エピローグ
エピローグ
十二月二十六日午後十時。
俺は加奈の家の近くにある公園に来ていた。
病室を飛び降りた時から俺は加奈とメリーには会ってない。やっと終わったと思って、そのまま家に帰ってしまった。
そして今、ここにいるのは処刑……もとい告白の返事を聞くためだ。
パラパラと雪が降っているが、積もるほどではない。
「寒いな……」
俺は予定時間が少し遅れたぐらいで怒るような器ではないが、さすがにつらくなってきた。
おっ。丁度遅刻三十分になったぞ。
どれだけ厚着をしていても寒いものは寒い。時間が過ぎるにつれて体の芯まで冷えていく。
それを防ごうと無意識に体がガクガクと震えるが、一向に温まる様子はない。
「……」
ジャリッジャリッ。
砂を踏む音が聞こえそちらの方を振り向くが、そこに加奈はいなかった。来たのは
犬とその飼い主だった。
「兄ちゃん、俺が待ち人じゃなくて悪かったな! お詫びにそこで買ったコーヒーやるよ!」
「どうも……」
腹を立てる気力もなく取りあえずコーヒーを受け取った。意外と温かい。
「誰を待ってるんだ?」
なぜそこで立ち止まった! お前の犬も寒さで震えてるぞ!
「友人ですかね……」
「あーはいはい。友達以上恋人未満ってやつね」
「まあそんなところですかねー」
俺は苦笑して適当に返事をした。
「それで今から何するの? もしかして告白⁉」
「どうなんでしょねー」
「携帯見た? 友人から何か来てるかもよ?」
「今まで一分おきにチェックしてました」
「年いくつ?」
「十七です」
「どこの高校?」
「近くの高校です……」
面倒くさくなってきた。これは質問攻めでいつまでたっても終わらないやつだ。
俺は携帯の画面を開いた。
「すいません。隣町の駅前のファミレスに来てくれとのことだったんで失礼します」
「そうか。頑張れよー!」
「コーヒーありがとうございました!」
俺はそう言って、駅とは逆の方向にある加奈の家に向かおうとした時――。
「ちょっと待って!」
後ろから聞きなれた声が聞こえた。
加奈だ。
走ってきたかのように加奈の顔は赤くなっているが、服装に乱れはなく、息も切らしていない。つまり……。
「もしかしてずっと隠れてた?」
「うん……なんだか恥ずかしくてさ……」
「いやいや、恥ずかしいのは俺の方じゃね?」
「何で?」
訳が分からないとでも言いたげな顔をする。
「それは……」
俺が今から振られて、加奈に泣く姿を見られるからじゃない?
「いろいろとだよ」
「いろいろかー……」
「それよりも返事を聞かせてくれ。昨日から不安でしょうがなかったんだよ」
「何に不安を?」
「それは加奈の告白に決まってるだろ……」
「そうなんだ。でも私も不安になったんだから亮もならないとね」
「どこで加奈が不安になる要素があるんだよ……」
「約一か月前」
「俺のゲイ疑惑を払拭するための」
加奈が俺に告白させたやつか。俺も良くあんなことできたな……。
「あんなこと言って皆にドン引きされないか、そして何より亮に引かれないか……」
「……」
「というか、亮はあの時の告白を仕方なくしてなかった?」
「いや、そんなことはありません」
「いきなり敬語になっちゃってどうしたの? 何か悪いことでもした?」
「ごめんなさい。あの時はそうでした」
「そんな所だろうと思ったよ……。じゃあ昨日の夜の大胆な告白は何だったの? あれも何か――」
「何もない。加奈が好きだったから告白した。本当に結婚したいと思ったから親の前で言った。それに……」
「それに?」
「加奈のことはずっと前から好きだった」
自分で言っていて顔が熱くなってくる。それどころか全身が熱くなってきた。
「それって本当に言っている?」
「本当だ」
「ならよかった。私と亮ってずっと両想いだったんだね」
加奈は嬉しそうな笑みを浮かべて、俺の胸の中に飛び込んできた。
「私も亮が好き。だからいつか結婚して、ずっと一緒にいようね」
加奈は背伸びして俺の頬にキスをした。
こういう時って何て言えばいいんだろう。
「ありがとうございます?」
「どういたしまして!」
自分の顔を隠すように抱き着いてきた。
「ヒューヒュー。いいねー! 熱いねー!」
その声に俺たちはビクリとし、お互いに距離を開けた。
「今さらそんなに恥ずかしがらなくてもいいよー。どうせ全部見てたんだし」
振り返らずともわかるが一応振り返った。
やはりメリーだった。
「メリーってなんでここにいるんだ?」
俺は笑顔でメリーに尋ねた。
「サンタのサポート役の仕事って今年で最後だったんだよ。だから、加奈ちゃんの家に居候させてもらってまーす」
「なんでここにいるのかな? 家にいてって言ったよね?」
加奈も笑顔で尋ねた。
「面白そうだったから。つい」
「「……」」
さすがメリーだ。雰囲気も全てぶち壊しやがった。
「なあ加奈」
「何?」
「俺たちってもう結婚したと言ってもいいよね?」
「そうだね」
「それでさ、今から初めての夫婦共同作業しない?」
「内容によるかなー」
「プレゼント配りも終わったからメリーをしめようと思うんだけど、どうかな?」
「いいねー」
俺と加奈はニタリと笑いあってメリーの方を向いた。
「えっと……何でこっちに来るの? そこでいちゃいちゃしていてもいいんだよ……」
「そうしたいんだけどさ」
「邪魔者がいるとね……」
近くに落ちていた鉄パイプを加奈に渡し、俺は金属バットを拾った。
「あの……」
「じゃあ二人の愛の共同作業を」
「始めましょうか!」
「ぎゃあああああああああ!」
公園にメリーの叫び声が響いた。




