めんどくさいけど初陣を飾ってみる
目の前で宙に浮いているメフィストに俺は疑問をぶつけた。
「おいお前、いったいどうなってんだ、周りが固まって動かないぞ?」
「時間を止めているのレスよ。戦いながら選択なんかしてられないレスからね」
時間が……?
そういうことか。
マリーはしゃがんで苦しそうな顔で静止していて、痛々しい。
カフェにいる他の人達は驚いて逃げようとして、その姿勢で固まっている。
「なんだってこんなことをしたんだ?助けてくれるのか?」
「助ける……全くの間違いではないレスが、自分の力で『助かる』というのが正しいレス」
「自分の力で……」
「その力は前に言った通りこれから習得してもらうのレスけどね」
「でも、その代わりに代償とやらがあるんだろ……」
「まあそれはおいおい提示するとして、その前にまずお前のステータス一覧を見てもらうのレス」
「おい、そんな悠長なことをしていていいのか」
「時間は止まっているので問題無いレスよ」
メフィストがそう言った途端、俺の目の前に文字や数字が浮かび上がった。
レベル : 100
筋力 : 100
耐久 : 100
魔力 : 100
知性 : 15
カリスマ: 10
やる気 : 5
固有スキル:選択 取得 代償
追加スキル:
「これがお前のステータスなのレス」
「なんだよこれ……ゲームみたいだな」
「そんなとこレス」
「これって……強い…のか?」」
「筋力や耐久はこの世界最強クラスなのレスよ」
「それはありがたいが……このやる気5ってなんだよ。いや、わからんでもないけどさ……」
「各パラメータは凡人なら10くらいレス。お前はやる気は並以下レスね」
「マジか……でも、知性は人並み以上ってことだな。」
「自慢するほど高くはないレスけどね。中の上ってとこレス」
うーむ……。まあ、鈍そうなマリーですら俺の腕っぷしの強さを察したくらいだから、強いんだろうな。
「ちなみに、お前のパートナーになっているマリーのステータスはこうレス」
「パートナー!?」
レベル :1
筋力 :10
耐久 :10
魔力 :1
知性 :5
カリスマ:10
やる気 :20
固有スキル:愚直
追加スキル:剣技レベル1
「えっ……」
ポンコツだとは思っていたが、これほど低いとは……。
「マリーはパートナーとしては落第レスね。総合的に見て、凡人以下レス。何のとりえも無いレス」
「だからパートナーってどういう意味だよ……。うーん、でも……カリスマはもっと高いんじゃね?」
「この数値に容姿は含まれてないのレス。そもそも容姿と人望は別なのレス。同性なら美貌に嫉妬して嫌う人もいるレスよ」
「そういうものか……」
こいつの出したステータスを鵜呑みにも出来ないが、確かにここまでの判断材料だけで考えても、マリーは、無能……なのかもしれない。
……ただ……
あいつは、しゃがみこんでいる俺に、持たないでもいい興味を持ってくれた。手を差し伸べてくれた。
数値には出てこない何かが、あいつにはあるんじゃないだろうか。
とりあえず、俺はあいつを、守ってやりたい。
そのために必要なのは……。
「……で、魔法は使えるのか?魔力100だそうだが」
「まだ使えないレス」
「なんでだよ」
「魔力が高くても、追加スキルが無いレス。ここに魔法が無いとダメなのレス」
「それをこれから選ぶってことだな?」
「ザッツ・ライトなのレス」
これから戦うブレイザーは物理攻撃が効かない。たぶん魔法じゃないとダメなんだろう。
マリーも全く使えないようだし、俺が何とかするしかない。
「ではお待ちかねの選択肢を提示するのレス」
「早くしてくれよ……って時間は止まってるか」
「それでは……」
ステータス一覧が消えて、目の前に新たな文字が現れた。
「この3つの魔法を選択して、習得するのレス」
① 火炎魔法レベル100
② 冷気魔法レベル100
③ 雷撃魔法レベル100
「そして、この3つの代償を選択するのレスよ」
① 目が見えなくなる(1時間)
② 耳が聞こえなくなる(1時間)
③ 口が利けなくなる(1時間)
なんだと……魔法の方はいいとして、代償は3つとも嫌だな……。
でも思っていたほどひどくはないか……。
「代償が意外とたいしたことないって思っているレスね。でもこれは初回サービスなのレス」
見透かしてやがる……この悪魔め。
さて、どれを選ぶかだ……。
ブレイザーとやらは、青い色をしている。ならば……ここは①の火炎魔法が良さそうだな。
そして代償だが…まず①は無いな。②か③だが…たしか耳が聞こえないと、喋るのも難しいらしい。となると③しかない。
「決めたぞ」
「では、ゲイン~、チャージ~と言うのレス」
「こうかな……ゲインワン、チャージスリー!!」
「習得が①、代償が③レスね。契約は成立したのレス。そして、時は動き出す……」
……!
