第四話
ガラガラッ!と教室のドアが開き、担任が入ってくる。
「みんな、席に着け。……急だが、今日から転校生を迎えることになった」
先生の声に促され、扉の向こうから歩み出てくる男子生徒——神代。
神代が黒板の前に立ち、ゆっくりとこちらを向いた瞬間、百合の中で何かが弾けた。
(……え? 私、この人の顔……知ってる……?)
デジャブ、なんて言葉じゃ片付けられないほどの強烈な違和感。
——神代くんの立ち姿、探るような強い視線、そして教室の壁掛け時計が指している『8時00分』——
一度見た映画をもう一度再生されているかのように、頭の中で記憶と現実がぴったりと重なっていく。
隣を見ると、月島くんは静かに神代くんを睨みつけていた。
——キーンコーンカーンコーン。
昼休みのチャイムが鳴ると同時に、月島くんは焦ったように私の手首を掴み、温室へと連れ出す。ガラス越しに陽光が差し込む温室で、月島が屈みこみ、紫色の小さな花——エキザカムをそっと摘み取る。私の髪にその花を挿し、冷たい指先で頬に触れてくる。
(花……ルビーのネックレス……月島くんのこの手つき……やっぱり、前にも——)
記憶の既視感に目眩を覚えていると、生い茂る緑の向こう、温室の深部でぽつんと妖しく光る赤い果実が視界をかすめた。甘く、どこか毒めいた香りが微かに鼻腔をくすぐる。
(あの木の実も……私は、知ってる……?)
重なる光景に耐えきれなくなり、私は震える声で告げる。
「月島くん……私、なんだかすごく変なの。ここ、前にも——」
言った瞬間、月島くんの身体が息をのむようにピクッと大きく強張った。
「気のせいだよ、百合」
月島くんは私の言葉を強引に遮るように、優しく、けれど拒絶を許さない力強さで私を抱き寄せる。微笑んでいるはずのその瞳は、暗く、まったく笑っていない。
「事故の後遺症で、頭が混乱してるだけだよ。……大丈夫、君のそばにはずっと僕がいるから」
月島くんの身体が、何かに怯えているように震えている。私を強く抱きしめる月島くんの肩越しに、ふと視線を感じた。庭園の木陰——遠く離れた校舎の影から、誰かがこちらを見つめている。
(転校生の……神代くん……?)
話しかけてくるわけでもなく、ただ静かに、すべてを見透かすような冷ややかな瞳で、私たちを見守っていた。
——まるで、この幸せで歪んだ時間が、もう間もなく終わりを迎えることを知っているかのように。




