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リック王太子殿下配下の護衛騎士になることを提案された私はビックリだった。でも詳しい話を聞いて腹落ちした。
女性騎士の需要は女性の要人警護にある。リック王太子殿下も自身の護衛騎士として私をスカウトしたわけではない。私が護衛するのはリック王太子殿下の婚約者候補であるジゼル・エリザベス・ローゼンフェルト公爵令嬢だったのだ!
第二王子であるモートン殿下には私という婚約者がいたのに、リック王太子殿下は婚約者候補がいる状況。これには理由があった。
元々リック王太子殿下は隣国の王女との婚約話があり、それは幼い頃に国同士での話し合いを経て、決定事項になっていた。ところがその王女が十四歳の時、流行り病で亡くなり、婚約話は白紙に戻されてしまう。その後、いくつかの縁談話があったようだが、上手くまとまらない。王太子の婚約者ともなると、政治的な理由といろいろな思惑もあり、そう簡単にはまとまりにくいもの。
とはいえ、婚約者の座が不在だと今度は国内貴族もざわつく。そこでグランヴェル王国で一番身分の高い公爵令嬢が、婚約者(仮)として立てられることになったのだ。
その婚約者(仮)という立場は微妙であり、政敵はここぞとばかりにローゼンフェルト公爵令嬢の命を狙う。そう、彼女を亡き者にしようとする刺客を何度か捕らえることがあったのだ。
「公爵家がつけている護衛騎士は一名いるのですが、男性です。でもレストルームや着替えの時など、女性の護衛騎士がいた方が、万全です。そこでブランシェット侯爵令嬢、わたしの配下の護衛騎士となり、ローゼンフェルト公爵令嬢を守ってくださいませんか?」
リック王太子殿下のこの申し出、断る理由などあるわけがない!
騎士団に入団して要人警護にすぐに就けるかというと、それは分からない。もしリック王太子殿下が騎士団に対し「女性騎士を一人、護衛騎士として回して欲しい」と要望を出していれば、入団と同時に「ちょうどいいのがいます!」となったかもしれなかった。でも彼がそういう申し出をしていなければ、多くの騎士同様、王宮や宮殿での警護や儀式への出席などが中心だったかもしれないのだ。何より大きいのはその待遇!
騎士団に所属すると宮殿の敷地内の騎士団宿舎に部屋を与えられ、そこを生活拠点にする。ところが王族の直接配下になると、王宮や宮殿に部屋を与えられた。その部屋は仕える王族の近くであるから……とても立派な部屋を用意してもらえるのだ!
(ツイている。ものすごくツイていると思うわ!)
物語の進行通りで婚約こそ破棄されたが、お先真っ暗……にはならなかった。私はリック王太子殿下の有難い話を受け、ローゼンフェルト公爵令嬢の護衛騎士を拝命した。
◇◇◇
「こちらがローゼンフェルト公爵令嬢の護衛騎士になられるアニエス卿のお部屋になります」
王宮付きのメイドに案内された部屋に「えっ!」と驚くことになった。なぜなら……。
「王太子殿下の執務室の……隣、なんですか……?」
「はい。殿下の執務室は会議室と護衛騎士や使用人の待機部屋も併設されていますが、こちらの部屋は仮眠室としてこれまで殿下が使われていました。ですが国王陛下より、執務のし過ぎはよくない、寝る時ぐらいちゃんと自分の私室の寝室を使えというご命令がありまして。この部屋を物理的に使えないようにすれば、きちんと私室で休むだろうと、この度、アニエス卿の部屋になさったようです」
「な……なるほど。事情を聞くと納得できますが、私が仕えるのはローゼンフェルト公爵令嬢ですが、彼女の部屋からは……遠いですよね?」
「そうですね。ローゼンフェルト公爵令嬢のお部屋も王宮にございますが、そちらは既に専属の使用人や既にいる護衛騎士のロイド卿がお使いですから……。そもそもローゼンフェルト公爵令嬢の部屋の近くにご用意することはできず……。もしご不満があるようでしたら、リック王太子殿下にお伝えしますが」
