プレゼント5
プレゼント五
十二月二十五日。午後六時半。今日が本当のクリスマスの日である。
俺は加奈の家に来ているが、サンタ服は着ていない。加奈に誘われてケーキを食べに来ただけである。
プレゼントは昨日と今日の朝に二つ配ったから、開始を九時にしてもらった。
加奈の家には俺と加奈の二人きり――というわけではなく、加奈の両親がいる。ちなみにメリーは感情集めをするために外出中だ。
そして今、俺の横には加奈が座り、目の前には加奈の父親が座っている。
現在の空気はかなり重く、気まずい状況になっております。
「単刀直入に聞くよ」
いつも明るい加奈の父親が真面目な口調で俺に話しかけてきた。
「何でしょうか?」
「加奈に聞いたんだが結婚を考えているというのは本当なのかい?」
「ブッ!」
お茶をすすっていた俺は盛大に吹いた。
「大丈夫かい?」
「すいません。話が逸れますがそれは誰に、いつお聞きになりましたか?」
「今朝、私が優雅にコーヒーを飲んでいるときに加奈から聞いたんだ。その時私も亮君みたいに吹いたよ」
「ですよねー」
多分むせただろうな……。
「それでどうなんだい? 君は加奈と結婚する気があるのかい?」
「ないです。というよりも俺は加奈に結婚しようなんて言って――」
そう言えば、昨日の組長と戦う前に……。
俺は椅子を降りて土下座した。
「すいませんでした! 昨日の夜つい、酔っぱらった勢いでいってしまいました!」
頭を地面に擦りつけながら謝る。適当に言ったとはいえ、結婚させる気にしたのは全面的にこちらが悪い。
「そ、そこまでしなくていいよ。ほ、ほら、頭を上げて」
オロオロとしながら加奈の父親は俺を許してくれた。
「まあ、こんなことだろうと思ってはいたけど今日一日中ずっと考えていたんだ。亮君なら加奈を幸せにしてくれるだろうか、愛してくれるだろうか……。それで結論を出した」
「何のですか?」
何か嫌な予感がしながらも聞いてみた。
「昔から見ていた亮君なら大丈夫だろうと考えて、結婚を許そうと!」
「本当にすいませんでした!」
ずっと考えてくれていた父親に申し訳なく思う。
だけど俺が一番そう思うのは加奈だ。
加奈は俺を疑わず、その日に父親に結婚すると話していた。加奈は俺と結婚する気満々だったんだ。冗談で加奈が言うわけがない。
ふと加奈の方を見ると下を向いて震えていた。でも土下座をしている俺には加奈が今、どんな顔をしているか。
「亮君の誠意はわかったから。ほら、椅子に座って」
「はい……」
そう言われ俺は加奈の隣に座り直した。
加奈が俺のことを好きなのは告白する前から知っていた。知っていたというよりも薄々そうじゃないかと勘づいていた。
俺は加奈のことが好きだ。一人の女の子として。
だけど結婚までは考えていなかった。
だから今、考えた。
「お父さん」
「どうしたの?」
「今回のことで考えました。これからは結婚を前提に考えてお付き合いしたいと思います」
「「「え?」」」
キッチンで料理していた加奈の母親の声も重なった。
「いきなりどうしたんだい? さっきはないって言ってたのに……」
「そうだよ! 私を見て同情したの⁉」
「確かにさっきまではありませんでした。でも、今考えました。僕は加奈さんとずっと一緒にいたい。これ以外に理由はありません。だから、もう少ししたら加奈さんを僕にくれませんか?」
「私はさっき言った通り、亮君を信頼しているから許す。だけど、母さんと加奈が許してくれるかどうかは……」
「私は全然いいわよ。むしろ亮君に貰って欲しいぐらいよ」
加奈の母親は即答した。
「加奈はどう思う?」
「……」
返事がないんだが……。
「あのー。加奈さん?」
「考えさせてー!」
加奈はガタリと席を立ち、自分の部屋に戻っていった。
「えー……」
父親は俺の肩に手を置いて一言言った。
「どんまい」
おかしいな。ここでこそ即答するところじゃないのか?
