12.処罰(レオンハルト)
ペルラン公爵を待たせた部屋に入ると、公爵だけでなく夫人も一緒にいた。
俺に気づくとゆっくりと恭しく臣下の礼をする。
心の中では敬ってなどいないだろうに。
ペルラン公爵はもう四十歳に近いはずだが、いまだに若々しく、
見た目だけなら王族のように整っている顔立ちではある。
その見た目と口のうまさを武器に夫人たちを食い物にし、
手に入れた情報を使ってのし上がろうとしていた。
ノヴェル国の夫人や令嬢に手を出しているのは知っていたが、
まさかアンペール国の元王族にまで手を出すとは思わなかった。
隣にいる夫人はそれを知っているはずなのに、
おとなしく公爵に付き添っている。
こちらの夫人も筆頭公爵家になるためなら手段を選ばないような女だ。
似たもの夫婦なのだろうが、こちらにとっては迷惑でしかない。
「顔をあげろ」
「はっ」
顔をあげた公爵をまじまじと見る。
どうやらルシールは父親には似なかったらしい。
たとえどんな姿でもルシールを愛せるとは思うが、
公爵に似ないでくれたのはありがたい。
「時間がそれほどない。手短に話せ」
「は、はい。ルシールの様子を確認したくて参りました。
ルシールは助かったのでしょうか?」
「ああ、命はとりとめた」
「はぁ……そうでしたか。よかった!
ルシールを助けていただいてありがとうございます。
陛下が抱き上げて治療に連れていった時は驚きましたが、
それだけルシールのことを気にいったということですよね?」
「気に入った……まぁ、そうだな」
にやりと笑う公爵は思い通りに事が進んでいるとうれしそうだ。
「ずっと陛下の私室で静養させているとも聞いております。
まだ十歳とはいえ、令嬢であることには変わりません。
陛下の御手がついたと思われることでしょう。
これは正妃にしていただけると思ってもよろしいので?」
「……ああ。ルシールを正妃にしようと思っている」
「本当のことでしょうか!!」
「まぁ!あの子が正妃に!」
公爵は満面の笑みで喜んでいるが、夫人は思うところがあるのか、
一瞬だけ嫌そうな顔をしてから笑顔を作った。
「ありがとうございます!
では、正妃候補として教育を受けさせなくてはなりません。
ルシールを連れて帰ってもよろしいですね?」
「その必要はない」
「え?」
「ルシールの教育はこちらで行う。
ペルラン公爵家は関わらなくてよい」
「……それは、どういうことでしょうか?
ルシールは私の娘です。ペルラン公爵家が責任をもって教育いたします」
さすがにルシールから手をひくつもりはないのだろう。
焦ったように自分の娘だと強調し始めた。
だが、ルシールは公爵の娘なだけではない。
「ルシールがアンペール国の王家の血をひいているというのは本当か?」
「……ええ、それも報告しようと思っていました。
あんなことにならなければ、きちんと説明する予定でしたので」
「アンペール国の元第三王女が母親だと?」
「ええ、そのとおりです。ルシールが自分で話したのでしょうか?」
「ああ」
おそらく十歳まで部屋に閉じ込められて育ったルシールは、
何もわかっていないと思っていたんだろう。
だからこそ、自分たちに都合がいいように教育できると思っていたに違いない。
「俺にそのことを隠すつもりはなかったと?」
「もちろんです!陛下にとっても都合がいいでしょうから」
「都合がいい?」
軽く眉をひそめたが、上機嫌な公爵はそのことには気づかない。
「正妃はアンペール国の王家の血筋から選ぶことになっていますが、
他国の王家の者を正妃にするなんてとんでもない。
この国を乗っ取ろうとしてくるでしょう。
ですが、ルシールならばその心配はありません。
なにしろ、ペルラン公爵家の娘でもあるのですから」
よほどそのことに自信があるのか、胸を張っている公爵に、
あからさまにため息をついてみせた。
「陛下?どうされました?」
「お前は戦争を引き起こしたいのか?」
「えっ?」
「アンペール国の第三王女はジュアン公爵夫人だろう。
他国の公爵夫人を寝取っておいて、揉めないと思うのか?」
「いえ、ですが!ジュアン公爵とは話し合いがついています。
多額の慰謝料を払い、ルシールを引き渡してもらいました。
何も問題はないはずです!」
「それはアンペール国の王家は知っているのか?」
「!!……いえ」
ジュアン公爵はペルラン公爵家に引き渡して、
それでなかったことにしようと思っていたのかもしれない。
まさか俺の正妃候補にするとは考えていないだろう。
もしわかっていたら、引き渡さなかったはずだ。
「この件に関して処罰を与える。
ペルラン公爵家に三年間の社交と王宮への出入りを禁ずる」
「処罰ですと!?」
「陛下!お待ちください!そんなことになればっ!!」
公爵と夫人が一斉にわめきだしたが、黙らすためにスラリと剣を抜いた。
「っ!?」
「な、何を!」
「お前たちのせいで戦争になったら、同盟を破棄されたら、
処刑したとしても償いきれないぞ。どうするつもりだ」
「ですが!これはこの国のためにしたことで!」
「嘘をつけ。ルシールが生まれたのは同盟の前だ。
この国とは関係なく、お前が不貞しただけのことだろう。
ごまかすんじゃない!」
「そ、そんな……」
同盟が結ばれたのは十年前。ルシールはその一か月前に生まれている。
身ごもっていた時期も考えると、絶対に関係のない話だ。
「さきほどの処罰はとりあえずの刑だ。
アンペール王家との話し合い次第では、重くなることもありうる。
ルシールを正妃候補にすると報告すれば、何らかの動きがあるだろう。
……覚悟しておくんだな」
「そ、そんな……ですが、ルシールを正妃候補にするのですよね?
正妃の生家が後見できずにいれば侮られます!」
「それは問題ない。筆頭公爵家であるアルベール公爵家が後見につく」
「はぁ!?」
名前を出せば、前に出てユリウスがにっこり笑う。
うれしくてたまらないという顔を見るのは久しぶりだ。
「ペルラン公爵。あとは私がルシールの面倒を見ます。
安心して謹慎してください」
「っ!俺から娘を奪う気か!!卑怯者!」
「卑怯者はどちらですか?
この国の評判が悪くなるようなことをしておいて、反省しないのですか。
下半身の緩さは知っていましたが、さすがに信じられない愚かな行為です」
「なんだと!?」
ユリウスにつかみかかろうとしたが、その前に近衛騎士が公爵を止める。
取り乱すとは思っていたが、暴れ出すとは思わなかった。
「話は終わりだ。公爵夫妻を王宮から追い出せ」
「陛下!お待ちください!」
「どうかお許しください!!」
夫妻そろって見苦しいが、両脇を近衛騎士につかまれ、
ずるずると引きずられていく。
「ああ、そうだ。アンペール国との交渉が終わったら、
貴族順位も見直すことになるだろう。
楽しみにしておけ」
悲鳴のような呻き声を残し、二人は部屋から連れ出されていく。
残った俺たちはこらえきれずに笑い出した。
「見たか、あの顔」
「ああ、これで貴族順位があがると確信していたな」
「久しぶりにスッとした」
「そうだな。ようやく少しだけ気が晴れた気がするよ」




