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プレゼント4

 プレゼント四


 十二月二十五日。午前一時。俺たちは先ほどと同じビルの屋上にいる。

「あと二つか……」

「終わるかな……」

 俺と加奈は同時にため息をついた。

 数だけ聞けばすぐに終わりそうに聞こえるが、実際はそうでもない。これは推測だが、メリーの抽選で選ばれた人たちが欲しがるものは全て普通のものではないだろう。

 つまりプレゼントを一つ配るのに、かなりの体力と大量の時間、そして感情を使う。

 だから二人に聞いておく。

「加奈とメリーに質問する」

「「何を?」」

「今日はこのまま解散するか、プレゼント配りを続けるかだ。ちなみに俺は帰りたい」

「「続行しよう!」」

 メリーと加奈の声が綺麗にそろった。

 おかしいな。こいつらなら帰ると即答すると思ったんだがな……。

「帰りたいけどこのままじゃ帰れない」

「僕も」

「何でだ?」

「何もしてないから!」

「活躍してないから!」

「そういう理由かよ⁉ 加奈はともかく、メリーは十分活躍していただろ」

「え? 何言ってんの? 活躍って鍵を開け閉めしただけじゃん!」

「いや、鍵の開け閉めは活躍したといっても良いんじゃないか? 家に入れないとプレゼントをあげられないし」

「そうかもしれない」

 メリーが納得したっぽい。

「じゃあ、僕は解散したいなー」

 そしてあっさりと意見を変えた。

「これで解散意見が多数となったので今日は――」

「帰りません」

 加奈は俺に向かって静かに言った。

「おいおい。多数決でお前は負けたんだ。確かに少数派の意見も大事だが今回ばかりは変えられないぜ」

「コンビニの中でずっと立ち読みしていました」

「おい、加奈?」

 声のトーンが一気に下がり、加奈はどこか遠いところを見つめていた。

「え? あなたはクリスマス一人何ですかとでも言いたげなコンビニ店員の視線。酔っ払いサラリーマンに何て言われたと思う?『もしかしてお嬢さん一人? かわいそうに。暇だったらおじさんと遊ばない?』だってさ。こんな糞野郎にかわいそうとか言われた私の気持ちがお前らにわかるか?」

 加奈も俺が知らないところで苦労しているらしい。

「ちなみにそのおっさんはどうしたの?」

「人目が付かない場所に連れて行って鉄拳制裁しちゃった。てへっ」

 加奈は舌を出して、かわいらしく頭をこつんと叩いた。

 これを見た俺とメリーは声が出ないくらいにドン引きした。それと同時に加奈が天使の皮を被った悪魔であることがわかった。

「さっきの結果に納得いかないから、私がもう一度多数決とっていい?」

 加奈がニコニコしながら言う。

「何でだよ! もう決まったことだからダメだ!」

「とっていい?」

「ダメ!」

「もう一度だけ言うよ。とってもいい?」

 一瞬で加奈の顔から笑みが消えた。

「いいよ」

 メリーが認めやがった!