メフィストが消えて、また時間が進みだしたようだ。
俺はブレイザーの前に進み出た。
ブレイザーが高らかに笑う。
「ハーッハッハッハ、この街にはふぬけしかおらんのか。俺一人でこの街を魔人の物にできそうだな」
「…………」
「ん?なんだお前、喋れないのか?」
「…………」
やべえ、本当に口が利けねえぞ、声が出ない。これが代償ってやつなのか。
でも喋れたとしても、ケンカすらしたことない俺がこの状況でかっこよく啖呵を切れたかどうかはわからないが……。
そういう意味では③を選んだのは正解だったかもな。
マリーが驚きの表情を浮かべて俺に叫ぶ。
「や……やめて!あんたは逃げてよ、かなうわけないでしょ!」
まあ、そう言われても仕方がない。俺が今切り札を得たことをマリーはまだ知らないのだし。
火炎魔法レベル100……どういう仕組みか知らないが、使えることは確信できる。
さて、どうやって撃つか。
かっこいい掛け声でも出したいが、あいにく声が出ないので無言でやるしかない。
俺は手をバッと前に出して指をパーに広げた。
ブレイザーが少し怯む。
「なんだ……何か、やるのか?まさか……魔」
そのまさかだ。
火炎魔法レベル100!
ブボファー!!と凄い音を出して俺の手の先から激しい炎がほとばしった!
か、かなり熱い……しかし我慢するしかない。
そして、炎の濁流がブレイザーに直撃した!
「ギャアアアアアアア!!…………ア?」
……あれ?なんか、おかしいな……。
「……お前……バカか?」
何……何言ってんだこいつ……火炎を食らい続けているのに……
でもなんか……全然効いて無さそうだぞ?
「俺は、炎系の魔人だ。その俺に火炎魔法とか、まさに火に油ならぬ火に炎なんだが」
あれ……なんで……?こいつ、青い色してるやん?冷たいんじゃないの?
マリーが呆れような顔をして叫んだ。
「バカサトシ!そいつ、すっごい熱いんだけど!」
……あ!そうか……そう言えばガスコンロの炎って青いし……色で熱いか冷たいかなんて判別つくわけがないのか。
こりゃ、マズったわ。
マリーをポンコツだとか言ってられんな……。
ブレイザーが勝ち誇った声で嘲笑う。
「終わったな!敵に得意属性の魔法をぶつけるなんぞ、基本がなっとらんわ!」
……。
しかしこいつは……一つ計算違いをしている。
俺は、まだ、全力を出していない。
昔の漫画で、今のはメ〇ゾーマじゃないメ〇だ、みたいなセリフがあったが、今の俺はまさにそれだ。
俺は今は出力をかなり絞っている。初めてだったからお試し感覚で軽く撃っただけだ。
さて、そろそろ本気だすか。
火炎魔法レベル100……全開!!
俺の手から出ている炎が、激しく勢いを増し、ごうごうと爆音を立てる。
まぶしい光を放ち、カフェのテーブルや椅子を焦がす。
「無駄だと言ってるだろうが……無駄……む……むむむ……むああああああ!!あ、ああ、熱い!?」
ブレイザーがひきつった声をあげる。
「こんな……生まれてこの方、熱さなど感じたことがないのに……これが、熱さってやつなのか!」
相手の得意な属性だろうと……押し通す!!
「ぐ、がああああ、やめろ、もうやめてくれ、熱い!熱い!あつ……あああああああああああ!!え、炎破将軍様あああああ!!」
ブレイザーの体がぐるぐると渦を巻き始め……一瞬、大きく拡散して……雲散霧消した。消え去ったのだ。
「そん……な……。同属性の魔法で、魔人を倒すなんて……」
マリーが目を見開いて、愕然とした表情で俺の方を見つめて震えている。
肌が青ざめて透き通るように白く、唇の紅さが際立つ。
俺はそんなマリーを、綺麗だと思ってしまった。
俺の中にサディスティックな感情があるのだろうか?
いや、それとはきっと違う。震えている子猫をかわいいと思うような気持ちだ。いや同じことか?まあいいや。
俺はマリーに声をかけようとしたが……声が出ない。
そうだった、代償のせいで一時間喋れないんだった……。
マリーは腰を抜かしてへたりこんでいるが…その地面には、水たまりがあった。
なんだろこれ……。
「……あっ!、こ、これは、見ないで!!」
と言ってマリーはその水を手で隠そうとした。もちろん隠せてないし、意味のない行為であるが……。
あー、漏らしちゃったんだな……。
そりゃ、死ぬ思いをしたんだし、失禁もするだろう。しょうがない。
どれ、ここはかっこよく慰めてポイントを稼いでやろうか。
……って、今は喋れないじゃん!
俺は焦って、口をパクパクさせた。うわ、ださ。
「な、なによ……何か言いなさいよ!……私のこと、バカにしているの!?」
まずい、これは非常にまずい。どうしたらいいんだ。
俺は両手を動かして身振り手振りで何かを伝えようとしたが、もちろんどうにもならない。
「そんなにおかしい!?ひどいよ、これでも22位の騎士なのに、こんなのって屈辱だわ!わああん!!」
マリーは泣きだしてしまった。
あー、最悪だ。ほんと、女ってめんどくさい。




