第7話 元天才の過去①
イクスが興味津々に見つめてくる。
(なーんか、こんな風に誰かと話すの久しぶりだなあ)
最近は『咆哮する種』のみんなと話すのすら気まずかった。
こちらを気にかけてくれているのはわかる。
大事な仲間だから、こそ。
イクスの方を見た。
彼は興味津々にこちらを見つめている。
彼とはたまたま出会ったばかりだからか、気負わずに話すことができる。
それがなんだか不思議で、嬉しい。
「俺の出身地はね、ロココム村ってとこなんだけど。知ってる?」
「それ、地図にのってます?」
「はは。よく言われる。王国地図じゃなくてベアフデン領地地図ならギリのってるよ」
レオンは空をみあげた。
満天の空。
まるで初めて旅に出たときを思い出すようなー
「超ド田舎の村でね。よくいえば平和、正直に言うと本当に何もない。だからさ、若い奴は『オラダンジョンさいって一旗あげるだ』って冒険者になって出てくわけよ。少子高齢化が深刻な村」
イクスが噴出した。
「なんですか、それ。…でも、気持ちはわかる気がする」
口許をおさえながら、イクスが柔らかく笑った。
(なんかずっとこわばった顔してたのに、なんか今自然に笑ったな)
それにちょっと嬉しくなりながら、レオンも続ける。
「でさ。俺ももちろん外に出ていきたかったんだ。だから、村のうるさいじじいがやっている朝の剣技体操とかもちゃんと参加してたし」
「剣技体操?」
「号令と謎の音楽にあわせて木刀をふるう体操」
「…初めて聞きました」
「俺も今まで話して『そんなん初めて聞きました!』って人にばっかりあうんだよ。でもは『どこの村の子もみんなやっとる!』って言ってたんだけど。やっぱあのじじい、嘘言ってたんだな」
朝の剣技体操は、単なる運動ではなく、子どもたちを鍛えてジョブを得る基礎を作るためのものだった。
ジョブとは、一生に一度だけ選べる『職能』であり、世界の関わり方とでもいうべきものだ。
「あー、基礎体力あれば、選べる幅ってひろがりますもんね」
イクスが納得したようにうなずく。
「そうそう。剣士、騎士、魔術師、いろいろあるけど、どれも身体が資本ってとこはかわんないからね」
剣士なら剣技、魔術師なら魔術。
選んだジョブで、身に着けられる技術や伸びる力は変わる。
「でさ。俺は剣を振るえば自分が怪我して、魔術を使えば洗濯物に火がつくっていうかわいそうなタイプでね。生まれながらに座標指定と演算力のセンスのなさが光っていた。ま、自分なりに頑張ったつもりなんだけど」
ちょっとうかがうようにイクスの顔を見た。
イクスは、こちらを真剣に見つめているだけだ。
『努力が足りなかったんじゃないか?』とかそういうような呆れた顔をしていない。
自分で話しておきながら何となく安堵して、レオンは続ける。
「でさ。俺の友達はみんなジョブを得て、外に出ていくんだよ。そう、『オラダンジョンさいって一旗あげるだ』ね」
レオンは空に手を伸ばした。
光がレオンの腕を中心にらせんを描くようにくるくるまわり、空で踊る。
「で、若者の人口流出に悩んでるくせに、村のやつらは俺のことを『外に出ていけない、村にいるしかできないかわいそうなやつ』っていうんだよ。腹立つよな」
「…いますよね、そういう老害」
「ぶふっ」
思わず噴き出した。
イクスがそんなことを言ってくるタイプとは思わなかったのだ。
「なんですか」
「いやいやごめん。で、村の人がさ、『諦めて薬師のジョブでもとりなさい』っていって通わされたのがさ。夢破れた元学者の家」
「ゆめやぶれた?」
「学者になりたかったんだ。でも、学者ってほとんど貴族ばっかりだろ。自分が持っているジョブをしない職業につくっていうのは、本当に難しかったんだよ」
ジョブはあくまで職能。
働き方はフツーに職業。
とはいえ、ジョブは稼ぎに直結する要素が大きいだけに、本当に余裕があるモノでない限りジョブからはなれた仕事というのはなかなかできないのだ。
「その夢破れたおっさんちはたくさん本があるんだ。学者の夢破れても、本を捨てられなかったって言ってた。俺は一応弟子いりってことになって、まあ家を漁りながら掃除してた」
「…レオンさん…?」
「い、いや、漁ったあとはいつもちゃんと片づけてたよ。…諦めきれなかったんだよ、外に出たいっていうのが」