これには「不満などございません!」と慌てて答えることになった。とりあえず麻袋に入れた荷物を、調度品など大変立派な部屋に置き、護衛騎士に支給されている濃紺の隊服へと着替えたところでローゼンフェルト公爵令嬢の専属侍女に呼ばれ、彼女の元へ向かうと……。
「アニエス卿、これからよろしくお願いします」
縦ロールのブロンドに碧い瞳、真紅のデイドレスを着たローゼンフェルト公爵令嬢はただソファに座っているだけでも圧倒的な存在感があった。そしてその彼女のそばに寄りそうにしているのが、私の同僚となるロイド卿。シルバーブロンドの長髪を左側で束ねた美貌の剣士で、一重のエメラルドグリーンの瞳が宝石のように美しかった。同じ隊服を着ているのに、彼が着ていると上質さが増しているように思えてしまう。
「今日は午前中は部屋でのんびり刺繍を楽しむつもりよ。昼食は殿下と摂って、午後はお茶会があるの。ケーク伯爵令嬢やマロニー子爵令嬢が来てくださるわ。夜はノルヤード王国の大使夫妻との晩餐会。外出の予定もなく、のんびりした一日になると思うの」
「了解いたしました。おそばに控えて、何かあったら必ずお守りします!」
「ええ。よろしくね」
こうしてローゼンフェルト公爵令嬢の護衛騎士として彼女の近くに控えることになったが……。
午前中、彼女は黙々と侍女達と一緒に刺繍をしていた。その様子を控えてただ眺めているのは……。
(睡魔との戦いだわ!)
私は立ったまま船を漕ぎそうになるが、隣にいるロイド卿はキリッとした美貌のまま、慈しむようにローゼンフェルト公爵令嬢達の様子を見て、眠気とは無縁に思えてしまう。
(ロイド卿、さすがね。聞いたところによるとローゼンフェルト公爵令嬢のことを五年前から護衛しているとのこと。きっとこの無音の刺繍地獄も悟りを開いたに違いないわ……)
午前中の修行(?)を終え、昼食になると、目が覚める。
「ノルヤード王国の大使夫妻から面白い話を聞きました。ノルヤード王国は毎年、氷で宮殿を作り、そこで一夜限りの舞踏会を開催するそうです」
ローゼンフェルト公爵令嬢と昼食を摂りに来たリック王太子殿下がこんな話を食事をしながらしてくれるので、自然と目が覚めるのだ!
「アニエス卿」
「はいっ、リック王太子殿下」
「わたしの話、面白かったですか?」
「えっ!」
「君が食い入るようにわたしの話を聞いてくれていたのは分かっています」
「そ、それは……」
興味津々で聞き入ってしまったことがリック王太子殿下にバレバレなのは恥ずかしくて仕方ないが、それでも彼の話はとても面白かったのだ。
「殿下のお話しされることは私の知らないことばかりなので……とても興味深く、面白かったです……」
「君が誰よりも瞳を輝かせて話を聞いてくれるので、いつになく饒舌に話してしまいました」
「恐れ多いことです」
ぺこりと頭を下げる私に微笑むリック王太子殿下は……。
(眩しい……!)
そんな昼食の後、ロイド卿と交代で休憩を取り、お茶会に護衛で就くことになった。
「ローゼンフェルト公爵令嬢、オペラハウスの近くに出来たショコラティエのお店には行かれまして?」
「行ったことはないのですが、取り寄せてチョコレートケーキを頂きましたわ。とても濃厚な味で美味しかったわね」
「まあ、お取り寄せができるなんて! うちは侍女に行列に並んで手に入れましたのよ」
刺繍をするローゼンフェルト公爵令嬢達は無音地獄だった。お茶会の席では令嬢達が流行のスイーツやドレスや宝飾品について話しているのだけど、それを聞いているとまたも眠くなってしまう。
私は自分で自分の足を踏んずけて、何とか眠気を堪えているが、ロイド卿はやはり菩薩のような表情でローゼンフェルト公爵令嬢達を見守っていた。
(ううっ、私はロイド卿の境地にいつか達することができるのかしら……)
だがこの後の晩餐会でとんでもない事件が起き、眠気どころではなくなることを……この時の私は全く気付かないでいた。
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本日、もう一話公開します~
