いつものビルの屋上。今はサンタ服を着ている。
「ぎゃはははは! 亮が振られたー!」
さっきのことをメリーに話したらここ十分間ずっと笑っている。
「いやー。僕の目の前で爆発する人は君が初めてだよ。どんまいどんまい! 切り替えていこう!」
「うるせー! まだ振られてないから待ってと言われただけだから!」
「それってごめんなさいって言われるフラグだから!」
「どこ情報だよ。そんなフラグ聞いたことないぞ!」
「少女漫画を読んだらわかるよ。あの漫画やその漫画、他にもいろいろと」
俺はいくつかの少女漫画を思い浮かべた。確かに老若男女関わらずほとんど振られていた。
「ちくしょう! まさかこの俺がクリスマスの日に爆発するとは……」
「僕は今日、亮に優しくできる気がする! 寒いでしょ? 何か温かい飲み物でもだしましょうか?」
「いらんわ! 逆に腹立つから普通に接してくれ」
「まあまあ。そんなに怒ると寿命が縮むよ」
「けっ!」
それよりも今日のプレゼント配りどうしよう。恥ずかしくて加奈と顔を合せられない。
考えるだけでもため息が出てくる。
「話が変わるけど、ちゃんと感情集めた?」
「ああ。昨日のコンビニの店員がいたからもらってきた」
「満タン?」
「満タンだ」
「そのコンビニの店員怖くない?」
「正直、俺もそう思う」
プレゼント配り中に加奈もその店員から集めたらしい。それに今日俺もお世話になったが、それでもまだ集められた。
「メリーは何の感情なのかわかるのか?」
「わかるけどいきなりどうしたの?」
「いや、集めた感情がどんなものか知りたくなって」
「それって調べなくてもわかるような気がする……」
「俺も大体想像はついてるけど、確認しないことにはわからないだろ」
「亮はその店員以外から集めたりした?」
「集めてないけど、昨日の残った分が少し混ざってるかも」
「わかった。調べてみるからその手袋脱いで僕にちょうだい」
「ほい」
俺は手袋を外して、メリーに渡した。
「手汗がすごいね。びちょびちょだよ」
「嘘つくな。俺は手汗を書いてないぞ」
メリーは器用に手袋を裏側にひっくり返した。赤色の手袋のはずなのに裏側は真っ黒になっている。
「色で判断できるんだけどこれはすごいね。百パーセント憎悪だよ」
「予想通りだが、これだけの憎悪があって俺に悪影響はないのか」
「問題ないよ。前にも言ったかも知れないけど、感情の種類に良し悪しはないから心配することはないよ。はい、手袋」
「ならいいけど……」
「お待たせー。待ったー?」
扉が開き、加奈の声が聞こえた瞬間俺の心臓が止まりかけた。
「いや、全然待ってないよ」
「と言いつつも、三十分前からここに来ていた亮であった」
「メリー! なぜ言った⁉ 何で今言った―⁉」
「そんなに待ってたの⁉ ごめんね! 寒かったでしょ⁉」
加奈がギュッと俺の手を握ってくる。
「そ、そうでもないし、メリー! 早く抽選しろ!」
「顔が赤いぞ青年! いいのー! 青春じゃのー! おっほほほほ!」
ニヤニヤしているこの猫を今すぐに殺したい。
「じゃあ抽選しまーす! ほほほほ!」
「何だよその笑い方! 気持ち悪いぞ!」
「へいへい」
メリーは俺たちに背を向けて少し離れた場所に移動した。
「ねえ亮」
「な、何だ?」
「これが終わったらさっきの返事するから。今はプレゼント配りに集中しよう」
「……わかった」
それって今言ったら支障が出るからだよね? イコール――。
俺の脳は思考を停止した。
気づくと加奈の家のベッドで寝ていた。
あれ? なんでこんな所で寝てるんだろう……。
「おはよう。亮。やっと起きたね」
メリーが俺の枕元に立って俺の顔を覗き込んだ。
「おはよう。なんで俺はここで寝てるんだ? プレゼント配りは?」
「順番に説明するから落ち着いて。まず何でここで寝ているのかから。僕が当選者の紙を作っていたときにいきなり倒れたんだよ」
