11.あの日の再会(レオンハルト)
ルシールが王宮に来てから十日がたった。
そろそろ来るだろうと予測していたペルラン公爵から謁見の申し込みがあった。
ルシールが剣で自分の肩を傷つけ、俺が治療のために連れ去った。
その後、何も報告していないことに苛ついているに違いない。
あの時、しつこく娘に会わせようとするペルラン公爵に、
何かを企んでいるかもしれないと思うと会わないわけにもいかなかった。
仕方なく待たせていた部屋に行ってみれば、小さな少女に目を奪われた。
透き通るような白い肌に美しい金色の髪。
やや細すぎるのではないかと思うほど華奢な身体に、
なぜか威嚇するような攻撃的な気をまとっていた。
野生の猫、いや、狼のような雰囲気の少女に、
一瞬だけでも見とれてしまったことに罪悪感を覚えた。
俺が心を動かすのはリアーヌだけと決まっているのに。
きっと令嬢ににらまれたことなんてなかったから、驚いたんだ。
そう思うことで自分をごまかそうとした。
だからかもしれない。
意地の悪い真似をした。
死にたいほど自由を望んでいる少女の前に短剣を置いた。
実際に死ぬ気はないだろうと馬鹿にするつもりで。
だが、少女は、ルシールは迷わず自分を切りつけた。
本気で死にたいほど、その場にいることを嫌がっていた。
止めようと近寄った時、倒れこんだルシールと目が合った。
その時、驚いた顔と共に「レオン」と俺の愛称が呼ばれた。
俺をレオンと呼ぶのは幼馴染で側近でもあるアルベール公爵ユリウス。
そして亡くなったリアーヌだけだ。
まさかと思った。
何度も夢見ていたことだったから。
大量に血を流して倒れたルシールにふれると強い火属性のかげに風属性を感じた。
これは……リアーヌと同じ魔力だ。
それからは無我夢中だった。
急いで俺の部屋まで抱き上げて連れて行き、治癒を試みる。
普通の治癒では助からない。
この魔力量なら龍人の血を受け止めきれるかもしれない。
俺の右手のひらを短剣で切り付け、ぼたぼたと落ちる血をルシールの傷口にかける。
龍人の血はルシールの身体に吸い込まれ、次第に傷口はふさがっていく。
傷口はふさがっても、大量に血を失った身体を癒すのには時間がかかる。
それでもうっすらと頬に赤みが差し、命が助かったのだと知った。
龍人の血で治療するなんて初めてのことだった。
うまくいったのは運がよかっただけのこと。
助かったと感じた時、あまりの恐怖で動けなかった。
俺は……またリアーヌを失っていたかもしれない。
それからは大事に大事に回復を待って、ルシールを守ってきた。
ペルラン公爵に会うのは面倒だが、これからもルシールを守るためには仕方ない。
待たせている部屋に行こうとして、席を立ったらユリウスと目があった。
「ユリウス、お前も行くか?」
「そうですね。私も行きましょう」
これまでの恨みからか、ユリウスがにやりと笑った。
ペルラン公爵が悔しがる顔を見たいんだろうな。
あの頃はペルラン公爵家の力は強かった。
俺がリアーヌを正妃にするとわがままを言えたのは、
リアーヌが筆頭公爵家だったことと、すぐに死ぬとわかっていたから。
ペルラン公爵はリアーヌが死んだ後、
自分の娘を俺の正妃にすればいいと思っていたんだろう。
だが、あのお茶会でリアーヌが死んだことで、
俺は側妃候補すべてを拒んだ。
絶対に側妃候補を妃にしないと。
それに騒いだのはペルラン公爵を始めとする側妃候補の親たちだったが、
リアーヌを殺したかもしれない犯人を妃にするのは嫌だと告げた。
拒絶しても貴族たちは納得しなかったため、一つの提案をした。
「もし犯人がわかったのなら、他の側妃候補の中から妃を選んでもよい」と。
俺とユリウスはペルラン公爵家があやしいと思っていた。
だから犯人は出てこないだろうと考えた。
二週間後、ペルラン公爵家の分家のひとつである伯爵から助けを求められた。
伯爵の娘が犯人だと名乗りだせと強制されたと。
いくら分家であったとしても、犯人にされてしまったら、
娘だけでなく一家で処刑されるかもしれない。
でも、ペルラン公爵に逆らえば貴族として生きていけなくなる。
だからこそ、領地と爵位を返上するので助けてほしいとの相談だった。
父上は伯爵一家を保護し、ペルラン公爵のしでかしたことを公表した。
そして、ペルラン公爵家は貴族順位を二位から七位まで下げられることになった。
貴族順位とは、この国ならではの貴族の順位だ。
公侯伯子男の爵位は祖父の時代に他国に習って導入されたけれど、
国内では貴族順位のほうが重んじられている。
筆頭公爵家に並ぶほどの勢いだったペルラン公爵家が、
侯爵家と同じ程度の順位にまで落ちたことは屈辱だっただろう。
そのおかげでペルラン公爵家の娘との婚姻を強制されることもなくなった。
だけど、リアーヌを殺した犯人はまだわからない。
ペルラン公爵を待たせた部屋に入ると、公爵だけでなく夫人も一緒にいた。




