表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

第1話 時代についていけなくなった付与術師

「ごめん」


レオンは頭を下げた。


「俺は、このパーティを抜けようと思う。もう、俺の技術は…その、ついてけない、から」


すぐには返事はなかった。

重苦しい沈黙が、その場に満ちる。


(みんな、どんな顔してんだろ)


怖くてレオン自身も顔あげられずにいた。

その時。

リーダーが、静かに問いかけたきた。


「次、何やりたいか決めてるのか?」


レオンは恐る恐る顔を上げた。


「…ずっと行きたかったとこ、『隠れ陸』に行ってみようかなって」


リーダーージェノンと目が合う。

彼が、ふ、と微笑んだ。

どこか寂しげなーどこか安堵したような笑み。


「…そっか。ヤケになったわけじゃないんだな」


それを皮切りにしたように、この場の全員から力が抜けた。


「なんだよもおおおお!」


やりきれなさそうに項垂れたのは、タンクのヴァン。


彼は髪をがしがしとかきながら、


「えー、やりたいことがあるとか言われたらさー。何も言えねえだろ。本音言えよお」

「頑張ってした決断にケチつけんじゃないよ」


ヴァンのみぞおちを、魔術師のクオーラが、的確に杖でえぐった。


「へぐっ」

「タンク油断大敵」


その様に、レオンも思わず笑ってしまった。

笑いながら、涙が溢れてきた。


「そうだよ。イチャモンつけんなよう、ヴァン。新しい出発だぜ?」


いつもの空気になってきたところで、強敵を前にして仲間を鼓舞する時のように、ジェノンが声をはる。


「そうそう。今日はレオンの再出発を祝して!大いに飲んで語り明かそうか!」

「う゛ん゛!」

「おい、レオン。泣くの早すぎ!」


みんなでワイワイ騒ぐ。


「んじゃ日が高いうちに言えば、あの店なら貸切にしてくれそうだからね。予約行ってくるよ」

「いやいやいやいや貸切ってそんなに、俺なんかのために!」

「いいよね?リーダー」

「もちろんだ」

「なんでお前が言うんだ、ヴァン!」


レオンを抜きにして勝手に話は決まり、クオーラは部屋を飛び出していった。


◆◆◆


「あー…あさひが黄色い…」


翌朝。

窓の外から入る朝日を浴びながら、レオンはぼやいた。


1晩、さんざん飲んで食べて泣いて泣いて泣いて泣いた。

吐くまで飲んで、吐くくらい泣いた。


(言いたいことは全部言えた…うん。多分)


寂しいし、不安だってある。

だが、ちゃんとー伝えたかったことは伝えられた、と思う。


「…さてと。支度、しよう」


それから数日。

荷物の整理やギルドにパーティ脱退届を出したやらのややこしい手続きを経てーレオンは、正式にパーティを抜けた。


◆◆◆


レオン=レクシェノール。


数年前に現れ、『加護の再来』などと言われ、一世を風靡した付与術師。


だから、冒険者隊の間でも高名な『咆哮する種(ロアシード)』から、彼が脱退する時は大いに騒がれた。


いや、それ以前にー『元天才は落ちぶれた』とここ半年はまことしやかにささやかれていたのだが。


「周囲の視線がいてえや…」


外を歩きながら、レオンはぼやいた。


「噂っていうのは精霊の囁きよりもはやいっていうけど。いやこれ真実だけど」


ささってくる数々の視線ー好奇やら嘲やらで心がくじけそうになる。

仲間との別れは仲間と分かち合えても、それ以外の他者のことはどうにもならない。


「『加護』のやつさ…」

「やっぱあれだろ、独善的な術式貫いてんだろ?だから仲間割れしたんだよ」

「あー、『咆哮する種(ロアシード)』のやつらは気が優しいけど、やっと追い出したんだな」

「散々どやってたけど付与術がいざメジャーになったら一気にかすんだな」

「あれだろ。みんなと同じは嫌だ、俺だけカッケーなやつ」

「そもそもあいつのせいで事故が起こりかけて…」


「全部聞こえてるぞ」


レオンは誰にともなくぼやいた。

悲しいかな、あっているところもあるから否定できない。


付与術。

それは、存在に強化、『バフ』を与える魔術だ。


かつては付与術は『加護』と呼ばれる類いのもので、司祭など一部の神官職のみが扱えるものだった。


それも呪いを解いたり、土地を災厄から守ったりーそういう『恩寵』的なものだった。


しかし、魔術の研究によって、その神官魔法の分析がすすみ、数十年前に『体を強くする魔術』が開発される。


もたらされる『恩寵』ではない、能動的な強化が、付与術の黎明だった。


かつては加護と尊ばれたものは技術体系によって運用される『バフ』となった。


それが現代の体系的な付与術。

だがー


(…俺は演算力とかいろいろ底辺だしなー座標指定もクソだしなー)


卑屈になりかけたレオンに、電撃が走った。


「ぴゃっ!?」


髪の毛が黒焦げアフロになる。


噂話というか影口に徹していたもなたちも、突然の稲光とアフロにびくっとして黙り込んだ。


「あーはいはい。気にしない。気にしないヨ」


誰にともなくレオンは呟く。

頭上で何かが小さく瞬く。


(そうだよな。俺はいい仲間に恵まれた。あいつらと冒険できて、本当によかった)


もう一度、心の中で思う。


(…だから、俺も俺の道を選ばなきゃいけないんだ)