「これまたどうして……」
「そのとき亮は呼吸してたし、心臓も動いていた。瞳孔も普通だった。生きているけどビクリとも動かない植物状態? みたいになっていたからここに運んだんだ」
「なるほど。今は何時だ?」
「丁度、零時。プレゼント配りはまだ進めていないよ」
「加奈はどこ行った?」
「一階のリビングで寝てるよ」
「そうか……」
加奈に言われた後、俺は倒れた。それで加奈とメリーがここに運んでくれた。そしてプレゼント配りは抽選だけ終えているという状況か。
「わかった。運んでくれてありがとうな」
「どうもー」
「そうだ。誰にプレゼントをやるか決まったんだろ? その紙を見せてくれないか?」
「うん……」
メリーは重々しい表情を浮かべながら俺に紙を見せた。
「どれどれ……」
俺はこの紙を見て絶句した。
内容はこうだ。
場所はここから十キロ先にある病院。当選者は十歳の少年だ。
欲しいものはガンを絶対に治す薬。
「なあメリー……。いつも思うんだが、お前はどうしてこう無理難題のものばかりを選んでくるんだ?」
「選べたら、選ばないよ。文句があるならこれを頼んだ少年に言ってよ」
「一応聞くけど、ガンを絶対に治す薬ってあるのか?」
「逆に聞くけど、今までにそんなものがあると聞いたことある?」
「ないよなー……」
抗がん剤というものがあるけれど、それは絶対ではない。詳しいことはよく知らないが、その治療をしても転移したりして再発する人が多くいる。第一、絶対に治す薬が作られているなら、日本の死因ランキングの上位に入ったりしない。
「どうしようか……」
「どうしようもなくないか?」
「いや、ぶっちゃけて言えば、僕は作れるよ」
「作れるのか⁉」
「作れるよ」
それを聞いて安心とメリーへの恐怖心が生まれた。
メリーって本当に何者なんだろうか……。
「ただ、それを作るのに二通りあるんだけど、どちらも現実的じゃないんだ」
「お前の存在自体が現実的ではないが、なんだその二通りって?」
「一つ目は今まで通り感情で作る方法。使う感情が膨大で、今使ってる手袋の十倍感情が入る専用タンク百本分用意しないといけない」
「……」
「もう一つは生きている人間を生贄にする方法。さっきの方法よりも労力は使わないけど、この方法をやったら亮と加奈は精神崩壊すると思う」
「……」
確かに現実的ではない。というかどちらも不可能に近い。
「僕は諦めるのも手だと思うよ。誰も君たちを責めることは出来ない」
「でも、この紙に書かれているということはなにかしらの方法があるんだろ?」
「今さっき言ったのが、何かしらの方法だと思う」
「加奈はこの紙を見たのか?」
「亮が怒るだろうと思って見せてない」
「グッジョブ」
加奈に見せたら何をしだすかわからん。今回はこのまま寝かしておこう。
「病院に行って話を聞いてみようぜ」
「「そうだね」」
今、声が重なったたような気がする……。
「ここが少年のいる病院か……」
「なかなか広いねー」
最初から聞いていたらしく、結局加奈もついてきた。
俺たちは少年のいる個室にいた。
面会時間もとっくに終わっているというのにどうやって入ったかって? それはご想像にお任せします。
「今だったら引き返せるぞ?」
「話を聞いた時点で覚悟はできてるから」
「さいですか。あ、メリーはベッドの下に隠れとけよ」
「言われる前に隠れてまーす」
下を見てみるとメリーは既にベッドの下に潜り込んでいた。
「じゃあ起こすぞ。おい少年。起きろ」
俺は軽く少年を揺さぶった。が、全く起きない。
「私に任せて! 中学校の先生が異性の手を握ると一瞬で目を覚ますって言ってた!」
「そういえば言ってたな……。なつかしい」
まあ、その担任が四十代の爺さんだったから授業中に検証出来なかったけど。
「とりあえず、そこをどいて」
加奈は俺をどかして少年の手を握りしめた。
「起きて、お姉サンタが来たよ」
