タイトル未定2026/06/17 06:06
翌日の朝、大学のキャンパス内を歩いていた流花は、背後から呼び止められた。
「おはよう!白田さん」
振り向くとそこには、前の日に出会ったIT科の野田が、笑顔で立っていた。
「……野田さん。おはよう」
野田は、流花の側に立った。
「いつも、早いね」
「家から、遠いし。混んだ電車に乗るの嫌だから」
「確かに、混んだ電車に乗るのって嫌だよね。家が遠いって、どの辺?」
流花は、聞かれるままに答えた。
「明日から、俺もその電車に乗ろう」
「何、言っているの。無理に私に、合わせないで」
「無理してないよ。朝から白田さんと話ができるなんて、最高だよ」
流花は、呆れたように苦笑をした。
「課題、進んでいる?」
「やっと、軌道に乗ったところだけど……」
「けど……?」
「徹夜続きで、少し疲れちゃった」
「大丈夫?」
「大丈夫。ありがとう」
「白田さんは、食べ歩きとか好き?」
「食べるのは好きだよ」
「俺、食べ歩きが好きなんだ。白田さんと一緒に、食べ歩きをしたいなぁ」
流花は、小さく笑った。
「おはよ」
流花の背後で短い声が聞こえ、振り向くと田中が立っていた。
田中は、冷たい目線で野田をチラリと見た。
田中の冷たい視線を感じた野田は、少し驚いて目を見開いた。
それまで和やかな雰囲気だった流花と野田の間に、冷たい空気が漂った。
「早く行くぞ」
流花と野田を引き裂くように、田中は言った。
流花は慌てて、野田に言った。
「野田さん、またね」
「う……うん」
田中は強引に、流花の手を握って歩きだした。
田中に手を取られたまま歩いていた流花は、田中の手を振り払って歩いた。
教室に入ると一番後ろの席、いつもの定位置に流花と田中は座った。
「田中君って、いつも強引ね」
流花に責められても、一向に動じない田中が言った。
「さっきの男、誰?」
「IT科の野田さん」
「楽しそうに、話をしていたな」
「そう?」
「課題の製作、どんな感じ?」
「あともう少し。そのもう少しが、ホント遠い」
不意に、田中は隣に座っていた流花を抱き寄せた。
気がつくと、流花は田中の胸の中にいた。
「……ちょ……ちょっと」
田中は抱いた流花の腕を、離さなかった。
やっと流花は田中の腕から離れ、息をつきながら両手で髪の毛を直した。
そんな流花に、田中は言った。
「慰めているつもりなんだけど」
これまでに感じたことがない動悸を感じ、流花は戸惑っていた。




