検査結果
薄々感じているかも知れませんが、賢二くんはコミュ強です。
入院開始から2週間。ようやく私の検査漬けの日々に安定が見えてきた。最初の3日間程ではないが、毎日検査があった。今日はようやく一度家に帰れるみたいだ。緊急の場合の為に院内を出ることを禁止されていたが、一先ず大丈夫そうだということで主治医の吉田先生から許可が降りた。今の所すごく健康なので遅いぐらいだろう。
この期間の検査で、私の体の事は色々分かって来た。分かり次第説明が入っていた私の体の研究結果は以下のとおりだ。
細胞から血液、あらゆる所に金色の糸?のようなものがある。大学の皆さんは金糸と呼んでいる。見ることが出来るが、こちら側から干渉は今の所できていないらしい(触れようとしても、すり抜けるようだ。ある種の力場のようなものなのではないかというのが仮説だ)。これは、大学側が派遣した研究チームが、我慢できず採血した後、直ぐに顕微鏡で観察した事が良かった。この金糸は私の血液、細胞、おそらく骨と至る所に入りこんでいるようだが、私の体から切り離されると、時間経過で消えていく性質があるようなのだ。大学の研究施設で保存してじっくり調べることや、専門の研究施設に送っている間に消えてしまうのである。これは精密検査の結果が余り信用できなくなってしまったのでは無いかという話になった。先走って観察した研究員はどつかれてた。研究チームは荒れた。
次に私の細胞の性質だ。明らかにこの一連の事件に関わっているであろう金糸がなくなってしまっているだろうが、幾つか実験してみようとなった。その結果から言うと、私の細胞は細胞なのか疑問視された。まず、私の細胞(新細胞と研究チームに呼称されている)の寿命は10時間程。分裂回数は何と驚異の2回!既存の細胞は平均寿命に差はあれど、平均で五十回は分裂するにも関わらず、である。これは私の寿命もヤバいのでは?となった。一同騒然とした。細胞分裂速度が少ないということは、細胞がすぐ老化するということである。様々な弊害が考えられ、私が健康でいられるように、ぶっちゃけると私がすぐに死なないように、厳重な保護と検査の中止が考えられた。しかし、よく考えてみると、ここ一週間私は健康そのものだ。この程度の細胞寿命であればその弊害が既に出て来ていてもおかしくないにも関わらず、だ。ここで一つ仮説が立てられた。「私の肉体にいる時の新細胞の寿命は体から採取された新細胞は違い、寿命が長いのではないか」というものだ。その要因の最有力候補として金糸が挙げられたが、私の体内の何かが原因なのかも知れないし、そもそも金糸を全くと言っていい程研究できていないので、本当の所は分からない。研究チームの私を見る目がギラギラし始めた。恐ろしい(震え)。
新細胞には更に、どの細胞も幹細胞(分化細胞のもととなる母細胞の総称。)的性質を持っていると研究チームは言うのだ。生物が生まれる時、色々な細胞のに慣れる幹細胞が分化してあらゆる機能に特化した細胞になる。こうする事で生物はより大きく、複雑に、多様な能力を持ち合わせる事が出来る。要はキャパシティの問題なのだ。一センチもない小さな細胞に体を維持する為の全ての仕事、時には目として、神経として、或は免疫として、をやらせてしまったらどれも中途半端のまま細胞の寿命が尽きてしまうだろう。だが、私の細胞がそれが出来るらしい。私から取った細胞は採取されてからすぐ、形が変わったらしい。その細胞を慎重に増殖させ、マウスの皮膚につけた所、たちまち周りにあるマウスの細胞になってしまった。その細胞を取り出すとまた私から取り出された後の形に変質した。幹細胞の分化というのは基本的に不可逆だ。そして人間の幹細胞は人間の遺伝子しか持っていない。そのため人間の細胞にしか分化できないはずなのに、新細胞は容易に他の生物の細胞にもなってしまう。研究チームは戦慄した。この細胞を実用化出来ればもしかしたら、医療業界に大革命を起こせるかも知れない。寿命が少ない事がネックだが、それを解決出来れば、腕や目、心臓などあらゆる人のパーツのスペアを作れるかも知れない。だが、人類で唯一この細胞を持っている私は患者の一人でしかなく、この検査も何か問題がないか調べる為のものだ。研究チームは私を拝み倒した。研究費を大学側から強請り、私に正式な研究の協力できないかと打診してきた。政府側もこの検査の進捗を逐次確認していたらしく、予算を引っ張って来て、その契約が成立した場合には政府側からも金を出すし、ある程度の優遇をすると確約した。私は即決した。一週間ほど前までは、国民年金で安いアパートに最低限の暮らしをしていた私が、大手の幹部並の給料その他諸々を約束されたのだ。お金何ていくらあっていいし、姪や甥の子どもたちにもお小遣いをあげたい。そういう事で私は正式に国のモルモットとなったのだ。大丈夫。ちゃんと権利や保証関係は保証させた。週休二日制だ。




