タイトル未定2026/06/17 06:05
夕飯を食べ終えゆっくりと風呂に入り、風呂から出た大門は、ベランダに出て夜空を眺めていた。
冬の夜空は星がくっきりと見えて、ずっと見上げていると吸い込まれそうだった。
「大門」
リビングから大門を呼ぶマスターの声が聞こえ、大門はベランダからリビングに入って行った。
リビングでは風呂からあがった、パジャマ姿のマスターがいた。
「ベランダに、いたんですね」
「うん。空を見てた」
「湯冷めをして、風邪をひきますよ」
言いながら、マスターはソファーに座った。
「ねぇ、七海」
マスターは、黙ったまま大門を見つめた。
「流花お姉ちゃん、元気?」
「元気ですよ」
何か言いたげな大門に、マスターはやさしく言った。
「大門、おいで」
大門は黙ったままマスターの隣に座った。
マスターは大門の背後に手をまわし、大門の肩を抱いた。
大門は、マスターの肩にもたれた。
大門は、ぽつりと言った。
「……流花お姉ちゃんに、会いたいな」
「会いたいですか?」
「うん……会いたい」
「小学校に行くようになってから、大門は会っていませんでしたね」
「夏休み、游太君ちの家族と遊園地に行ってホテルに泊まった時、游太君のお母さんを見たら、流花お姉ちゃんを思い出しちゃった」
「それで、会いたくなったんですか?」
「……うん」
しばらく、沈黙が流れた。
その沈黙を、マスターが破った。
「もし……もしもですよ」
大門は、マスターを見上げた。
「もし、流花と一緒に暮らせるようになったら、嬉しいですか?」
「流花お姉ちゃんと一緒に?一緒に暮らせるの?」
大門に、笑顔が広がった。
マスターは、笑いながら言った。
「たとえ話ですよ」
たとえ話なのに、大門の空想は空のように広がった。
「流花お姉ちゃんと暮らしたら、毎日流花お姉ちゃんが作った料理を、食べれるんだ!そして、流花お姉ちゃんに『行ってきます!』って言って、学校に行くんだ」
止まらない大門の空想話を、マスターは笑顔で聞いていた。
「あっ……」
突然、大門の空想話が止まった。
「どうしたんですか?」
「……流花お姉ちゃんと一緒に暮らしたら、流花お姉ちゃんは、大門のお母さんになるのかな?」
「そう言うことに、なりますね。大門、流花に『お母さん』って呼べますか?」
あれだけ勢いよく喋っていた大門は、黙り込んでしまった。
「……言えない」
「流花お姉ちゃんのままで、良いじゃないんですか?」
少しふさぎ込んでいた大門は、再び笑顔を取り戻した。
「もう遅いですから、そろそろ寝ましょう」
「……七海」
「なんですか?」
「七海と、一緒に寝たい」
マスターは、大門をやさしく抱きしめた。
その夜大門は、マスターのベッドの布団の中に入った。
布団の中に入った大門は、あっという間に眠ってしまった。
マスターの隣で静かに眠る大門を見た後、ベッドにいたマスターは寝室の窓から見える夜空を眺めた。
月明かりが、大門を照らしている。
……流花と大門と三人で暮らす……。
マスターは、大門が話していた空想話を思い出し、思わず笑顔になった。
しかし、その笑顔は長く続かなかった。
マスターは、なんとなく感じていた。
……流花と大門と、三人で暮らす。
多分、そんな未来はないだろう……。
マスターは大門に掛け布団をかけ直し、自分も布団の中に入ると眠りに落ちていった。




