17.初めてのお出かけ
王宮の外に出かけるために動きやすいドレスに着替える。
ここに来た当初はレオンが急遽用意してくれた二枚だけだったのが、
今では衣装室にずらりと並ぶくらいにまで増えている。
こんなに必要ないと言っても贈ってくれるレオンとお兄様のせいだ。
成長期なのだから、すぐに着られなくなってしまうのに。
レナに髪を結われていると、お兄様が来たことが告げられた。
「お兄様もう来ちゃったの?まだ二時間前なのに」
「ふふ。ルシール様も三時間前から準備されているではありませんか」
「それもそうね」
楽しみなことがあると急いで準備してしまうのはお兄様に似たのかしら。
準備を終えて控えの間から出ると、レオンとお兄様がお茶を飲んで待っていた。
「待たせてしまってごめんなさい」
「いや、いいよ。ユリウスが来るのが早いんだ」
「そうだな。俺が来るのが早い。準備ができたなら行こうか」
「ええ!」
今日はレオンとお兄様、ジニーがいるのでレナとユーリは留守番。
ずっと二人だけで私の世話をしてくれているから、
今日くらいは休んでもらいたい。
見送る二人に手を振ってから部屋を出る。
王族用の馬車に乗って王都の街に向かう途中、
外を見るのに夢中で窓にはりついていたら、
がたんと揺れたとたんに椅子から落ちそうになる。
「あぁ、まだ一人で座るのは無理だな」
レオンがそう言って私を軽々と抱き上げる。
膝の上に座らせてくれたおかげでよく見えるけれど、
子ども扱いされているみたいで少し面白くない。
「そう不機嫌にならないでくれ。
揺れるたびにあちこち飛んで行ってしまったら、
帰るまでにあざだらけになってレナとユーリを心配させてしまうぞ」
「それは嫌だけど……」
「すぐにルシールも大きくなるよ。今だけだから」
「わかったわ」
焦ったところですぐに大きくなるわけじゃない。
ここで拗ねてしまったら本当の子どもみたいだと思う。
予定していた時間までは街をぐるりと回ってもらった。
店の軒下に掲げられている看板を一つ一つ確認するように眺める。
「こんなにお店って小さいのから大きいのまであるのね。
人が住んでいる家もたくさんあって面白いわ」
「本ではそこまではわからないからな」
「ええ、来てよかったわ」
今まで街も店も平民の家も、本の中にしかないものだった。
初めて見るそれらはきらきらしたものではなかったけれど、
私には宝物が並んでいるように見えた。
「よし、そろそろ行っても大丈夫だろう。
店の近くで止めさせて少し歩こう」
「いいの?」
「俺たちの手を離さないこと、勝手に行動しないこと。
それは約束できるな?」
「わかっているわ」
「よし、行こうか」
先にジニーが下りて安全を確認した後、お兄様が下りる。
私はレオンが抱きかかえたまま一緒に下りた。
「歩きたいから降ろして」
「ああ」
初めての街は石畳がカツンと硬い感触がした。
これが王都の道。王宮とは違って、いろんな匂いがする。
手をつないで最初の店に入る。
「ここは何のお店?」
「仕立て屋」
「ええ?もういらないわよ。あんなにたくさんあるのに」
「そうだけど、夜会用のドレスは作っておかないといけないだろう」
「夜会……お披露目するのは準成人になってからじゃないの?」
「普通はそうするが、ルシールの場合は早めにお披露目したほうがいい。
今ならペルラン公爵家がいないから」
「そういうことなら」
ペルラン公爵家が社交禁止されている三年間のうちにお披露目してしまえば、
もうペルラン公爵家が後ろ盾になるチャンスはなくなる。
異論はないので、おとなしく寸法を測ってもらう。
終わった後はすぐ隣の装飾品のお店に連れていかれ、
そこでも夜会用のネックレスを選ぶことになる。
……私が思っていた買い物とは少し違う気がするけれど、
これも必要なことだと思えば仕方ない。
お店から出てため息をついたら、お兄様に頭を撫でられた。
「つまらないことは先に終わらせておきたかったんだよ」
「え?」
「ここからはルシールが好きそうな場所だから」
その言葉の通り、次のお店は本屋でその次は焼き菓子店だった。
夢中で好きなものを選んでいたら、レオンが笑っている。
「どうして笑うの?」
「いや、楽しそうで良かったと思っただけだよ。
この後は隣にあるカフェに行こう。
予約している時間にちょうどいい」
「カフェ!行ってみたかったの!」
レオンにエスコートされ、店の中に入ってみれば、
そこはあこがれていた通りのお店だった。
磨かれた木材のテーブルがあるカウンター。
奥には四人で座れるテーブル席がいくつもあり、
可愛らしい小さな猫の彫刻があちこちに飾られている。
「素敵だわ……」
王宮の使用人のように礼儀正しい店主に迎え入れられ、
奥の個室へと案内される。
貴族街のお店なので利用するのはほとんどが貴族だと思う。
それでもレオンが利用するなら安全のためにも貸し切りにしなければいけない。
「さぁ、ルシール。食べたいだけ注文していいぞ」
「どうしよう……迷ってしまうわ」
食べてみたいものはたくさんあるけれど、そんなに食べられるわけじゃない。
困っていたら、残っても三人が食べてくれるという。
何度も来られるわけじゃないので、それに甘えて注文してもらう。
四人分のお茶と一緒にテーブルに運ばれてきたのは、
蜂蜜のクレープ、果実とチーズのタルト、林檎のパイ包み、
氷菓付きの焼き菓子、どれも美味しそう。
少しずつ味わって感動していると、外が騒がしいのに気づく。
「何かあったのかしら?」
「……ジニー、確認してきて」
確認するためにジニーが個室から出ていく。
店の前で何か起きたのだとしたら、ここにいるのは危ない?
不安に思っていると、レオンが氷菓を匙ですくって差し出してくる。
「ほら、溶けちゃうから食べて」
「え、うん」
甘酸っぱい氷菓が口の中で溶けていく。
余韻を楽しんでいるとジニーが戻ってくる。
「何があった?」
「……陛下が来られているのならば挨拶がしたいと、
モーリア侯爵家のマノン様だそうです」
「マノン嬢がどうしてここに」
「まさか王宮からついてきたわけじゃないよな」
「近くに止めている馬車で気づいたのかもしれません」
あの王族専用の馬車に乗れるのはレオンだけ。
それを知っている貴族なら、この店にいることに気づいてもおかしくない。
「他の貴族にからまれないように王族用の馬車にしたんだ。
普通なら邪魔しないだろうと思って」
「普通の令嬢じゃないからな……」
「外で待ち伏せしているよな。外の護衛に言って遠ざけさせるか」
「……待って」
「どうした?」
「私、マノン様と会ってみたい」
「「は?」」