少年の耳元で囁く。
すると少年はパチリと目を覚ました。そこで俺は口元を押さえつける。
「んーーーー!んんん!」
「静かにしてね。じゃないとまた寝かせるよ」
加奈は笑顔で握りこぶしを見せつける。少年が頷いたのを確認してから手を離した。
これをやっていて思うのだが傍から見たら誘拐犯にしか見えないよな……。
「なんでサンタさんがいるの⁉」
「お姉ちゃん達は君の病気を見に来たんだよ」
「もしかして治してくれるの⁉」
そんな希望を見つけたような顔をしないで欲しい。心が痛んでくる。
「治しに来たんだけどさ、まず君の病気について教えて欲しい」
「確か小児がんの中の脳腫瘍ってお医者さんがいってたよ。ステージは3」
「いつ見つかったの?」
「一週間前から頭痛と吐き気がひどくて今日病院に行ったらそう言われた」
「じゃあ今日見つかったの⁉」
「うん。それで緊急入院っていうのでここにいるんだ」
「なるほど」
ステージ3か……。確か数が大きいほうが生存率が低かったような気がする。
「サンタさん。僕って死ぬのかな?」
「何言ってるの! まだ始まってもないのにそんな弱気になったらダメだよ!」
「僕もわかってるけど、どうしても考えちゃうんだ。死んだら僕はどこに行くのか、パパやママにはもう会えなくなるのか、死ぬときに痛いのか、他にも――」
バチン!
加奈は少年の頬を強くぶった。
「考えたらダメ! それ以上言うなら顔面パンチだからね!」
「だって、だって!」
少年の目から涙がこぼれ落ちていく。
「そうだよね。死ぬかもしれないのに死ぬことを考えるなって言うのは無責任だったよ。でもね」
加奈は少年の背中に手を回してしっかりと抱きしめた。
「無責任なことを言うのは君を必ず助けるからだよ。だからもう考えないで」
小声で少年をなだめながらそっと髪を撫でた。
「グスン、わかった。もう考えないようにする。それと、お姉ちゃん……」
「どうしたの?」
「胸が当たってるんだけど……」
なぜそこでそれを言うんだ。感動シーンが台無しだよ。
「ねえ君?」
「はい?」
「ここで死ぬか⁉ ああん‼」
「ごめんなさい!」
ほら加奈になっちゃったよ。
「はあ。おい少年」
「何でしょうか……」
「お前はまだ生きたいか?」
「え?」
「生きたいか?」
「うん!」
「十分だ。加奈、少年の面倒を見ていてくれ。少年が変なことしたらぶっ殺していいぞ」
「了解しました!」
「行くぞメリー!」
「おー!」
俺とメリーは窓を開けて四階の病室から飛び降りた。
「メリー……。どうしよう……」
「どうしようって何も考えてないんだね……」
俺は途方に暮れていた。あの後、メリーに専用タンクを出してもらい、感情集めに行った。
そして俺は、十倍という壁がどれほど高いかを思い知らされた。
専用タンクといっても二百五十
例の底なしコンビニ店員から感情を集めたが貯まったのはたったの一割。サンタ手袋一つを満タンに出来る量しかなかった。
集める量は十倍の専用タンク百個。
「これ無理じゃね?」
「いきなり希望を絶たれたね……」
「他にいい案ないのか?」
「コンビニ店員のせいで何も考えられない」
「だよねー……」
実際、コンビニ店員は何も悪いことはしていない。むしろ夜勤お疲れ様です、と労わるべきである。
「どっか良い場所ないのか? 経験豊富なお前ならでどこが効率よく集められるか知ってるだろ」
「知ってるけど、リスクが大きすぎるから教えない」
「そう言われると逆に気になるんだけど」
「ヒント一。君も行ったことがあります」
「街中?」
「ブー。今の時間帯、あそこにはあまり人がいません。ヒント二。そこにいったら疲れます」
「居酒屋」
「集められそうだけどブー。ヒント三。昨日行きました」
「西村組かよ! 絶対に俺は行かんぞ」
「僕も行く気はないよ」
西村組とはもう関わりたくない。ボロが出そうで怖い。
