めんどくさいけど道中でも活躍してみる
ミュール村までの道中、草原の中の一本道を二人で歩く。
その間、マリーは今までの修行の話をした。正直、かなり退屈だ。
地味な基礎体力訓練だの、騎士道精神の修練だの、聞いていてうんざりした。
マリーが実に得意げに話すので、適当にあいづちを打って合わせておいた。
貴族としての生い立ちについては全く話さなかったが、嫌な思い出が多いのだろうか。
道は林の中に続いていた。
そこに差し掛かったところで、ついにマリーは俺の事について尋ねてきた。
「ところで、サトシって、どこから来たの?」
「……」
「あ、言いたくないなら別にいいけど……でもそんなに凄い魔法が使えるのだから、名のある魔導士様に師事していたのかなって」
「それは……」
どうしたものか。いずれ聞かれるとは思っていたが……。
言えない、では怪しまれてしまう。それは嫌だ。
なんだかんだ言いつつ、マリーには嫌われたくない。
作り話をするにしては、この世界の事を知らなさすぎる。それに話すうちに必ず矛盾が出てくるだろう。言えない、よりもさらに不審に思われる。
俺は第三の選択肢を取ることにした。
本当の事を言う、だ。
それなら取り繕う必要が無いし、それが一番めんどくさくない。
ただし、ありのままを全て話すことはできないだろう。
「俺は……遠い所から来たんだ」
「遠い所?どこかしら」
「ここよりずっと、文明が進んだ国だ。ニッポンという」
「ニッポン!?初めて聞いたわ。そこはきっと魔法の技術が進んでいるのね」
「そこから、メフィストという悪い奴に捕まって、ここに連れてこられたんだよ」
「そうなんだ……大変な目に遭ってきたのね、サトシって」
メフィストには特に口止めをされてないし、話すのは問題ないだろう。ただ悪魔という言葉を言うのは避けた。
忌み嫌われる存在に関わった者として迫害されてしまうかもしれん。
それにしてもマリーがアホで助かった。
もしこの世界のことを知り尽くしている物知りなら、ニッポンなどという国はないと見抜かれただろう。
マリーが立ち止まった。
「ねえ、そろそろご飯にしましょうよ」
そう言って、マリーは道端にある石に腰かけた。
俺の生い立ちについての興味より食い気が勝ったのだろう。
まあ、そこはマリーのいいところかもしれない。
散々自分の事を話して、俺についてはあれだけ聞いて終わりというのもなんだが……。
「ああ、そうだな」
俺も近い位置の石に座った。
マリーが鼻歌を歌いながら包みを広げる。
「バーム、クーヘンー♪」
そしてホールのままのバウムクーヘンにパクっと食いついた。
もぐもぐしているマリーもかわいい。
……って、違うだろ!
俺は突っ込まずにはいられない。
「おい、なんだその食い方は」
「えっ!?」
マリーがむしゃむしゃしながら、目を丸くしている。
「バウムクーヘンというのはな、こう食べるものだ」
俺はそう言って、自分のバウムクーヘンを取り出し、注意深く、一番外側の皮をはがした。
そしてそれを口に入れる。
うむ、うまい。
そして、また一番外側の皮をはがす。それを口に入れる。
これだよ、これ。
職人が何度も塗り重ねて作った皮を、丹念にはがして食べる。
まさに創造と破壊、演繹と再帰、積分と微分。
バウムクーヘンはこの対なる行為を成すことで無に還って、その存在を全うするのだ。
俺の崇高な行為を、マリーは驚愕の表情をもって見つめていた。
「なにそれ……」
「どうだ、これが真の」
「キモい!」
「なっ…!?」
この女……
男のロマンを、理解できないのか!やはり!
