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めんどくさいけど仕事を請けてみる

翌朝、俺とマリーは宿を出てギルドに向かった。

マリーはまた鎧をまとっている。

昨日のしょげていた様子から、だいぶ立ち直ったように見える。


「この先にあるわよ、ギルド」

「……今日はポニーテールなんだな」

「……えっ!?結んでない方が良かった?」

「……あ、いや別に。ただ昨日の夜と違うなって」

「そ、そう……」


やべ、つい思ったことを口にしちまったぜ。

マリーはちょっと赤くなっているけど、意識しているのかな。

女にうかつな事を言うとセクハラになるから要警戒だな。

まぁこっちの世界ではその辺は甘いのかもしれないが。


っつーか、俺すげえ!女と二人で街を歩いている!

こんなこと、前の世界じゃ考えられなかったぜ。

それだけでも、この世界に来て良かったかな?

いや、この程度で満足していてはダメだな……。


マリーが不思議そうな顔をして俺の方をのぞき込む。


「なんか、嬉しそうね。報酬が楽しみなの?」

「え!?あ、ああ」

「そう」


なんか、いまだにマリーとまともに話せてないな……。


マリーは黙り込んだ。ブレイザーを倒した手柄は全部俺だし、面白くないのだろうか。

俺は報酬は折半(せっぱん)にしてもいいと思っているけど。元々マリーが受けた仕事だし。


ギルドに着いた。


マリーはまっすぐに受付に行く。慌てて俺もついて行った。


受付のお姉さんがマリーに声をかける。


「おはよう、マリマリ。今日は男の子と一緒なのね。気になる人が出来たの?」

「ち、ちょっと!そんなんじゃないわ、仕事の付き合いよ」

「わかってるわよ、その人は魔人を倒した英雄さんよね」

「からかわないでほしいわ、まったく……あとその呼び方やめてよ」

「はい報酬、金貨5枚よ」

「どうもね、あの強さならどう考えても足りないけど」


マリマリ……じゃなくてマリーは金貨を受け取ると、俺の所に来て、そのまま差し出した。


「はい。これはあんたのよ」

「それなんだが……元はマリーの仕事なんだし、俺は一部だけでいいよ」

「あんた一人で倒したんでしょ、全部あんたの物だわ」

「全部は受け取れない、そっちでそれぞれの取り分を決めてくれ」

「……じゃあ、私は1枚貰うわ。情報料ってことで。それでいいでしょ」

「マリーがそれでいいなら……」


俺は金貨4枚を受けとった。どのくらいの価値があるんだろう。


「あんた、ギルドに冒険者登録してないわよね?」

「え?ああ……」

「登録すれば、仕事を請けられるわよ」

「そう。じゃあ……」


仕事なんかしたくねーが、この金貨4枚で一生遊んで暮らせるわけはないだろうしな……。


俺は受付に行った。

お姉さんは20台半ばくらいで、アクセをつけてて大人の女性って感じだ。

お姉さんが話しかけてくる。


「あなたが英雄さんね。登録かしら?」

「あ……はい」

「じゃあここに名前と年齢と職業、スキルを書いてね」


うん……?

こちらの世界の文字は書けるようになっているが、職業は……。

魔術師とか冒険者?でいいのか?

