めんどくさいけど女子の悩みを聞いてみる
「あーあー、あー」
俺はベッドに寝ころんだまま一人で声を出す。
ふぅ……ようやく、喋れるようになった。
たぶん1時間経ったのだろう。この世界には時計があまり見当たらないのではっきりしないけど。
街で時計塔を見かけたが、今は部屋の中にいてここの窓からは見えない。
あの後、カフェのメイドがマリーの粗相の後始末をしてくれて、その後に俺を褒め称える人たちから休まないかと宿屋を紹介されたので、そこに転がり込んた。
一応は街を救った英雄だし、まあ扱いは良かった。
ただ喋れないので、愛想笑いをしてどうにかやり過ごしたが。
もっとも喋れたとしても、あんなに囲まれてワイワイ言われていては上手い返しはできなかっただろう。
第一、大勢の相手とかめんどくさい。
俺はこうやって部屋でごろごろしているのが一番ですよ。
が、しかし、この部屋にはテレビも漫画も無い。
本が一冊あったが、ニヒトレイス教とかいう宗教の聖書みたいなもので、退屈な内容で読む気は全く起きなかった。
この世界の文字を読めることが確認できたのはいいけど。
はぁ……俺ってめんどくさがりやだけど、退屈なのも嫌なんだよ。
矛盾してるか?いやしてない、娯楽とは文字通り、楽で楽しいものなんだ。
あーゲームやりてー、アニメ観てえー。
ガチャ。
扉が開いて……マリーが入ってきた。
下を向いてうつむいたまま、立っている。
鎧は脱いでいて普通の衣服の姿になっている。シャツの上にベストを着ていて、下は皮のズボンをはいている。
脱いでも結構凄いようだ、超巨乳ってほどでもないけど、なかなかのナイスバディ。
髪はポニテに縛らずにロングにしている。こっちもいいな。
街で見た女性たちと比較しても、マリーはかなりの美少女だと思う。
俺は起き上がって、椅子を指さしてマリーに話しかけた。
「まあ……なんだ、そこ座れば」
マリーがその椅子に座る。
……。
何か言わねば。
「あのー……」
「喋れるようになったのね」
「……ああ、うん」
「あんたって、凄い魔法使えるのね」
「まあ、そうだな」
「……その力でもっと魔人を倒して、世界に平和をもたらすとか、そうするつもりなのよね!?」
マリーがぱっと明るい顔になって身を乗り出した。
しかし俺は気のない返事をする。
「いや別に…降りかかる火の粉を払うってだけで」
「なんでよ!」
「だって、めんどくさいし……」
マリーが俺をきっと睨み、まくしたてる。
「めんどくさいって何よ!!あんた、そんなに凄い魔法の才能があるのに、今まで何をしてたの?そうやって寝ころんでいただけ?世の中には魔人に苦しめられている人がたくさんいるのよ!なんでそんなにやる気が無いのよ!」
「いや、それは……」
「私は、魔法なんか全然使えないし、いくら剣の修行をしても上達しなくて銅印22位どまりだし、今日はあんな……恥ずかしいことになるし、なんであんたなんかに凄い才能があって、私には無いのよっ!」
そう言ってマリーは顔を手で覆った。体を震わせている。必死に泣くのをこらえているらしい。
俺はちょっと考えて、マリーに尋ねた。
「その、銅印22位っていうの……何人の中で22位なの」
「それは……確か今は48人よ」
「じゃあさ、君の下に騎士が20人以上もいるわけじゃん」
「……」
「俺は筋力や魔力は高いかもしれないが、剣は使ったこと無いし、それって結構たいしたもんじゃないの。知らんけど」
「……そうよ、銅印の騎士に入るのも、大変なことなのよ」
マリーは顔をあげて、得意げな顔をした。
立ち直りが早い……単純な奴だ。
ポンコツも悪いことばかりじゃないな。
マリーの実力があのパラメータ通りなら銅印とやらは別にたいしたことなさそうだけど。
「でもさ……マリーって、貴族の家に生まれたそうだし、そんなに苦労することないんじゃないの」
「そうね……求婚の話はいくつもあったわ。それに応じれば、有力貴族の力でマリーンドルフ家を立て直せたかもしれない」
「じゃあ」
「でも全部断ったわ。私は騎士として、自分の力で、栄達したいの。それが貴族としての誇りと義務よ。ノブレス・オブリージュってやつね」
……マリーの考えは実にご立派だが、ここまで見てきた限り、あまり騎士に向いているようには思えない。
まぁ、今日のブレイザーがこの世界で凄く強い敵だったなら仕方がないが、あの小者臭からして雑魚の部類なんじゃないかと思うんだよな。
そう言えばブレイザーが言ってたアレって、マリーは知ってるかな。
「あのさ、ブレイザーが炎破将軍様って言ってたけど、何のことかわかる?」
「さあ……魔人にも、組織や階級みたいなものがあるとは思うんだけど……そうだ、明日ギルドに行って聞いてみましょうよ」
「ギルド?」
「この宿の近くにあるわ。仕事の斡旋をしている所よ。ブレイザー討伐の仕事はそこで請け負ったから報酬も受け取れるし……あ、もちろん報酬はあなたの物よ。その時にその何とか将軍というのも聞けるかもしれない」
「そうか……」
この世界のことはまだ全然わからないし、そこに行けば何か道が開けるかもしれないな。
「じゃあ明日、一緒にギルドに行きましょう」
「うん」
「それじゃ」
そういってマリーはドアの方に歩いて行ったが…
立ち止まって、振り向いた。
顔を赤らめて、ちょっと目をそらしている。
「あの……今日、助けてくれて、ありがとう」
「え?ああ、うん」
「あの魔法、凄かった……炎が大きくて、とても熱くて……私、ドキドキしちゃった。また今度見せて……」
マリーの目が潤み、ちょっと恍惚な表情をしている。
自分の胸に手を当てて、もじもじしている。
「あ、ああ、いいよ」
「絶対ね」
そう言って、マリーは部屋から出て行った。
魔法の話をしている時のマリー、なんか、ちょっとエロかったな……魔法を見るのが好きなのだろうか?
そう言えば女って花火を見るのが好きだよな。それみたいなものか。
考えてみると、マリーとかなり話したようで、俺からはあまり言えてない。
何しろ妹を除いて女と会話したことが全然無いのだから、
とりあえずもう寝るか…今日の飯は、宿屋で出された固いパンと水だけだ。
明日はもっといいものを食べたい。
あと、服をなんとかしないとな。




