14.魔力属性
「火……風……水。やはりレオンの魔力属性まで移っているな」
「やはりそうか」
「三属性?」
普通は、主属性と副属性の二つを持っている。
たまに単属性の場合もある。リアーヌがそうだった。
だけど、三属性はめずらしい。しかも、火と水を持つなんて聞いたことがない。
「問題はそれだけじゃなさそうだ……」
「え?」
「これは……龍人の血だ」
「ええ?」
「なんだと!?本当なのか?」
「レオンの血を受け入れたことで龍人の血に近い状態になってるんだと思うが、
龍人の血そのものだと言ってもいいくらいだ。
だけど、これを公表したらまずいのはわかるよな?」
いつもの穏やかな微笑みを消したお兄様に、深刻さを理解してうなずく。
この国は本来は王家だけが国王になれる制度ではない。
たまたま四代続いて直系が継いでいるだけだ。
王位継承権は龍人の血を持つ貴族全員にある。
ただし、今のノヴェル国で龍人の血を持っているのは国王のレオンハルト。
筆頭公爵家当主のお兄様、前当主であるお父様。
そして、ペルラン公爵の四人だけ。
ペルラン公爵が筆頭公爵家をのぞむのはそのせいだと思う。
もし、レオンが跡継ぎもなく亡くなった場合、
次の国王は一番身分の高い龍人の血を持つお兄様になる。
そんな状況で、私が龍人の血を持つと公表すればどうなることか。
「これをペルラン公爵が知れば、俺とユリウスを殺そうとするかもしれないな。
俺と結婚して王妃になれば、次の国王はルシールになる」
「……私に女王なんて無理よ」
「おそらく誰もがそう思うだろう。
だからこそ、ペルラン公爵は父親である自分が補佐すると言い出して、
この国を自分の思うように動かそうとするはずだ」
「……そんな」
「龍人の血で治療したことでこんなことになるとはな」
龍人の血は治癒力が強すぎるため、安易に行えるものではない。
そのため、治療結果の研究はほとんどされていない。
過去の記録でも治療後に龍人の血に変わったなんて報告はなかったはず。
「いや、だが、ルシールが最初から龍人の血だったことはありえないか?」
「……そうか。一応は父親が龍人の血だからな。ありえなくはない。
俺の血で治癒したように見えたが、ルシール自身の血で治癒した可能性はある。
ルシール、以前の魔力属性は鑑定したことはあるのか?」
聞かれてルシールとして生まれてからの記憶を思い返す。
あの部屋の中で過ごした十年間。
きちんとした鑑定はされていなかったと思う。
「私は隠されて育てられていて、部屋から出たことがなかったの。
鑑定する魔術具を見たのは初めてだから、鑑定されたことはないと思う。
乳母が私の魔力属性はお母様と同じ火だろうって言っていたわ」
「火か。それは単属性だったのか?」
「たぶん。お母様が火の単属性だったみたいだし。
リアーヌだった記憶を取り戻すまでは風属性はなかった。
ルシールが苛烈だったのは火の単属性だったせいだと思うわ」
リアーヌが風の単属性のせいで身体が弱かったように、
それぞれの属性が強すぎると身体や性格に影響を及ぼすようになる。
火の単属性だったルシールはイライラしやすく、極端な行動に出がちだった。
閉じ込められていることに怒って魔力暴走を何度も起こしていたり、
剣で死のうとしたのはそのせいもあるかもしれない。
リアーヌだった記憶を取り戻したことで風属性が生まれ、
レオンの血を入れたことで水属性も手に入れた。
複数属性になれば安定して属性が影響を及ぼすことは少なくなる。
リアーヌだった記憶を取り戻してから気持ちが落ち着いているのは、
レオンやお兄様と再会できたことが大きいが、属性が安定したこともある。
「魔力量と属性は公表してもいいと思う。
これだけでも驚かれるはずだし、
それ以上のことを隠しているとは思わないだろう」
「それがいいと思う。アルベール公爵家が後見したとしても、
他国の令嬢が正妃になるのを良しとしない家は多いだろう。
そいつらを黙らせるためにも実力を示したほうがいい」
「……でも、実力といっても、魔術の訓練は受けたことがないわ。
リアーヌの時もほとんど魔術は使えなかったもの」
リアーヌの時は魔力量が少なすぎたことと、身体が弱すぎて何もできなかった。
ルシールは火属性だったこともあり、室内で訓練することはできなかった。
魔術理論の本を読むのは好きだったけれど、実際にやるとなると違ってくる。
「リアーヌの時に王子妃教育は終わらせてあるだろう。
ルシールが受けるとしても、理解しているかを確認するだけで足りる。
余った時間を魔術の訓練の時間にすればいい」
「訓練を受けさせてもらえるの?」
「龍人の血だと知られた場合、どんな狙われ方をするかわからない。
俺たちがいない時でも戦って身を守れるようになったほうがいい」
「できればルシールを戦わせたくはないけれど、それは同意する」
魔術の訓練を受けられると喜んでいたけれど、
あまり楽しい話ではなかった。
これから、国王の婚約者ということ以外にも狙われるかもしれない。
それを理解して訓練しなければならない。
「レオン、お兄様。私、頑張るわ」
「ああ、無理はしないようにな」
「教師は俺が手配しておくから心配するな」
こうして身体が回復していることも確認された私は、
正式に正妃候補者として発表された。
急にあらわれた正妃候補にほとんどの家は驚いていたが、
王宮に近い家は国王のお気に入りの令嬢がいると知っていたものが多く、
あれは正妃候補だったのかと納得されていた。
隣国の王族の血を引き、筆頭公爵家が後見。
国王と同等の魔力量があり、三属性持ち。
この条件を上回る令嬢はいないはずだが、
それでも一部の令嬢から不満の声があがった。
その中の一人、モーリア侯爵家のマノン様。
リアーヌだった時にはレオンの側妃候補の中で最年少の六歳だった。
今は十七歳。まだ婚約すらしていないらしい。
彼女はよほど許せなかったのか、
王宮にいるレオンに直接文句を言いにきたという。
「え?王宮まで?認めないって言いに来たの!?」
「ああ、そうだ」