こっちの世界の常識がわからん。

無し、じゃニートになっちまうだろうし……。

とりあえず……


名前:サトウサトシ

年齢:17

職業:炎の魔術師

スキル:炎の魔法


これでいいだろ。レベルの概念はメフィストにしか通じなさそうだし。

お姉さんに用紙を提出した。

用紙を見たお姉さんが可笑しそうな顔をする。


「炎の魔術師?聞いたこと無いわねー、まあいいけど」


ちっ、うっせーな。炎の魔法を使うのは事実だろ。


「名前はサトウサトシ……ねえマリマリ、あなたは彼のこと何て呼んでるの?」

「えっ?サトシだけど……」

「ふーん…………サトサトって呼んだらどうかしら?マリマリとお揃いでいいじゃない」

「ええっ、嫌よそんなの、ふざけないでよ」

「そっか……じゃあ私だけでもサトサトって呼ぼうっと。いいわよね、サトサト」


なんだこの女……。

昔、そう呼ばれたことはあったが、高校生になって今更だ。いや、今はもう高校生じゃないのか。

あれ?ということは今の俺って、中卒?えーっと……考えないようにしよう。


「え、ええ、別にいいですよ」

「そう!じゃあこれからはそう呼ぶわ、よろしくねサトサト」


はあ……うざ。

この人に比べたらまだポンコツマリーの方がずっと話しやすいな。

と、そのマリーが割り込んできた。


「ねえ、もういいでしょ、次の仕事を探しましょうよ」


そう言って俺の手を引っ張って、掲示板の前に連れてきた。

……これって、初手つなぎか!


いや、初腕(つか)まれだな。


掲示板の前に来ると、仕事の依頼票がいくつも貼ってあった。


「この中から選ぶのよ。私とあんたのコンビなら、かなり上位ランクの依頼もこなせそうね」


いや、戦力的には俺とマリーで100:1の開きがあるんだが……。

まあ、かわいい女子からコンビと言われるのも悪かねえな。


……うーん……どれもめんどくさそうだ。


近い所がいいな……あと美味いものでもあれば。

マリーが何か察したのか、こっちを振り向いて言う。


「あんた、まためんどうとか思ってるでしょ!」

「え……」

「ちゃんと依頼を受けて働かないと、あんたは無職よ!」


俺は今日金貨4枚稼いだばかりなんだが……1枚の奴に言われたくないぜ。


マリーがある依頼票を指さして言う。


「あっ、これ良くない?怪鳥ガルーダの盗伐依頼よ!」

「怪鳥?空を飛ぶのか……倒すのがめんどうなんじゃないか」

「またそういうことを言う……でもガルーダの肉って、とってもおいしいのよ」


おいしいだと!?

それなら……めんどくさい辛さを乗り越える価値はあるかもしれないな……。


「じゃあ、それで」

「オッケー、決まりね。報酬は金貨3枚で追加報酬は応相談。場所はミュール村……ここから歩いて2時間くらいね」


2時間だと!?きっついなそれ。

前の世界では極力歩かない生活をしていた俺にとって、徒歩2時間は果てしない苦行だ……。

マリーが呆れた顔で言う。


「たかが2時間でなんで嫌そうな顔してるの?強いくせにだらしないわね」


マリーは依頼表をはがすと、それを受付に持って行ってさっさと手続きを済ませた。


「さ、行きましょ」


マリーと俺はギルドから外に出た。


……あれ?何か忘れてるような。

そうだ、ブレイザーが言ってた炎破将軍についてギルドで聞くはずだったのだが、マリーは忘れたのか。俺も忘れたけどな。

まあいいか。どうせあのお姉さんも知らんだろ。


俺が自問自答していると、マリーが話しかけてきた。


「ミュール村に行く前に買い物しましょうよ」

「そうだな」

「まずは食料ね!」


そう言って、近くのパン屋に入って行った。

俺も続く。

店内には香ばしい匂いが漂ってくる。宿屋で食べたパンは固かったが、焼きたてならかなりイケそうだ。

マリーはすでに品定めしていた。


「あった、これこれ!私これ好きなの」


マリーが取ったのは……バウムクーヘンだった。

確かに美味しそうだ。

マリーはそれを1ホールも購入した。俺も買ったが、半分にしておいた。

値段は1ホール銅貨5枚、ハーフで銅貨3枚。

金貨1枚で銀貨10枚、銅貨100枚と等価らしいので、手持ちの袋の中にお釣りの銀貨9枚と銅貨7枚を入れた。じゃらじゃらしてきたな。


「じゃあ、早速ミュール村に行きましょ!」

「おい待て」

「え?」


お前、『まずは食料』って言ってただろ。なのになんで買い物が食料の調達だけになってんだよ。

バウムクーヘンの匂いで思考停止してしまったのか?