「てめー……」

「いいじゃん。どうせ勝ちは揺るがないんだから」

「そうだけどさ……。おい。お前もしかして裏切るつもりじゃないだろうな」

「そんな訳ないじゃん」

「わー。ちょーうそくせー」

「じゃあ多数決とるよー。解散でいいと思う人ー」

「はーい」

 あれ? おかしいなー。メリーの声が聞こえなかったぞー。

「続けたい人―」

「「はーい」」

 加奈とメリーが元気よく手を挙げた。

「メリー……お前というやつは……お前というやつは!」

 あっさりと裏切られました。

「じゃあ続行だね」

「そうですね……。おい、裏切り者。さっさと抽選しろや」

「なんとでも言え。加奈にボコられていないお前にはわかるまい」

「いや、俺もボコられたぞ」

 多分。

「チッ。じゃあ抽選始めます」

 地面から一枚の紙が――いや、今度は空間から紙が出てきた。

「今度は地味じゃないでしょ」

 メリーがふんと鼻を鳴らし得意げな顔をする。

「出てくる場所を変えても地味なものは地味だからな」

「そんな……」

「えーと。今回の当選者は十歳の男の子だな。欲しいものは最新ゲーム機」

「今回はまともなものだね!」

「確かにこれだったらすぐに終わりそうだな!」

 生成するのに結構感情を使うかもしれないがクマに比べたら百倍マシだ。

「それで住所は……え。まじで?」

 俺は持っていた紙を落とした。

「なになに? うわー……」

 同じように加奈も落としていた。

「いやいやいやいや。もしかしたらその近所の子供っていう可能性があるかもしれないよ」

「そ、そうだよな。俺たちの記憶違いかもしれないし……」

 二人揃ってあははと笑うが、加奈の口角は片方しか上がっていない。多分俺もそうなんだろう。

「ねえねえ。二人とも何がそんなに面白いの?」

「お前はそう見えるのか……」

「私は泣くのを我慢するために無理矢理笑ってるんだけど」

「はあ……」

 メリーはわかってないようだ。この住所がどこを表しているのかを……。

「ついてこい。見ればわかる」

「一応プレゼントは作っててね」

「う、うん」

俺は持っている携帯の地図機能で書かれていた場所を調べた。やはり携帯も指している場所はピンポイントであそこ。俺たちの記憶違いではなかった。

「時間もないし行くぞ……」

「おー……」

「おー!」

 さっきまで元気のよかった加奈の顔はかなり青ざめていた。

 今回、俺たちは無事に生きて帰れるのか?




 その場所にやってきた。

 一軒家が立ち並ぶ閑静な住宅街に場違いな家がある。家というよりも屋敷だな。

 広さは二百×二百といったところだろう。二メートル近くある高い塀で囲まれて中の様子は見えない。ここまでは百歩譲ってギリギリただのお金持ちが住んでいるんだろうなと考えられる。

だが門の所に屈強な男二人が並んでいるのはどう頑張ってもただのお金持ちとは考えられない。

「もしかして今回の届け先ってここ?」

 メリーがようやく気付いたようだ。

「ああ」

「表札に西村組って書いてるよ……」

「そうだねえ」

 そう。今回の届け場所はヤクザの家である。

 しかも西村組は、関東最大の組だ。その歴史は古く遡ること――(ry

「これっていくつ命があれば足りる?」

「普通は一つで行けるものしか抽選されないんだけどな」

「これって一個で足りるの? 絶対に足りないと思うんだけど……」

「とりあえず近くの公園で作戦を練ろう」

「そうだね」

「作戦練ってどうこうなるの?」

「加奈。それを言ってはいけない」

「はい……」


 そして公園についた。

「どうする? ギブアップ?」

「加奈は諦めるのが早いな……」

「だって今回は命がかかってるじゃん」

「考え方を変えるんだ。これでギブアップしてみろ。また来年もすることになるんだぞ」

「死ぬぐらいなら来年にワンチャン賭けた方が良いよ!」

「バカ野郎! 来年もこんなのが来るかもしれないんだぞ! それでまたギブアップ。そしてまた来年も、そしてギブアップ。無限ループだ……」

「確かに……」

「おいメリー! なんかいい方法はないのか⁉」

「いきなり振られても困るよ」

「それもそうだな。じゃあ加奈」

「ギブアップ!」

「さっきの俺の話聞いてなかったな!」

 こいつは今回も使えないな。しかもブランコし始めた。

「メリー。残量はいくつぐらいだ」

「さっき最新ゲーム機生成したけど半分はあると思うよ」

「じゃあ西村組の敷地の見取り図を作ってくれ」

「まさか一人で乗り込むの⁉」

「いや、まずあの敷地の中を知ってから考えてみようかと思ってな」

「なるほど。じゃあ見取り図召喚!」

 地面から一枚の紙が出てきた。おー! 今回は紙が光ってる!

「どう?」

「さっきより全然派手だが、眩しすぎて目がチカチカする」

「ごめんなさい。消灯」

「相変わらずセンスのない掛け声だな」

「反論できない……」

 俺は屋敷の見取り図を見た。

 感想。部屋が多すぎる! 