「……まあ、あんたがそうやって食べたきゃそうしてれば。どう食べようと人の自由だし」
マリーはそう言うとまたバウムをもくもくと食べ始めた。
こ、この……。
やはりマリーとは理解しえないのだろうか……。
ま、いいや。これ以上どうこう言うのはめんどくさい。
俺はまたバウムの皮を1枚1枚はがす作業に戻った。
マリーはペロリと全部平らげていたが、痩せの大食いってやつかな。いや、胸と尻には脂肪があるけど。
「バウムクーヘンならいくらでも食べられるわ!あんたまだそうやってチマチマ食べてるの?さっさと行くわよ」
この薄皮の歯ごたえの良さがわからんとは、無粋な女だ。
―――
俺たちは食事を終えて、村に向けて歩き出した。
と、木陰から四人の男たちが出てきて道をふさいだ。
見るからに野蛮なやつらだ。野盗だろうな。
「よおよお、見せつけてくれるじゃんお二人さん。ちったあ俺たちにも分けてくれねーかな、楽しい時間をさぁ」
いかにもテンプレなチンピラどもだ。
以前の俺だったらビビりまくりだったが、今はこの世界最強の力を得ているのだから動じる必要はない。
とは言え、こういう底辺の人間が醸し出す空気は不快で苦手ではあるが……。
こんな奴らを相手することこそが、本当にめんどくさい。
案の定、マリーがキレだした。
「あんたたち何よ!私達急いでいるの、そこをどいてくれない?」
「ヒュー!怒った顔もかわいいなぁ姉ちゃん、俺たちと一緒に来ない?」
「無礼な!騎士の名において成敗してやるわ!」
そう言い放つとマリーは賊共に斬りかかった。
沸点低すぎだろこの女……。
マリーの一撃はひょいと軽くかわされた。
奴らはまだ殺すほどひどいことはしてないし、避けてくれてむしろ良かった。
でもこの世界では騎士は平民に対して切り捨て御免なんだろうか?
「騎士様の太刀筋にしてはへろへろだなぁ、ナイトのお姉ちゃんよ!」
そう言って賊がマリーを突き飛ばした。
マリーが地面に倒れ伏す。
「きゃあっ!……い、痛ぁーい」
かませすぎる……幸い、怪我はしてないようだ。
俺はマリーの前に立った。
「なんだ?やんのかコラァ」
「……消えろ!」
「消えるのは、お前だ!」
そう言うと、賊は斧で斬りかかってきた。
女は残して男の俺は殺そうってか。
……遅い……それこそ、へろへろだ。
どうすっかなぁ。そうだ、つまんでみよっと。
俺は親指と人差し指で斧の刃をつまんで、ピタっと止めた。
「!!?な、なんだこいつ……動けねえ、どうなってんだ」
そりゃ指二本で渾身の一撃を止められてるんだから、驚くだろうな。
ほい。
パリン。
指にちょっと力を入れると、鉄製の斧が割れた。おせんべいみたいだ。
「なっ……こいつ、バケモノか!?」
「ひぃ、気味が悪ぃ、逃げろ!」
はい、逃げた逃げた。
……ん?一人だけ残っている。
そいつはマリーをヘッドロックみたいに背後から抑え込んで、マリーの首にナイフを突きつけている。
やべ、人質にとりやがった。
マリーは蒼白な顔で震えている。
「くくく……それ以上動くな、この女の命はねえぞ」
ほんと、クズだな。
さて、どうするか。……うん、あれをやるか。
俺は手を素早く前に出して、マリーには当たらず、かつ、賊をかすめるように炎魔法を撃った。
ボオウッ!
「あ、あぢいいいいいい!!た、助けてくれえええ!!」
賊はやけどをして転げ回っている。10%に絞って炙っただけだし、死にはしないだろう。
「さ、行こうぜ、マリー」
「……」
マリーは茫然としている。無理もない。
「……素敵……」
マリーはつぶやいた。
あ、ついに俺に惚れちゃったのかな?
「……あの炎……凄い勢いで、メラメラしてて……」
だぁー。こいつどんだけ、炎魔法好きなんだよ……。
「あのー、マリーさん?大丈夫ですか?」
「……え?ああ、だ、大丈夫よっ!これくらい!」
あんな目に遭っても威勢がいいな。落ち込まれるよりはいいけど。
「あんたなんかに助けてもらわなくても、自力で切り抜けられたんだからっ!」
いや、どうみても無理だったろ。
でも、魔人じゃなくてチンピラ相手なんだし、もうちょっと何とかして欲しかったけど。
ここまで弱いと、守り切れないかもしれない。
銅印騎士とやらは、貴族のお飾り的な地位なんだろうな……。
まあ、男は我慢だ。
俺はへたりこんでるマリーに手を差し出した。
「そうだな、悪かったよ。ほら、立って」
……そう言えば、俺が最初にこの世界に来た時は、マリーがこうやって手を差し伸べてくれたんだな。
「……」
マリーは黙って俺の手を掴んで立ち上がった。
よし、やっと初手つなぎだ!
しかし、マリーは立ち上がると手を放す。
これは手つなぎとは違うな……。
「さあ、行きましょ。怪鳥ガルーダに苦しめられている村の人たちを早く救うのよ!」
威勢よく言うとマリーは歩き出した。
まあ、どうせ倒すのはまた俺なんだろうが、それでも二人で歩き続けよう。