油断しているとすぐポンコツを発揮するな。


俺にとって一番大事なのは、服だ。

街を出る服が無い……。

この世界に来てからずっと、シャツとゆるズボンで、これで長距離歩くのは無理すぎる。


「服を買いたいんだけど」

「あ……そうね。それじゃ、服を売っている店に行きましょ」


自分は鎧を着ているのに、俺はこんなかっこのままでいいと思ってるとか、さすが知性5だけはある。


服を売っている店についた。

自慢じゃないが前の世界では洋服屋なんてめったに行かなかったんだが……さすがに服を親に買ってもらっていたわけではないけど。


「サトシ、これにすれば?似合うわよきっと」


マリーの前にあるのは……鋼鉄製のプレートメイル……。


「金貨3枚だって、あんたの手持ちで買えるわよ!」


冗談じゃない、そんな重いの着て2時間も歩くとか苦行すぎる。

たださっきのバウムクーヘンの値段からすると安く感じるが、中古品なのかもしれない。


「いや……俺は、魔術師だから鎧はいいわ」

「そうなの?私はいつかこういうのを着たいのよね」


マリーがあんなのを着たらせっかくのボディラインが見えなくなってしまう。ゆゆしき事態だ。


とりあえず、この世界の人間が来ているようなシャツとベスト、ズボンを買った。

それと、手触りのいいビロードの(えり)付きマント。これは魔術師としてのこだわりだ。

色は濃い紺色にした。真っ黒だとドラキュラみたいだからな。

丈は(ひざ)くらいまでで長すぎないようにした。


全てを着て鏡の前に立ってみた。

うん、悪く無いんじゃないかな。


「なんか、地味ねえ」


うっせーな。女には男のロマンはわからんようだ。

マリーの着てる鎧も別に派手な彩色を施したりしているわけでもないのだが。


「これで全部揃ったわよね。じゃあ早速ミュール村に出発!」

「いや、まだだ」

「えー!あと何を買うの?」

「本が欲しい」

「本!?それ戦いに必要?魔導書とか?」

「いや、暇つぶしのためだ」

「暇つぶし!?」


歩きながら本を読んだりはしないが、村についてから暇な時間があるはず。

そうしたらまた退屈でかなわん。この世界にも、小説くらいはあるだろう。

あっちの村には書店とか無いかもしれないし、1冊くらい持っていきたい。


「しょーがないわね、付き合ってあげるけどこれで最後よ?」


二人で書店に入る。


「本なんか……あ!『薔薇騎士物語』の新刊が出てる!」


マリーは興奮してその本を手に取った。顔が紅潮している。

俺の火炎魔法のことを話していた時とはまた違う、まだ見たことが無い表情だ。


「それ、面白いのか?」

「面白いなんてもんじゃないわ!騎士団長セドリックと敵国の皇太子ローレルとの禁断の愛を描いた傑作なのよ」

「え、それって、男同士なんじゃ……」

「純粋な愛に、性別の違いなんて関係ないのよ!ああ、雄々しいセドリックの胸に抱かれる麗しきローレル様……」


アチャー、完全に腐ってるわ……。まさかこっちの世界にも腐女子がいるとは。

しかしマリーにそんな趣味があるとはな……ただの脳筋だと思っていたが、人にはそれぞれ裏の顔があるものだね。


俺は腐男子ではないのでBLには興味はない。

うっとりしているマリーをほっておいて、俺は他の本を探した。


うーん、なんか教養本とか、戦士としての心構えとか、つまらなさそうな本が多いな。


ん?『現世転生奇譚』……どんな本なんだろうか。


気になったので買ってみた。銅貨10枚。


「決まったの?もう行きましょうよ」

「ああ、うん」


二人で書店を出た。


はー、これから徒歩2時間か。かったるいな。

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