「子供部屋が一番真ん中にあるな」

「誘拐されないようにするためじゃない?」

「多分そうだろうな」

 屋敷は二階や地下のない一階建て。廊下が渦状になっており、左右の両側に部屋がある。

目的地は真ん中の部屋、正確に言えばその隣にある小さい部屋だ。

「この地図を見る限りでは真ん中を突っ切ればすぐに辿り着くな」

「いやいや。絶対、見張りがいるでしょ……」

「深夜だからいたとしても精々十数人だろ。それぐらいなら強行突破で行ける!」

「亮の考え方はもうサンタじゃないよ。サタンだよ。サタン」

「おーい。加奈―。作戦考えたからこれを見てくれー」

「何で無視するの⁉ 今のはかなりセンスあったと思うけど⁉」

「おいおい。噛んだところを気づかないふりしていたのに自分で言ってどうする。俺のやさしさを無駄にすんなよ」

「今の噛んだことになってるの? さっきの所で噛む要素なかったよね?」

「生きていれば失敗の一つや二つはある。それをいちいち責めてどうするんだよ」

 俺はメリーの頭をそっと撫でてはにかんだ。

「加奈ちゃーん。作戦の内容説明するからこっちに来てー」

「わかったー。すぐ行くー」

 加奈がブランコから飛び降りてこちらに寄ってきた。

「いやー亮に撫でられたの気持ち悪かったー。吐きそう」

「あれ? もしかして仕返しされた?」

 なんてことだ……。あのメリーに気持ち悪いと言われた……。

 思わず膝をついて倒れ込んでしまった。

「亮って何してるの?」

「土下座の練習でもしてるんじゃない?」

 メリーは俺を見下しながら鼻で笑った。


「今回の作戦は僕が考えた! 大船に乗ったつもりでついてきて!」

「わー。いきなり俺を突撃させそー」

「それも考えたけど、あとあと困りそうだから違う作戦を考えた」

 考えたのかよ…

「で、どんな作戦だよ。俺を差し置いて仕切るぐらいだからそれなりにすごいんだろ」

「やっぱり、手榴弾を巻き付けて突撃させようかな……。亮に気を取られている間に侵入した方が手早く終わりそうだし」

「やめろ! まだ死にたくない!」

 やばい。こいつの目は本気だ。

「されたくなかったら、おとなしく僕の話を聞いてくれないかな?」

「お、おう」

「じゃあ。説明します。まず、メンバーは三人。僕と加奈と亮。今回は固まって行動する」

「ほうほう」

「戦闘なしの隠密行動。誰にも見つからずに目的地までたどり着く。見張りがいる場合は僕と亮でやる。加奈ちゃんはゲーム機を持って後方支援ね」

「今回の作戦で、私は要らないような気がする……」

「何言ってんの加奈ちゃん。仮に僕と亮で乗り込んだら、誰がプレゼントを持つの? 僕は論外だし亮が持ったら攻撃できないよ」

「今、攻撃って言ったな? 戦闘する気満々じゃねーかよ」

「戦闘じゃない。暗殺だ!」

「もっとたちが悪いわ!」

 人を殺してはいけません!

「それに背中を任せられるのは加奈ちゃんだけだからね」

「なるほど! 私の力がないとこの作戦は成り立たないんだね!」

「「……」」

将来、加奈が悪い人についていかないか心配になってきた……。

「何か質問ある人―」

「メリーさん。プランはその一つだけですかー?」

「……」

 メリーと目が合わないのはなぜでしょうか?

