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第2話 居場所をなくした付与術師

「悪いけど、お前の追放が決定した」

「は!?俺、何も聞かされてねえよ!」

「何度も何度も言ってきたろうが!!」


だん、と机をたたかれてすごまれ、イクスはびくっとした。

リーダーーグラノスは続ける。


「お前は、俺たちのオーダー、きいてくれないだろうが」

「そーそー。確かに強くなるんだけど、だいたい『にげ』か『ぼうぎょ』ばっかりでしょ?」


傍らにいた魔術師ーセリアナが、杖を片手でいじりながらためいきをついた。


「あのね。私たちは強いから、生き残れるの。だから、生き残る保険よりも、ダンジョン探索の効率をあげたいの、効率を」

「でも…」

「お前の加速範列型ははやいけどさ、独善的なんだわ。俺たちが求めてるのは安全よりも速度だ。強度だ。お前の勝手な基準のせいで、俺たちは思うように動けないんだよ。お前の加速範列、選択が独善的」


べリス=デイタンスによって開発された『加速範列型』ー最適なバフをコードに合わせて素早く選択する付与術。


魔術には精霊ーエレメンタルが関わっている。

『加速範列型』は、そのあらゆる属性のエレメタルに共通する基底下部コードと、ジョブなどのコードを掛け合わせて生まれた記号論的付与術だ。


「俺だって…なんとか、もう一回勉強しなおしてー」


変わっていく流れにあわせようとして、もう一度ジョブとコードの関連を理解しなおそうと整理した。

適切なバフをかけるためにー仲間を理解するために、黎明期の付与術師がやっていた後方支援に立ち返って、アイテム管理などの雑用も積極的にやった。

それでも、どうしても術式にー


「俺たちは冒険は始めたころとは違うんだ。求められるものが違うんだよ」


グラノスが言う。


「勉強してるつったって、ただの自己満だろ。他のメンバーとも満場一致でお前、追放だから」


グラノスが、いらだったようにいった。

それで、おわりだった。


◆◆◆


「…っくしょう」


冒険者法で取り決められている『パーティ議決権に抵触する』とほのめかされて、イクスは追い出された。


(くっそ…)


『パーティ議決権』とは、パーティ内で命の危険がある内容を決定する際は、多数の賛同を得たものに従うべし、というものだ。

それに私的な理由で逆らうのは、冒険者法で違反扱いされるーと言われたのだ。


ただ、こういう法はあくまで名目のもので、パーティは基本的に自分たちのルールを用いている。

その名目のものまで持ち出されたのが、イクスは悔しくてたまらなかった。


(ちくしょう…)


パーティを追い出された。

イクスがいたパーティー『ひしめく爪(クラウディッドクロー)』は、『咆哮する種(ロアシード)』ほどではないが名のあるチームだ。


パーティハウスから追い出され、宿に泊まりながら仕事を探して数日。


(…なんにも、みつかんねえじゃん)


付与術師を迎えてくれるパーティは中々見つからなかった。


べリス=デイタンスの理論であらゆる付与術師の力が、そして価値も上昇した。


今では、大体のパーティは普通にそういう付与術師をいれている。

もはや普通に加速範列型を身につけているというだけではどうにもならないのだ。


それにくわえ、『ひしめく爪(クラウディッドクロー)』という実力が認知されているパーティから追い出されたというのが、逆にイクスにとってのデバフのようになっていた。


(…付与術師なんて、なるんじゃなかった)


誰かを助けられるジョブ。

それができれば、誰かと仲間になれると思った。

だが、現実はー


(…なんだよ。俺がいて生き残った局面だってあったのに……)


脳裏を、ふとよぎる思い出があった。



ひしめく爪(クラウディッドクロー)』の初期。

合同討伐作戦に誘われたことがあった。

スタンピートが予測されたので、その前にそれを引き起こす原因となっている特異点の変異した魔物を討伐するという作戦だった。

だが、その異様な強さに、多くのパーティが撤退しーそして、あろうことか、『ひしめく爪』は、彼らが逃げるための『おとり』にされたのだ。


『グラノス、逃げよう!これ以上はー』

『逃げたって追い付かれておしまいだ。魔力、残ってるか?イクス』

『あと一回、相手の攻撃を防ぎきるのがせいいっぱいだ』

『じゃあ、その一回分で、ありったけの攻撃バフをかけてくれ!!』


無茶だと思った。

だが、


『信じろ!勝ったら、俺たちはただのデコイから退路を守って魔物を倒した英雄だぜ!』

『…言ってろ!』


イクスは残りの魔力のすべてを攻撃力の倍化へと注ぎ、そして、グラノスはーそれで、魔物を破った。

それが、『ひしめく爪(クラウディッドクロー)』が躍進する、始まりとなった。


それからもー


『お前のおかげで助かったよ!』

『安心して冒険できる』


イクスのサポートを、グラノスはー『ひしめく爪(クラウディッドクロー)』のメンバーは、感謝してくれた。

必要としてくれた。


だが、仲間も増え、実力も上がっていってから、どんどん、ずれが生まれていった。


(…感傷にふけってる場合じゃない)


イクスは首を横に振る。

今日も仕事を探しに、イクスはギルドへきていた。


『仕事の仲間掲示板』をみる。

こちらは依頼掲示板とはまた別の、特定の依頼をする為の仲間を探しているというものだ。


だがー


(剣士とか魔術師とか、アタッカーばっかなんだよなー)


付与術は単にかければ良いと言うのではなく、相手の呼吸や動き方を知る必要があるため、単発の仕事ではあまり需要がない。


そして、『仲間募集』の掲示板にも、付与術師の募集は今のとこなかなか無かった。


「はい、こちらが旅券です。ご確認ください」

「はい、ご確認しました!新しい!出発!」


なんかイカれた声が聞こえてきて、イクスはそちらを見やる。


(あれって…)


最近噂になっている、『咆哮する種(ロアシード)』に所属していた元天才の付与術師が、チケットを持って叫んでいた。


(そういやなんかみんな言ってたな。あの人も追放されたんだっけ)

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