タイトル未定2026/06/17 06:16
流花が通う大学の講堂では、卒業式が行われていた。
卒業生は華やかな衣装を着ていたが、流花は相変わらず母親の知人からもらった黒のパンツスーツを着ていた。
式が終わり、卒業生たちはやっと解放され、キャンパス内で友人同士記念撮影が行われていた。
流花達は、四人で写真を撮った。
その後、流花と渚は肩を組んでツーショットを撮った。
ツーショットを撮り終えると、流花は渚に言った。
「なぎちゃん、佐野君とツーショット撮ってあげる」
「撮って、撮って!」
渚は佐野の隣に行き、流花は渚から預かった携帯を構えた。
「撮るよぉ〜」
流花がそう言った途端、佐野はいきなり渚の背後に回り、渚の背後から両腕を伸ばして、渚の頬を思い切り引っ張った。
流花は、普通に写真を撮っていた。
渚は、悲痛な声を上げた。
「ねぇ、今の撮った?撮った?」
「ごめん……撮った」
「もぉ~やだぁ!今の画像、消して!」
「消すこと、ないだろ!田中、俺らも撮ろうぜ。流花ちゃん、なぎちゃんの携帯で撮って」
流花は佐野に言われるまま、渚の携帯で佐野と田中のツーショットを撮った。
撮り終えた後、渚が佐野に言った。
「何、カッコつけて撮っているの!」
佐野は、田中の肩を抱いて言った。
「かっこいいんだから、しょうがないだろ」
流花は、思わず吹き出した。
「田中、流花ちゃんと一緒にツーショット撮れよ」
「私が、撮ってあげる」
渚が言うと、流花は渚の携帯を渚に返した。
「俺は、いいよ」
断る田中に、渚が言った。
「何、恥ずかしがってるの」
渚が、流花と田中を並ばせようとした時だった。
「ここにいたんだ!」
野田が笑顔で、流花の側に走ってきた。
初めて見る野田に、渚と佐野はポカンとしていた。
田中は、冷たい目で野田を見ていた。
不穏な空気に動じない野田は、明るく言った。
「写真撮っていたんだ!白田さん、俺と撮って!」
野田は携帯を出すと、流花の肩を抱いて携帯を思い切り伸ばし、インカメラで、流花とのツーショットを撮った。
「白田さん、ありがとう!卒業しても、変わらず会ってね。じゃあ、またね!」
野田は、走り去った。
流花たちは黙り込んだまま、小さくなっていく野田を見ていた。
その沈黙を、渚が破った。
「ねぇ、今の誰!アイドル?」
笑いながら、流花が答えた。
「アイドルみたいな顔立ちだけど、私たちと同じ、卒業生だよ」
「いつから、知り合ったの?」
「去年あたりから」
「アイドルかと、思った!」
突然田中は、自分の携帯を渚に渡しながら言った。
「なぎちゃん、やっぱ撮って」
「あっ、うん」
田中は、流花の側に立った。
渚は、田中の携帯を構えた。
「じゃあ、撮るよ」
渚がシャッターを押す瞬間、田中はいきなり流花の肩を抱き、流花の頬にキスをした。
田中の行動に渚と佐野と、当事者の流花は固まったように動かなくなってしまった。
田中は、涼し気な顔をして言った。
「なぎちゃん、撮れた?」
「……うん」
「サンキュ」
田中は渚から携帯を受け取ると、振り返って言った。
「そろそろ、飲みに行こうぜ」
流花達はバスと電車に乗って、繁華街にある居酒屋に行った。
その頃には、空は真っ暗だった。
繁華街のネオンが、昼間のように明るかった。
居酒屋に入ると、テーブル席に案内された。
流花と田中が並んで座り、テーブルを挟んで、渚と佐野が並んで座った。
四人ともビールジョッキを頼んで、乾杯をした。
ずっと夜の寒空の下を歩いていたが、居酒屋は熱気に包まれていて、暑いくらいだった。
ビールの冷たさが、身にしみる。
思い思いの酒と料理をオーダーして、四人とも大学生活の思い出話に花を咲かせていた。
お酒と料理が進むにつれ、自然と流花と田中、渚と佐野の二人で話し込んでいた。
「ハイボール飲もうかな?流花ちゃんは、何にする?」
「そうね、冷酒にする」
「冷酒?すげぇ、酒が強いんだな」
通りかかった店員に、田中はハイボールと冷酒を注文した。
注文したハイボールと冷酒は、すぐに来た。
ハイボールを飲む田中を攻めるように、冷酒を飲みながら流花は言った。
「なんで、キスなんてしたの?」
「こうでも、しなきゃ俺の気持ちが流花ちゃんに伝わらないだろ」
田中の言葉に、流花は小さく笑った。
「何笑っているんだよ?酔ったのか?」
「……前から知ってたよ。田中君の気持ちは」
田中は驚いて、流花を見つめた。
流花は、冷酒を飲んでから言った。
「前から、田中君の気持ちに気付いていた。でも、私にはマスターがいる」
「そんなに、マスターが良いのか」
「当たり前でしょ」
澄まして言う流花の頭を、田中は軽く突いた。
流花は冷酒を飲み、田中はハイボールを飲んだ。
「あの男、野田。あいつのことは、どう想っているんだ?」
「野田さん……」
流花の表情が、パッと輝いた。
「野田さんって、アイドルみたいじゃない?凄く可愛くて!初めて野田さんを見たときは、何処のアイドル?って思った」
「なぎちゃんと同じこと、言ってるんじゃねえよ」
「男のひがみは、可愛くないよ」
「このまま二人で、どっかに行かないか」
「口説いているの?」
「なぁに、喜んでいるんだよ」
流花と田中は顔を見合わせて、笑いあった。
……あれっ?普段田中君とは、言い合ってばかりいたけど、なんだか楽しい……。
流花が、初めて感じた気持ちだった。
「なぁ、マジでこのまま抜け出そう」
田中は流花の手に、自分の手をそっと重ねた。
流花は、田中をじっと見つめた。
その時テーブルの上に置いてあった流花の携帯のラインの着信音が鳴り、流花は我に返った。
携帯を掴んだ流花は、ラインを開いた。
手を離した田中は、流花に聞いてきた。
「ライン、彼氏?」
田中の問いには答えず、流花はラインを読んでいた。
(会いたい。……………待っています)
突然流花は立ち上がり、財布からお金を数枚抜き取り、テーブルの上に置いた。
目の前にいる、渚と佐野に言った。
「ごめん、帰る。お金が足りなかったら後で請求して」
それだけ言うと、流花は走り出した。




