの?」
ジョアン公爵とは一度しか会っていない。
ペルラン公爵が私を引き取りに来た時だ。
私の存在は知っているはずだけど、わざわざ確認しに来たの?
「……向こうが何を考えているのかわからないが、
ルシールの存在を認めさせないと正妃にできないからな……。
仕方ない、会わせるか」
「レオンハルト様、私も同席しましょう」
お兄様も心配なのか同席すると言い出した。
「よし、ジョアン公爵は応接室に待たせている。行こう」