「メリーさん。聞いてますか? もう一つぐらい失敗したとき用に作ってますよね?」

「……」

 ダメだ。やっぱりこいつには任せておけない。

「やっぱり今の質問なしでー。自分で考えまーす」

「他に質問のある方……」

 メリーの声が明らかに小さくなった。顔色も若干悪いような気がする。

「どうしたんだ?」

「キモイ。ニヤニヤすんな……」

「もういいよ! この加奈さんがいるから大丈夫だよ!」

「そ、そうだねー」

「じゃ、じゃあ行こうかー」

「何で棒読みなの?」

 俺とメリーは聞こえないふりをして、屋敷に向かった。




 俺たちは屋敷の門前――ではなく四つ角の所にいた。

「筋力増強、ジャンプ力増加、暗視機能、防弾効果の追加に衝撃吸収。あと一応動体視力強化。それぞれ全部押したか?」

「押したよー」

「メリーはあれを作ったか?」

「もちろん」

「うむ。準備は整った。行くぞ!」

「「おー!」」

 俺たちは二メートル近くある壁を軽々と飛び越えて中に侵入した。

俺たちが侵入したところは菜園場になっている。ビニールハウスが多く立ち並び、死角が多くある。幸い、近くに見張りはいないようだ。

「よし、このままゴーだ」

 見張りに見つかった時にメリーと加奈で奇襲出来るように、俺は加奈とメリーの少し前を歩く。

 暗視機能を付けているがそれでも見えづらい。物の形は分かるがそれが何なのかはまったく分からない。

「メリーはこの中を見えているの?」

「猫だからね」

 どこにしゃべる猫がいるんだよ……。メリーは猫というより化け猫だろ。

「亮。声に出てるよ」

「何で聞こえるんだよ……」

メリーは耳も良いみたいだ。

 奥に進むにつれて段々と明るくなってきた。もう近くに屋敷があるのだろう。

「メリーと加奈はここで待機してて」

 コクリと頷いたのを確認し、俺は物陰に隠れながら前に進んでいく。

 ここからだ。

 俺はゆっくりと屋敷の方を確認した。

 見張りは三人。全員が銃と刀で武装している。罠らしきものはないみたいだ。

 俺はメリー達の所に戻り、場の状況を伝えた。

「ここはおびき寄せてまとめてやろう」

「その手で上手くいくの?」

「身体能力でこっちが負けるわけないだろ」

「でも銃とか刀を持ってるんだよね……」

「サンタ服着てるんだから問題ないだろ。なあメリー?」

「そこらの鎧より頑丈だから問題ないよ。実際にバズーカを撃たれて無傷だった人とかいるし」

「でも壊れるんじゃないの?」

加奈が銃と刀を怖がっている。これはまずいな……。

「本当に加奈は心配性だね。リモコンの効果は最大で二時間。それが切れても銃弾二百発は余裕で耐えられる」

「俺もさっき聞いたが、メリーが嘘ついてるとは思えない。よく考えてみたらこいつは何でも作れるやつだぞ。これぐらい作れないような奴が何でもを名乗るはずがない

「私もメリーは信頼してるけど、やっぱり怖いよ……」

「怖いなら無理についてくる必要はないよ。亮にはさせるけど加奈ちゃんには無理強いしない」

「その言い方だと俺には無理強いさせるみたいな言い方になってるぞ」

「そういったはずだけど?」

「何で俺はさせるんだよ! ……まあいいや。俺も加奈には強制させない。でもついてくるんであれば俺はお前を絶対に死なせない」

「僕も加奈は死なせない。助けを呼べばすぐに駆け付けるし、逃げたいと言ったらすぐに逃がす。だから加奈ちゃん。一緒に行こう」

 一瞬だけメリーが騎士に見えたような気がする。というか俺よりかっこいいこと言うな。

「……」

 沈黙が続いた。そして、

「一緒に行く。私もサンタだ。子供にプレゼントを届けるために頑張る!」

「決まりだな」

「じゃあ呼ぶよ。二人は耳を塞いでて」

「早っ! 今から円陣組もうと思ってたのに!」

「加奈ちゃん。ごめんだけど、やってる時間はないんだ。ほら耳塞いで!」

 俺と加奈は訳が分からぬまま耳を塞いだ。

「あがやgっゆあjかjはgsk!」

 メリーの断末魔のような声が頭に響く。耳を塞いでもこの大きさなら普通に聞いたら死ぬんじゃないのか。

「よし、これで来ると思うから準備ねー」

「もっと他にやり方があるだろ! それよりも準備が出来たら三方向バラバラになるぞ!」

 それぞれが物陰に隠れ、息を殺して待つ。

 すると、先ほどの見張り三人がこちらに向かってきた。こっちにはまだ気づいていない。

