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第3話 旅の道連れ

「『咆哮する種(ロアシード)』のレオンさんですよね?」

「あ、はい。そうです。元だけど」


びくっとして振り返った青年が頭を下げてきた。


(あなたも追放されたんですか?)


と聞きたいのをこらえて、イクスは聞いてみる。


「あの、隠れ陸にいかれるんですか?」

「はい。ちょっと興味があって…心機一転?みたいな」


レオンはそう言って両手を大げさなくらい上に振った。

『心機一転』を表現しているつもりらしい。


(あー、虚勢、ね)


イクスは心の中で失笑した。


「それ、俺も同行していいですか?その、付与術のルーツとか、勉強してみようかなって思ってて…」


(ー仮にも『天才』と呼ばれてた人だ。この人についていけば、俺を追い出したやつらを見返してやれる何かが手に入るかもしれない)


腹の底は隠して、謙虚に笑う。


「え、いいの!?」


レオンが目をかっぴらいた。


「え、うれしいなー!えーと、一応確認するけど、君、付与術士?」

「は、はい」


勢いにおされて思わずうなずく。


「そっか。トーテミズム文化のとこって、精霊に携わるものが二人いると信用していれてもらいやすいって『野生の魔術』にかいてあったんだよね!好都合!」

「とー、とーてむ?やせいのまじゅつ?」

「そうときたらはやく旅行切符発行しよう!そうしよう!」

「あのー、出発っていつ」

「今日の夕方」

「はやぁっ!?」


◆◆◆


(えー、同じように隠れ陸に行こうと思う人と居合わせるとか!これは…まさに精霊のお導きでは)


目の前の青年の顔にひきつっているが、それはきっと緊張によるものだろう。

『隠れ陸』への船の便はそう多いモノではない。


『冒険と異文化のロマン』として注目されていたときはそれこそたくさんの冒険者が足を踏み入れたこともあったが、マナーの悪いものたちが現地民とトラブルを起こしたことも多々あったために、渡航資格がきびしくなったのだ。


それに加えて文化保護の傾向が強くなったことで、手つかずのロマンを追う、特に若い冒険者たちからは興味の対象ではなくなっていった。


「ゆ、夕方ですか?その準備とか…」


目の前で青年は困った顔をしている。

レオンは彼の両手を握って力強く言った。


「俺は『史跡探索者』の資格持ってるからさ。パーティに一人資格持ってる奴いればいいから、一緒に行こ!」

「え、ええー…」

「一時パーティでもいいですよね?」


振り返って受付に聞く。

受付の女性がうなずいた。


「はい。一時パーティでも大丈夫ですよ」

「だってさ。俺はレオン=レクシェノール。今はフリー!君は?」

「…イクス=フランシェイスです…」


イクスが遠慮がちな笑顔でうなずいた。

若干引けている気がする。

やっぱり未知の世界にいくというのは緊張を伴うものなのだろう。

冒険者というのはダンジョンとか命を賭けて挑むものには積極的だが、生存術でどうにかできるわけではない、儀礼的なものに臆する者も多い。


「イクスかー。イクスはどこか入ってる?入ってたらその人たちに了承」

「いや、俺もフリーです」

「そっか。じゃあ、旅券発行したら、早速買い物とかすませちゃおうか!」


◆◆◆


イクスはレオンに連れられていろいろな店を回ることになった。

道具の補充。


「今の季節だとあっちはムシムシしてそうだし。虫よけ必須。バグ系の魔物を防ぐバフってなかったりするよねー。まあ現地にもあるだろうけど肌にあわないとかあるかもしれないから一応」

「あ、そうだ。蚊帳はあったほうがいいと思う!寝る時刺されたりするのヤだし!」

「最低限の衛生関係はあったほうがいいだろうな。あ、そこの噛みスライムください」

「確か航海中は食堂でご飯が食べれるからそこまで食料問題に悩むことはないかな。現地におりたってからだな!」


装備。


「えーと防具とは別に普段使いの風雨用のローブってあった方がいい。多分いい」

「多機能性?そこまで求めません!ダンジョンじゃないんだもん!」


そうして嵐のように振り回されー


(…俺、本当に行くんだな)


夕方。

出航1時間前、イクスは港にいた。

ここまでの流れがはやすぎてまだ実感が追い付いていない。


「あああー!新天地への一歩!ゾクゾクする…!」


レオンは身をすくめるようにして両腕をさすりながら笑っている。

はたからはちょっと危ない人にしか見えない。


「あの、レオンさん。目立つんで奇行はやめてください」

「あ、ごめん」


言えば素直にやめてくれた。


(なんなんだ、この人)


『加護の再来』と呼ばれた付与術士。

もっといけすかないやつとかかと思ってみれば、何ともつかみどころがない。


◆◆◆


隠れ陸へ行く船は大型船だった。

上流階級向けの客船のように豪華ではないががっしりとした作りをしている。

荒波にもまれて生き残るためのまさに実践仕様といったかんじだ。


船を乗り降りするタラップの前にある開けた場所。

そこで、2人は乗船前の最後の説明を受けていた。


「えー、この度は隠れ陸との往復便『トカゲのヒレ号』へのお申込みありがとうございます。乗船の前に、いくつかご説明させていただきます。説明を受けて了承したら、お手元の紙に同意のサインをしてくださいね」


やたら大柄な船員が、手に持った紙をよみあげる。


「渡航中は船員の指示に従っていただきます。安全な運航のために、お客様のご協力が不可欠だからです。特に危機的状況ならばなおさら。正当な理由なく拒否する人はどうなるかわかりますね?」

「はい」

「三食こちら船で用意させていただきます。まあむかーし、隠れ陸にわたる人が多かった時、持ち込みの食料の格差とかでいさかいがあったり、極度の節約して渡ったやつが『ここで元を取る!』って大胆なことしてくれちゃったりするトラブルが多発したからです。飢餓は人から理性を奪います」

「質問です。ムンベルベルは晩御飯にでますか!?」


レオンが手をあげた。


(何ソレ)

「ふふ、どうでしょうね。私も食べたいです」


船員がよだれをたらして笑った。


それからも細かい説明がありー


「はい。説明は以上です。問題はありませんか?」

「わくわくしかありません」


レオンが、サインを済ませた同意書を船員に渡す。

2人は何かが通じ合ったかのように笑いあう。

イクスも不安になりながらサインをして、同意書を提出した。


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