第七話
放課後。
教室を出た私は、月島くんを探して校舎を歩いていた。今日は一緒に帰る約束をしていたはずなのに、どこにも姿が見えない。
もしかして、まだ温室にいるのかな?
そう思って、私はそのまま温室へ向かった。
扉を開けると、夕暮れの光が差し込む温室の奥から、月島くんの声が聞こえてきた。
「この辺りは、もう少し土を柔らかくしたほうがいいかもしれないね」
「やっぱり? じゃあ、明日少し入れ替えてみようかな」
そこにいたのは、園芸部の女の子だった。
緑色のエプロンを身につけて、月島くんと植物を眺めている。
「それなら、この花のほうは――」
月島くんが何かを説明すると、女の子が笑った。それにつられるように、月島くんも笑う。
その光景を見た瞬間。
胸の奥が、ほんの少しだけざわついた。
(……なんだろう)
ただ、話をしているだけ。
それなのに。
月島くんが、私以外の女の子に向かってあんな風に優しく笑っている。
ただそれだけのことが、どうしようもなく嫌だった。自分でも、どうしてこんな気持ちになるのかわからない。
(私……何を考えてるの?)
「……百合?」
不意に名前を呼ばれて、私は顔を上げた。
いつの間にか、園芸部の女の子は片付けを終えて、温室を出ていくところだった。
「月島くん……」
「待たせちゃった?」
「ううん……」
そう答えたけれど、うまく目を合わせられない。月島くんはそんな私を不思議そうに見つめていた。
「……どうしたの?」
「なんでもないよ」
「本当に?」
「……うん」
それでも彼は納得していないようだった。
しばらく私の顔を見つめたあと、ふっと何かに気づいたように目を細める。
「もしかして……」
「……?」
「僕が、他の人と話してたから……嫌だった?」
「……えっ」
思わず顔が熱くなる。
「ち、違うよ!」
「そっか」
そう言いながら、月島くんは少しだけ笑った。
その笑顔が、さっきまで女の子に向けていたものとは違うことに気づいて、胸がまた小さく跳ねる。
「……でも」
月島くんが、私の顔を覗き込む。
「嬉しいな」
「え?」
すると月島くんは、私をそっと抱きしめた。
「僕が好きなのは、世界で百合だけだよ」
耳元で囁かれた言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなる。
「……うん」
さっきまで感じていた小さな不安は、いつの間にか消えていた。月島くんの腕の中にいると、不思議なくらい安心する。
「帰ろう、百合」
「うん」
差し出された手を握る。
そのまま二人で、温室をあとにした。




