第六話
翌日から、私と月島くんの距離は、少しだけ近くなった気がする。朝、教室に入ると、真っ先に彼が笑顔を向けてくれる。
「おはよう、百合」
「おはよう、月島くん」
それだけなのに、なぜか嬉しくなる。
休み時間になれば、いつの間にか私の隣にいる。
「百合、今日のお昼どうする?」
「いつも通り温室に行こうかな?」
「うん!じゃあ、一緒に食べよう」
当たり前みたいにそう言って、月島くんは笑った。
最近の彼は、以前よりずっとよく笑うようになった。
それに――
「百合、ここ」
「え?」
頬に何かが触れる。
「あ…」
月島くんの指先だった。
「……ソース、ついてた」
そう言って、少し照れたように笑う。
「ありがとう……」
恥ずかしさを隠すように笑い返す。こんなふうに、他愛のない時間を一緒に過ごす。それだけのことが、どうしてこんなに幸せなんだろう。
放課後には、手を繋いで帰った。誰かに見られたら恥ずかしいと思うのに、月島くんは離そうとしない。
「月島くん、誰かに見られたら恥ずかしいよ」
「いいじゃん、百合と手繋ぎたい」
「よくないよ……」
「百合は僕のものってみんなに知ってほしいけどな」
「……もう」
思わず顔が熱くなる。月島くんはそんな私を見て、嬉しそうに笑った。
「僕、百合とこうして一緒にいられるだけで、世界で一番幸せだよ」
「……大げさだよ」
「大げさじゃないよ」
繋いだ手に、少しだけ力がこもる。
「ずっとこうしていられたらいいのに」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が小さく揺れた。
――ずっと。
その言葉が、不思議なくらい心地よく響いた。
事故のあとから感じていた違和感も、神代くんに言われたことも。きっと全部、私が少し疲れていたから見た夢みたいなものだったんだ。そう思えば、怖くない。
今、月島くんが隣にいる。
それだけで十分だった。
「……うん」
私は小さく頷いた。
「私も、ずっと一緒にいたい」
月島くんは、一瞬驚いたように目を見開いた。
それから――
今まで見たことがないくらい、幸せそうに笑った。