「まず漠然と感情とか言うからダメなんだよ。集める感情の種類を決めようぜ」
「おお、亮にしてはまともな意見だね!」
「俺はいつも真面目だ。で、何か意見はないのか?」
「リア充への憎悪」
「かなり限定してきたな。でもクリスマスはもう終わったぞ」
俺が目を覚ました時にはもう十二時を過ぎていた。非リアの皆様はむしろクリスマスが終わったと喜んでいそうだ。
「でもネットカフェに行ったらいそうじゃない? 親、友人から逃げるため飛び込んだ人がいっぱい。亮も逃げ込んだら?」
「お前はまだそのネタを引っ張るか。いい加減にしないとぶっ殺すぞ」
「そんなこと言わないでよ。僕を殺したら薬が作れなくなるよ」
「だったら作った後に殺す」
誰がネカフェに逃げ込む……。
ネカフェ……。逃げ込む……。ネカフェ……。あっ……。
「あった……あったぞ! 大量の感情が集まるところが!」
「西村組?」
「西村組がそんなに気に入ったなら住み着いていいぞ」
「ただ僕はそこしか思いつかないからね」
気に入ってるじゃねーか……。
「メリーにもう一度聞くぞ。感情の種類ってなんでもいいんだよな?」
「いいけど何の感情集めるの? もう一回聞くってことはそんなに……」
「もう何も言うな。メリー、大至急で専用タンクを百個作ってくれ」
「う、うん……」
人の命に関わることだ。綺麗事は言ってられないんだよ……。
メリーが次々に専用タンクを作っていき、俺はそれを白い袋に入れていく。
「亮、それ重くない? 半分に分けた方がいいんじゃない?」
「ダメだ。ほら、生産スピードが落ちてきたぞ」
「へいへい」
あそこに全てが掛かっている。最後の希望だ。
ピンポーン。
「はい。って、あ、あの……家を間違えていませんか……」
家の中から隼人が出てきた。
中からは騒ぎ声が聞こえてくる。まだ中には俺の友人たちがいるようだ。
「そ、その、ここに届けてきてって先輩に言われたんです」
俺は顔を赤くして小声で言う。
今の俺の恰好はサンタ服だ。けど、性別が違う。
俺は変装機能と変声機能を使って可愛い女の子になっている。
二次元好きのこいつらの好みに合わせて、百四十弱の小柄な身長に黒髪ロング、大きい胸に、あどけなさの残る幼い顔立ち。そして控えめでありながらも大胆な性格。
「あの……とりあえず家に入れてくれませんか? 寒いです……」
ここで上目遣いで恥ずかしそうに頼むのがポイント。
「どうぞどうぞ! お入りください! お荷物もお持ちしますよ!」
隼人は俺が持っている白い袋を持とうと手を伸ばした。その手を俺は軽く握った。
「ちょっ! 何してるんですか! 俺みたいな薄汚い豚の手を!」
「気遣ってくれてありがとう。君の手って温かいんだね」
俺はにっこりと無邪気な笑顔を隼人に向けた。
袋の中にはタンクしか入ってない。しかもかなり重い。隼人が持ったら腰をやるレベル。
ちなみに俺の体に触れると袋の中のタンクに貯まり、手袋にどれだけ貯まったか分かるようになっている。
「それと、何か楽しそうな声が聞こえるんですが私も遊んでいいですか?」
俺の手を取り皆友人のいない部屋に連れ込もうとしている隼人に声をかけた。
「全然いいですよ! 案内します!」
隼人はくるりと踵を返して二階にある自分の部屋向かった。
「サンタさんが遊んでていいんですか? 他に行くところがあるんじゃないんですか?」
「いいんです。休憩中ですから」
「そうですか」
ここからが本番だ。こいつらから興奮という大量の感情をいただくぜ。
「おい、お前ら! 頭を下げろ! サンタ様が来てくださったぞ!」
「何言ってんで――大変失礼いたしました!」
俺の顔を見た瞬間、隼人を含めた全員がひれ伏した。
「そ、そんなことしなくてもいいですよ! 皆さん頭を上げてください!」
「私はあなたに一緒ついていきます! さあ! なんなりと申し付けてください!」
一人が言い出した後、全員が俺に忠誠を誓った。