 メリーが早くやりたそうにうずうずしている。

 もう少し中に入ってから……。

「突撃」

 俺がゴーサインを出すとメリーが真っ先に飛び出して襲い掛かった。

「何だ。猫か」

 見張りは焦る様子もなく、ゆっくりと鞘から刀を抜き取って構えた。

 さすがヤクザの方々。いきなり襲い掛かっても動じないその肝の据わり方。

「さようなら」

 悲しそうな顔をしたヤクザはメリーを横に薙ぎ払った。

「遅いよ。バ―カ」

斬られたはずのメリーはヤクザの持っている刀に乗っていた。

「遅いよ。バーカ」

 いつの間にか加奈は二人の見張りを撃沈させていた。

「さようなら」

 メリーは乗っていた刀から飛んで、最後の一人のあごに猫パンチを打ち込んだ。

「僕らが本気を出せば」

「こんなもん余裕」

 加奈とメリーは手早く三人を端の方に寄せて、屋敷の方へ向かっていく。

 そんな二人を止めて聞いた。

「お前ら誰?」

「加奈です」

「メリーです」

「嘘つけ! 何でお前らいきなり強くなってんだよ!」

「何か調子が良かったからつい」

「久しぶりの戦闘に興奮してしまった」

「お前らは戦闘民族か!」

「まあまあ早く行こうよ。今だったら私、何にでも勝てそう!」

 さっきまでの加奈はどこに行った。

それよりも、今回のお荷物が俺になっている。頑張らないと……。


「見張りがいない今のうちに屋敷に侵入しよう。見取り図を見た通り真っすぐに進めばすぐに子供部屋にたどり着く」

「亮が言ってるのは隠密行動じゃないよね……」

「気づかれなければ隠密行動になるんだよ」

「どこかで聞いたことあるような……」

「気のせいだ。それよりも進むぞ」

 あまり見張りの人達とは会いたくない。さっきは数が少なかったから何とかなったけど増援でもされたりしたらひとたまりもない。

「おい。お前ら。そこで何して――」

「!!!!!」

 反射的に見張りの後ろへ回り込んで、ハンカチを口元に当てた。

 そう。あれとはこれ。薬品を染み込ませたハンカチだ。メリー特製で絶対に数時間は眠り続けるらしい。前のサンタはこのハンカチを使って俺を眠らせたのだろう。

「今の何だったんだ……」

「なんという速さ……」

 加奈とメリーは口をぽっかりと口を開けて突っ立っていた。

「早くしないと新たな見張りが来るぞ……ってあれ? こいつはなんでポケットに手を突っ込んでるんだ?」

 倒れている見張りのポケットから手を出して中を探ってみた。

 カチッ。

 今、何かスイッチを押したような……。

嫌な予感がしながらも取り出してみた。

『侵入者発見スイッチ』

『ただいま、侵入者発見スイッチが押されました。見張り番以外でも動ける人はただちに侵入者を排除してください。なお、屋敷内は安全のため一分以内にすべての入り口を塞ぎます』

 警報が屋敷内を繰り返しアナウンスされる。

 やってしまった!

「メリー、加奈! 全力で走れ!」

「亮、何で警報がなってるの⁉ 誰にも見つかってないよね⁉」

「あとで説明するから屋敷内に入るぞ! うわっ! いっぱい来やがった!」

 前方から屋敷内にいた大量のヤクザが走ってきた。

「お前ら! 覚悟はできてんのか!!」

「サンタ一号とそのペット! 相手にせずに屋敷内に入るぞ。」

「サンタ一号……」

「そのペット……」

 文句を言うな。本名ばれしたら後で探しに来るだろ。

「行くぞ! お前らこいつらを生かして返すなよ!」

「「「「「おー!!!!」」」」」

 こいつら、うちのクラスの男子に似ているな。

 加奈とメリーは回り込んで入り込もうとしている。

 なら俺は!

「頭! あのサンタかなりのスピードでこっちに突っ込んで来ます!」

「うろたえるな! 一斉射撃でハチの巣にしてやれ!」

 なかなか怖いことを言うな。だが知らん。このまま突っ込ませてもらおう。

「構え!」

 ヤクザ全員が懐に入れていた銃を取り出してこちらに構えた。中にはマシンガンを持ってるやつもいる。

「放て!」

 激しい銃声とともに大量の銃弾がこちらに向かってくる。

 今だったら銃弾は見えるし、それを回避することも余裕だ。だが今するべきとではない。俺がするべきことは一つ、屋敷が完全に閉まる前に一人でも多くの追っ手を消すこと。

 だからこの銃弾は全て受ける!

