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Trial of Ghost  作者: くれは*
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3/9

青年

ドアの隙間から漏れる光が眩しい。青白い光が天井から降り注ぐそこは、僕が探していた別館だった。

今時珍しい円筒の部屋、曲湾の壁に沿った背の高い本棚、不気味な暗闇で塗りつぶされた窓。洋館の玄関から見えた部屋であることに違いはないが、僕の本当の目的である黒い人影は、どこにもいなかった。

僕は、取り敢えず部屋の中に入り、本棚を眺めながら窓に近づく。


「気に入ったかい?」


突然、低い声が部屋の中に木霊する。僕は、辺りをきょろきょろと見回した。


「後ろだよ、後ろ」


少し笑いを含んだ声に、僕は一歩前に進み、後ろを振り返った。その途端、あっと声を漏らしそうになった。

黒い短髪、キリッと少し切れた目、ニヤリと歯を見せて笑ったその人は、僕が探していた男だった。いや、男というにはまだ幼く、どちらかというと青年だった。しかし、僕が驚いたのはそこではない。彼は、自分とそっくりな顔をしていたのだ。


「驚いた?」


青年は、悪戯が成功したときのやんちゃな子どものように笑った。僕は口をポカンと開けたまま、ゆっくり頷いた。

そりゃそうだ、とでも言いそうな顔で、青年はクスクスと笑みを零す。

逆になぜ、この青年は驚かないのだろう?こんな森の奧に、道こそあれど人は滅多に来ないだろう。そこに、リュックサック一つで、自分によく似た男が真夜中に来たというのに。

そんなことを考えていると、青年と目が合った。そこで初めて気付いた。彼は、オッドアイと言われる、それぞれ違う色の目を持っていた。黒い右目に、深緑色の左目。しかし、そこには別に、怖さは感じなかった。逆に、とても神秘的で見た者の目に吸い込まれるような、そんな目だと思った。僕との唯一の違いだ。


「君をずっと待っていたのさ。君の後ろにある窓を、毎日眺めてね」


僕の思考を読んだのか、彼は僕の背後の硝子を指差しながら言った。


「まあ、こんな何もないところだけどさ、何か話さないかい?そこの本は、もうみんな読み飽きてしまってね。毎日此処で人を待つのも、退屈さ。君は今まで、此処とは違う場所にいたんだろう?何か面白い話を聞かせてくれよ」


青年は、僕の横を通り過ぎて窓際まで来ると、両腕を組んで窓に寄りかかった。少し灰色がかかった黒い長袖シャツとズボンを履いている彼は、どこか僕の生きてきた世界とは違う雰囲気を感じた。そんな僕の思いとは裏腹に、青年は、話を促すように僕を見た。

そんなことをいきなり言われても、僕には話すネタがない。そもそも、此処に来るまでの出来事なんて、ただ歩いただけだ。そんな話を、誰が面白可笑しく話すことが出来るだろうか? それに、僕にはそれより前の記憶が――ない。なかった……。今、気付いたのだ。

そう言えば、どうして此処にいるのかを考えたことはあったが、どうやって此処まで来たのかは考えたことがなかった。一体、どんな経緯で僕はこの森に入ったのだろうか? いや、そもそもの話、僕は一体何処の誰で、この森に入る前は何をしていたのだろう?どんなところに住んでいたのだろう?誰と一緒にいたのだろう?全て僕の頭にはその断片すら残っていない。こんな空っぽの頭で、よくも僕は今までノコノコとしていられたものだ。

チラリ、と青年を見ると、彼はニヤニヤと効果音がつきそうな程の笑顔だった。まるで、僕に今までの記憶がないことを知っているかのように、見透かすかのように。

僕は、青年の余裕そうな笑みに、焦りを感じた。もしかしたら、青年はこうなることを予想していたのではないだろうか?僕に記憶がないことを知っていたのではないだろうか?そんなことを考えても何も結論は出ないと分かってはいるが、それでも考えずにはいられなかった。そして、それと同時に青年に少しの恐怖を覚えた。不気味な洋館にいる、そこでずっと僕を待っていたという、どこか余裕そうな表情に、何もかも見透かされそうな目。よくよく考えたら、謎だらけの青年だった。本当に、この人が此処にいて僕は安全なのだろうか?

頭の中で、ぐるぐると疑問が回っている。さっきまでは人がいて安堵していたというのに、今は青年を警戒している。知らず知らずの内に、僕は身構えていた。


「何、どうしたの?何か面白い話してよ。僕、退屈なんだよ。何も話さないなら、僕から話そうか?」


青年はそう言って、体を起こした。一歩ずつ、僕に近づいてくる。

正直、来て欲しくなかった。嫌な予感がする。何かされるのでは、と思って更に身構えた。

青年は、僕の真横に来ると、僕の耳元に口を寄せた。


「君、嘘つきでしょ……?」


え……?

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