こいつらは主を変えるのが早くないか? それよりも前の主がかわいそうだ。
「じゃあホットココアをいただいてもいいですか?」
「「「「「喜んで!」」」」」
隼人以外、我先にと言わんばかりに部屋を飛び出していった。隼人は裏切られたことにより放心状態になっている。
「あの……大丈夫ですか?」
「私のことは放っておいていいですよ……」
隼人はどこか遠くを見つめていた。
「「「「「お待たせいたしました」」」」」
「皆さん早かっ――えー……」
こいつらは馬鹿なのか。なぜココアを頼んだら全員がココアを持ってくるんだろうか」
「私はこんなに飲めないので皆で飲んでくれませんか? 私は一杯で十分ですから……」
俺は目の前にいた男子のココアを受け取り、口を付けた。
少し熱いけど温まるな……。
チラッと皆の方を見ると、皆が俺を凝視していた。しかも、カップの中にホットココアが残っている者はいなかった。
「そんなに見つめられると恥ずかしいんですけど……」
「「「「「失礼しました!」」」」」
すぐに目を背けてくれたが、それでもチラチラと横目で見てくる。前から思っていたがこいつらの反応っていかにも童貞臭いんだよな……。
さて本題入りましょうか。
「あの、もう一つお願いがあるんですけどいいですか?」
「……」
「実は私サキュバスなんですけど、今、大量の精気が必要なんです」
「……」
「それで、皆さんから精気をいただきたいですけど、ダメ……でしょうか?」
「……」
というかさっきから何で皆、無言なんだよ。
よく見ると誰一人として今の話についてこれてる奴がいない。皆、目を丸くしてポカンとしていた。
「も、もちろんただとは言いません。協力してくださるのならそ、その……」
全員が限界まで目を開き、鼻息を荒くして俺の言葉の続きを待っている。
俺は着ていた上着を脱いで大きな胸を手で隠して、
「十秒間だけおっぱいを好きにしても良いですよ!」
俺は顔を赤くしながら叫んだ。
「あの、すいません。そこにあるティッシュ取っていただけませんか?」
ほとんどが鼻血をダラダラと垂らしていた。手で覆っていても溢れている奴もいる。お
俺は近くにあった箱ティッシュを渡した。
「すいません。話を進めていただけますか?」
「あ、はい。わかりました。皆さんは私のおっぱいを触っているだけで大丈夫です。もしそれ以外のことをしたら制裁しますのでご理解をお願いします」
「じゃあ一人十秒ってことですか⁉」
「大体吸い取り終わるのが十秒前後ですから。あくまで目安です。じゃあ誰から行きますか? 誰でもいいですよ」
「じゃあ俺からいいですか?」
最初に名乗りあげたのは隼人だった。
「まあ兄貴だし……」
「このクリスマス会の企画者だし……」
「なによりエロ本くれたし……」
全員で隼人をリンチにすると予想していたが、意外にも他の皆は納得していた。
「じゃあいつでもいいですよ」
「ハアハア、じゃ、じゃあいきますよ……」
「どうぞ」
隼人は俺の偽乳を鷲掴みにした。
一つ言い忘れれていた。この体はあくまで変装である。つまり、乳を触られたからといって、痛いとか気持ちいいとかは全くない。それでも感情は集められる。この乳は俺の一部でもあり俺の一部ではない。
それよりもすごいな。いつもの十×百倍のメーターが目に見える速さ増えている。
これをさらに加速させるために……。
「ちょっと痛いから優しく触って……」
俺は涙目になりながら隼人の耳元で囁いた。
「嫌だね。好きにしていいっていったのは君だろ?」
おっぱいを揉むスピードが速くなってきている。それに比例増加速度も上がってきている。
あ、止まった。
「終わりです。ご協力ありがとうございました」
「いえ、こちらこそありがとうございました! かなり手触りのいいおっぱいでした!」
それだけ言って隼人は後ろの男子と交代した。
ルールをきっちり守り、すぐに交代するところが隼人らしい.