 硬質の音を出しながら全ての弾をはじいていく。もちろん俺はノーダメージ。痛くもかゆくもない。

「頭! 銃が効いてません!」

「落ち着け! 奴は何も持ってないからまとめて襲い掛かれ!」

「やれるもんならやってみやがれ!」

 俺は中に突っ込む前に踏みとどまり、一人ずつ薬品を嗅がせていく。

「あのハンカチに気を付けろ! 薬品か何か染み込ませてあるぞ」

 俺を押さえつけようとタックルしてくるが、全然振りほどける。むしろそっちから近づいてきてくれるから楽だ。

「よっし! この調子で十数人は眠らせてやるぜ!」

「暴れるのはいいけどあと二十秒だからね!」

 遠くの方で加奈の声が聞こえた。

 あと二十秒。中に入り込む時間を考えるとあと十秒。残り十秒で十数人、一人当たりコンマ五秒といったところか。ならば……。

 俺はポケットから新しいハンカチを取り出して、開いているもう片方の手に持った。

 質より量を重視して、とにかく弱そうなやつから徹底して叩く。

 一瞬で間合いに入り込み、口と鼻をハンカチで抑える。サンタ服があってこそできる技だ。

「あと十秒!」

「脱出しよう」

「後ろから射撃だ! 撃ちまくれ!」

 またしても銃弾が飛んで来る。でも問題ない。後ろからの攻撃にもばっちり対応!

