第9話 元天才の過去③
「-それに反対したのが、精霊哲学派だ。精霊を崇拝しながらよそんちの精霊は否定すんのかとか、今だって過度に精霊を機能に落とし込もうとしている、とか。かつては精霊をたたえるはずだった言葉は、今は呪文という機能に落ちている、とか。宗教も技術の方ももはや利得しか考えてない、とか」
「結構ぼろくそ言ってたんですね・・・」
「そう。その中で、『精霊のディスクール』…精霊の語りそのものを守った上での術、っていうのを考えた人がいた。ジーク=ルドゥシャって人。-それが、精霊統辞法」
ふと、レオンは気づいた。
多分もう30分近く話している。
イクスはずっと聞いてくれているがー
「…あのさ。俺の話、長いよな。なんか聞いてもらえるとめちゃくちゃ話しちゃうんだ。結構脱線してごめん」
「?何が脱線?」
イクスが不思議そうに首を傾ける。
(どうしよう。超いいこだ!)
こういう話を付与術師仲間にしたことがないわけでもない。
でも大体みんな途中でめんどくさそうな顔をするので、いつしか話すのをやめていた。
「…いや、ありがと」
「精霊のディスクールってなんですか?」
「『ディスクール』。言語そのものっていうのかね。で、『精霊のディスクール』っていうのは、精霊そのものを表象する言葉ってことだ。崇拝でもなく、機能でもない。ただただ精霊って感じ。俺もうまくいえないけど」
光が、自己主張するように、イクスの前ではねた。
近さに驚いたのか、イクスが軽く目を見開いた。
「えーと、さっきのレオンさんの説明だと、精霊と契約し、その精霊を通じて現地の精霊のディスクールを具象化して、意味のバフを与えるって感じですか?」
「そう。そんなかんじ。『ディスクール』の語源は『ディスクルスス』、意味は『あちこち走り回る』とか。まさにその時その時の精霊と話すどたばた言語って感じだよ」
そして、記憶は回帰する。
「-それを知った時、俺はこれだ!って思ったんだ」
「…すごいですね」
イクスが嘆息した。
「精霊統辞法を身に着けるのに修行とかしてたんですか?」
イクスは真剣なまなざしを向け続けてきている。
レオンの身を案じてくれて、そして話も熱心に聞いてくれる。
だからこそ、ここから先がーちょっと、痛い。
「修行っていうか…そもそもやり方わかんなくてさ。いろんな本読んだけどマニュアルはなくて、ジーク自身も『契約して交渉する』くらいのことしか書き残してなかった。ジーク曰く、『やり方を定めた瞬間にそれは精霊統辞法ではなくなる』って」
「…難しいんですね」
「そう!難しい!わかんない!だから・・・」
レオンはそこで一度口を閉じーしぼりだした。
「…媚びたんだ」
「…こび?」
イクスがききなおしてきた。
「うん。媚び」
『咆哮する種』の仲間に話した時は楽しく話せたのに、何故だろうか。
恥ずかしい。
悔しい。
いろいろなものがないまぜになる。
(俺は、折れたのにどうしてこんなに熱く語ってんだろ)
ちょっと泣きそうになった。
「レオンさん?」
「い、いや、なんでもーへぶっ」
とか思った瞬間に、光がタックルしてきた。
『腹くくれ』とか言っているのかもしれない。
レオンは気を取り直した。
うつむいて、目元をぐしっとぬぐってから顔をあげる。
「そう。まずは仲良くなろうと思った。だからまずは精霊に気に入ってもらうべく、『お空がきれいね精霊さん』とかとにかく自然っぽいのをほめたたえることから始めた」
「……」
イクスはノーコメントだ。
何とも言えないような顔をしている。
「後は自作でお供え台つくって『お供物です』っていってどんぐり備えたり。『野生の魔術』は読んだし、エレメンタル系の信仰体系も分かってたけど、結構お高いお供物で手が届かなかったから」
「…村の人に心配されませんでしたか?」
「まー村の人にはバレないように隠れてやってたからね。夢破れたおっちゃんだけは知ってて心配してきたけど、『やめろ』とは言われなかった。でも、無理するなって。…今思うと、おっちゃんは俺の悔しさとかいろいろ、見抜いてたんだと思う」
話しながら、あの頃を思い出す。
とりあえず青空を賛美したり、大雨の日には『お元気ですね!』といってみたり。
とにかく、何もないところに向かって、いっぱい話した。
外にいきたかった。
空の続いている先へ。
「でさ。気が付いたらさ、世界が広くて面白く思えるようになってたんだ。で、気が付いたら、俺の言葉に反応してくれるこいつがいたんだよ」