そして俺は全員に乳を揉まれてタンクを満タンにすることが出来た。
「遅くなった!」
俺はメリーを抱えて窓から病室に入った。
「何で窓から……」
「遅いよ! おかげで何回も見回りのおばさんにばれそうになったよ!」
「そっちはそっちで苦労したんだな」
少年がドン引きしているように見えるがたぶん気のせいだろう。
「それで出来たの⁉」
「ああ。見て驚け! これが皆の思いを詰めた薬だ!」
まあ思いが思いだが……。
俺はポケットの中から包装された一粒のカプセルを取り出した。
「これだけ?」
「そうだ。これを一粒飲めばお前の病気は治るんだ」
「本当に?」
「俺はつまらない嘘をつかないから安心しろ」
加奈とメリーの視線が背中に突き刺さって痛い。
「お金は……」
「俺たちが何ものか分かるか?」
「えっと……サンタさん?」
「一瞬、間があったのが気になるが……。まあそうだ。俺たちはサンタだ。だからお前へのプレゼント。金なんていらないんだよ」
「……」
少年は無言で涙を流し始めた。
「おいおい。さっきも泣いたのにまだ泣くのかよ」
「いや、これは目にゴミが入っただけで、それを出すために……」
「はいはい。大きなゴミが入ったんだな」
「うん」
と言いながらも、次から次へと涙が溢れ出して全然止まる様子がない。
「亮これ見て!」
加奈が持っていた紙には完了の文字が書かれていた。
「これで終わりだね」
「そうだな。やっとクリスマスが終わったな」
この二日間、もっと言えば一年前だが長かった。あんなことやそんなことがあったな……。
今まであったことを思い返していたが途中で止めてしまった。あまりにもひどすぎた。
「ねえねえ。まだ最後の仕事が残ってるよ」
やり遂げた感を出している俺たちにメリーは言った。
「何言ってるんだよ。プレゼントは三つ配っただろ?」
「いやいや。次のサンタを誰にするか決めた? もう時間ないよ?」
「あっ……」
完璧に忘れていた。確かに前のサンタも俺を指名してたな。
時計を見ると終了まであと十分もなかった。
「加奈……どうしよう……」
「どうしようって言われても、私はもう誰にするか決めたし……」
「誰?」
「この子」
「お前はいいのか?」
俺が尋ねると少年はコクリと頷き、
「僕も二人みたいに人の命を救えるサンタになりたいなと思ってたんです。そしたら、あなたが薬を作りに行ったときに、加奈さんから誘いがあったので……やることにしました」
怯えながら答えた。
「亮の顔が過去最高級に怖いよ」
「誘った本人が言うのもなんだけど、普通、ここは少年より私を責めるところじゃないのかな……」
そうなんだけど、誘いを受け入れた少年も少年――すいません。ただの八つ当たりでした。
「そうか……。立派なサンタになれよ」
「はい!」
そして俺は病室から飛び降り、叫んだ。
「この裏切りものどもがー!!!!」
そして、俺は新たなサンタとして隼人を指名したのであった。
――残っていた感情を全て使って。(主に説得と交通面で)




