タイトル未定2026/06/17 06:14
午前六時頃になると、空は明るくなっていた。
寒さが少しずつ和らいできていたとはいえ、まだまだ寒さは健在だった。
マスターが務める診療所。
この日は、午後が休診日だった。
休診日とはいえ、院内の業務は普段と変わらず行われていた。
待合室の窓にはロールカーテンが下ろされ待合室は暗くなり、ひっそりと静まり返っていたが、受付や診察室、処置室等は電気がついていて明るかった。
院内の職員たちは、それぞれの持ち場で仕事をしていた。
マスターは朝からそわそわと落ち着かなかったが、周りから悟られないように平常心を心がけ、業務に打ち込んでいた。
しかし落ち着きのないマスターを、朝からマスターの側でマスターと一緒に患者を診ていた亜美は、いつもと違うマスターを、敏感に感じ取っていた。
窓際で器具の清掃をしていた亜美は、パソコン業務をしているマスターをチラリと見た。
……先生、いつもと様子が違う。何かあったのかな。
処置室にいた由美が診察室に入り、亜美の側に来た。
亜美は、小声で由美に言った。
「今日の先生、なんだか落ち着きがないみたい」
「先生が?」
「うん。何度か入力ミスをして、慌てて打ち直していたよ」
「そうなの?任せて!」
「ちょっと!」
亜美の静止を無視して、由美はマスターの側に近寄った。
パソコンのキーを打っていたマスターの手が止まった。
入力ミスに気が付いたマスターは、打ち直しをしていた。
「先生、処置室の器具の確認が終わりました」
由美の声でマスターは、やっと顔を上げた。
「あぁ。確認、ありがとうございます」
「先生いつもより、落ち着きがないようですが」
「そう、見えますか?」
「はい。彼女と喧嘩でもしたんですか?」
「ボクがいつもと違うと、直ぐ彼女と結びつけるんですね」
「下衆の勘ぐりです」
素直に認める由美に、マスターは笑った。
亜美と由美には、既に流花の名前を知られている。
マスターは、今さら流花の存在を隠すことが、面倒くさくなっていた。
「喧嘩をするほど、彼女とはそうそう会っていません」
「会っていないんですか!」
「ボクも彼女も、忙しいですから」
「彼女……るかちゃんって、言うんですよね。先生と会えないことに、るかちゃん怒りませんか?」
……そんなことで、流花は怒るような子ではありません。
マスターは胸の中でつぶやいた。
「心配ありがとうございます」
笑顔で、マスターは由美に言った。
由美は結局、マスターが何故落ち着きがなかったのか、知ることができなかった。
由美が離れて行き、マスターは診察室の窓から見える青空を眺めて、流花を思い出していた。
突然マスターは立ち上がり、診察室を出て行った。
診察室を出たマスターは、廊下を歩いた。
レントゲン室の前で、緑が男性技師と話をしていた。
マスターは、緑に声をかけた。
「緑さん、少し良いですか?」
男性技師は、緑に言った。
「では、お願いします」
「了解」
男性技師が緑から離れると、マスターは切り出した。
「聞きたいことが、あるんですが」