 これ終わったらオークションに出してみようかな……。

「サンタ二号! 早くして実際のカウントより閉まるのが早いよ!」

 サンタ二号になるんだったら加奈を二号にしとけばよかった。

 縁側だった場所はシャッターが完全におりかけようとしていた。

「まーにーあーえー!」

 全力でダッシュしてギリギリのところで入り込めた。

 外でシャッターを叩く音が聞こえる。

「危なかったー。気づくのが遅れてたら、朝まで大乱闘だったよ」

「もう少し余裕のある行動を」

 メリーがむーっと膨れながら怒っている。

「それはすまん」

「以後気をつけるように」

「ねえ」

 加奈が真ん中の部屋まで繋がっている扉に手をかけていた。

「まだ開けるなよ。中にヤクザが待機しているかもしれんぞ」

「いや、さっき開けようとしたんだけどここのふすま開かないんだけど」

「「え?」」

「ちょっとそこをどいてくれ」

 俺は加奈が手をかけていたふすまを横にずらしてみるが、びくともしない。

「メリー、開けられるか」

 メリーはふすまに手を当てた。しかし、何も反応はなかった。

「ダメ。僕が手を当てても開かないなら、これは鍵が問題じゃないよ」

「じゃあ何が問題なんだ」

「見取り図ではここは扉になっていた。だけど僕や強化している亮や加奈でも開かなかった。これは僕の考えだけど、多分これはふすまじゃなくて壁だよ」

「すなわちここから真っすぐには進めないと……」

「そういうことだね」

 なんてこった。ここからは廊下を進まないといけないのか……。

「いたぞ! サンタ二人とペットだ!」

廊下の曲がり角からぞろぞろと見張りが出てきた。ざっと見ても外の見張りの二倍の数はいる。

 まずいな。あの数でこの廊下の狭さじゃ圧倒的にこっちが不利だ。

「行くぞー! 頭の敵討ちじゃー!!」

「あんたらの頭は殺してないぞ!」

「問答無用! 全員突撃!」

 合図と同時に一斉にこちらに向かって走ってきた。

「どうするメリー?」

「さすがにこの数は無理だよ。もうこのへんでよか」

「どこの言葉? それより亮は私と肩を組んで走るよ。メリーはこの袋の中に入って」

「お、おう」

 俺は言われるがままに加奈と肩を組んだ。

「せーのって言ったら思い切り走るよ。手加減はいらないからね」

「なるほど。二人で行って突破しようという考えか」

「褒めるなら突破した後でしてね。行くよ! せーのっ!」

 加奈の声に合わせて力を込めて一気に解放する。一歩目に踏み込んだ地面には穴が開いた。

 お互いの息があってスタートダッシュは成功した。問題はここから。

「このまま行けば絶対に失速して突破できない。亮、もう一段階上げるよ」

「お前、まだ加速するのか⁉」

「もちろん。あと三段階は上がるけど壁に衝突したくないからここで止めておく」

「わかった。全力で加奈についていくぜ」

「しっかりついてこい!」

 男前になった加奈に合わせてスピードを上げていく。

「どけどけどけどけー! 加奈様のお通りじゃーーー!」

 俺たちは可能な範囲加速して、ついに見張り達の中に突っ込んでいった。

 立ち塞がるものをすべて吹き飛ばし、後ろから止めようとするものをそのまま引きずって走っていった。最後は加奈の形相に臆して自ら道を開けてくれた。

「すげーよ加奈! 本当に突破出来たぞ!」

「浮かれてないで走るよ! まだ後ろから追っ手が来てる!」

「そうだった。メリー。ローション作ってじゃんじゃん垂れ流して!」

「そう言うと思ってさっき大量に作ってました!」

「俺の心が読めたのか⁉」

「僕たち似た者同士だからね」

 メリーは自分が入っている袋に穴を開けて、そこからローションを垂れ流してた。

 それに先頭が引っかかると、その後ろを走っていたものは止まれずに転ぶ。

 この光景を見てメリーはげらげら笑っていた。

 俺とこいつは同類なのか……。




「ここが子供部屋か……」

 真ん中の大部屋の隣にあるこの部屋。扉が二重構造であり一つ目は八桁の暗証番号。もう一つは指紋認証。

 まあ普通なら解けないが、メリーにかかればワンタッチで開くから問題はない。

「見張りがいませんように……」

 加奈がぐったりとしながら部屋に向かって願掛けしている。

「開けるぞ」

 俺は扉をゆっくりと開いた。

 中には子供が一人ベッドで寝ているだけで他には誰もいない。

「俺はゲーム機を置いてくるから、周りを見張っててくれ」

「うん」

 油断は禁物。何があるかは分からん。

 俺は恐る恐るベッドに近づく。そして枕元にそろりとプレゼントをおいた。

 メリーが出した紙を見ると達成の文字が書かれてた。

「サンタ二号。どうしよう」

「そうだったな。帰るまでがサンタさんだったな」

「サンタさんは行事じゃないよ」

「わかってる」

 プレゼントは確かに届けた。

 だからと言って、そこで終わりとは限らない。

 俺たちは西村組の組長から組員まで全員に囲まれていた。

「お前たちは何でここに来たのかな?」

 今、質問してきたのは四十代前半の中年男性。この人が西村組の組長のようだ。

「この子にプレゼントを届けるために来ました」

「嘘つけ! だったら何で正面から来なかったんだよ!」

「そうだそうだ! 屋敷をローションまみれにしやがって!」

 他の組員達が騒ぎ始めた。

 正面から渡せたらこんなことするかよ、という言葉をグッと飲み込んだ。

「黙れ!」

 組長の一言ですぐに場が静まり返った。

「お前たちが私の息子にプレゼントを渡していたのは見ていたからわかる。でも、だからと言ってこの暴れっぷりを見逃せるというわけではない」

「弁償しろって? 俺たちは子供にプレゼントを配っているから金はない」

「金を出せとは言わない。ただ、君と勝負がしたい」

「俺?」

「ああ。さっき聞いたよ。うちの者を一人で倒していたらしいね」

「そうだが……」

「だから君と勝負したい。君が勝ったら今回のことをすべて水に流そう」

「俺が負けたら?」

「闇医者に臓器提供するか、趣味の悪い金持ちにでも売り飛ばすかな」

 あーこわいなー。やみいしゃだってー。

「いいよー。勝負内容は?」

「単純な殴り合いでいこう。どっちかが失神したほうが勝ちっていうのはどう?」

「いいじゃんシンプルで。審判は誰がする?」

「私が務めさせていただきます」

 一人の組員が名乗り上げた。

「始める前にちょっとタイム良い?」

「構わんよ」

「どうもー」

 俺は加奈とメリーに近づいて小声で言った。

「わかってると思うが、十番と十一番だ」

 それだけを言って元の位置に戻った。

「何をしゃべったんだ?」

「いや、プロポーズして来ただけです。ここで勝って結婚しようと」

「結婚できるといいな」

「そうですね」

 組長と俺はお互いを見ながらニヤリと笑った。

「それでは始めます」

 審判が手を挙げた瞬間、俺はポケットに手を突っ込みリモコンのボタンを押した。

 プシューとサンタ服から白い煙が出てくる。

「なんだこの煙は……」

 ゲホゲホと咳き込みながら次々と倒れていく。

「じゃあね組長。カナダに来たらまた遊んであげるよ」

「この野郎……」

 ついに組長も倒れた。

「帰るぞお前ら」

「「はーい」」

 十番は睡眠ガス。十一番はガスマスク効果。そして子供部屋に入る前に変装に変声。

 俺は完璧に足掛かりを消していたから組長に強気になっていた。

 とにかく一件落着! これであと一つだ!


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