視線を牽引しつつ、レオンはなんとか冒険者ギルドへとたどりついた。

心が折れそうになる度に稲光が鞭を打ち、周囲を黙らせてくれたのもある。


ギルドにてギルドカードを差し出す。


「あのー、『隠れ陸』への移動チケット、発行して貰えませんか」

「はいはーい…え?」


対応してくれた受付の女性が、レオンを見て硬直した。


一瞬、レオンの周囲に視線を走らせて、そこに『咆哮する種(ロアシード)』の仲間がいないのを見て、『ほんとにおいだされたんだ』みたいな顔をする。

手続きした時にはシフトでいなかったのかもしれない。


おずおずと、受付が尋ねてきた。


「えっと…おひとりで?」

「うん」


レオンは頷く。


「討伐とかを受けるつもりじゃない。冒険者の旅行切符としてチケットが欲しい」


『旅行切符』。


冒険者ギルドに登録しているものは、そのランクやジョブに応じて様々な場所にー一般人が入れないような場所に足を踏み入れることができる。


それらはダンジョンのみではない。

通常のランク制度とは別に審査は必要だが、冒険者ギルドでの登録がひとつの信用制度にもなっており、異文化の地へおもむけたりもするのだ。

その別の資格を、レオンは持っていた。


「…あの、やけになってませんよね?」


念を押すように、受付が聞いてきた。

最近は異文化交流と称してよからぬことをするやつもいるからだろうか。


「ヤケじゃないです。傷心旅行かもしんないけど。…俺の術式の系譜っぽいのがあるから、みにいきたいってだけで」


レオンの言葉に、受付が納得したようにうなずいた。

苦笑いして


「そうですね。では、旅券を発行しますので少々お待ちください。ギルドカードをお預かりしますね」


旅行切符の発行まで30分ほどかかる。

ということで、レオンは待合スペースで待つことにした。

待合スペースは、依頼が張り出されている掲示板からも離れた場所にある。

簡易カフェがあって、飲み物を頼むこともできる。


「苦レモン汁いりの白湯ください」

「はいよ。いつものレオンオリジナルブレンドね」


何も飲める気はしないが、それでも頼む。

店員のおばちゃんは笑顔で用意してくれた。


ギルド内でも、好奇の眼差しが『うるさい』のだが、何も頼まずに待合にいるのは冷やかしだと迷惑がられる行為でもある。


白湯の入ったカップを手に、できるだけすみっこの席につく。


「あー、あったまる………」


苦レモン汁いり白湯。

もはや白湯かは分からないが、この冒険者ギルドのなじみになってから、カフェのおばちゃんがレオンのために作ってくれるようになった特別調合のやつだ。



ちみちみと心に染みる味を味わっていたとき。


「おうおうレオンさーん?逃避行ですかァ?」


横手から嫌なトーンの声がかかってきた。


無視を決め込もうとしたがー


「むーしーしーなーいーでー。私闘の意思ありってとらえちゃおっかなー」


間延びしたいやらしい発音で言われーレオンはいやいやそちらをみやった。


「なんだよ」

「あっ、やっと返事してくれた!」


そういって無邪気に手を叩いて、茶髪の軽鎧の青年が顔を覗き込んできた。


「ほらほら。武力を生業にするぼくらだからこそさ。対話は大事って言うか」


分割する魂(ディヴァイダソウル)』のリーダー、セリュームがそれっぽいことを並べて無邪気に笑う。


「あっ、でもレオンさんは対話しない人だよね?だから、精霊さんと上手く話せないんだ」

「…っ」


なにか言おうとしてー何も言えずに、レオンは歯がみした。

視界の端で光がまたたく。


「みんなにひらかれた、精霊のコードの使い方。レオンさんはできないんだよね?ちゃんと対話ができないからさあ」


さらに、セリュームが顔を近づけてきた。


「だって、こないだの合同討伐で、足しか引っ張らなかー」

「おっとーレオン!げーんきー?」


その時、もうひとつの声が割って入ったきた。


「ヴァン!」


数日前に別れたパーティのタンクが、レオンの首に腕をひっかけてきた。


「旅券待ちか!?おうおう、ついに行くんだなー隠れ陸!いいなー新天地じゃーん」


ぐっと顔を近づけてきて、


「ふふふふふあっちで俺以外のかわいいタンク見つけてみろよ。怒るぞ」

「なんだよ、お前かわいいってたまじゃないじゃん。筋肉ゴリゴリのくせに」


わけのわからない絡み方をしてくるヴァンの腕をレオンは叩いて笑う。


セリュームが露骨に顔を顰めた。


「は?かばってんの?」

「見送りにきただけだよ。お前があんまり長く話して譲ってくれないから割り込んじゃったんだろうが」


据わった目でヴァンが言い返す。

言葉の建前が態度から漏出する本音でダメダメになっていた。


セリュームが顔をひきつった顔をする。


「別れた仲間を今も僕たちは大事にしてます?アピール?」

「そんなふうに曲解しちゃう?あ、仕方ないな。俺はヘイトの引きつけ率ナンバーワンだからな!」


本当にタンクとして魔物からのヘイトの買い方がダントツのヴァンに言われて、セリュームが舌打ちした。


1歩間違えればウザさになりそうな懐の深さが、状況によっては周りの人間からーそして魔物からは必ずヘイトを買う。

それが、ヴァンという男だ。


「いつ出発すんの?」

「夕方」

「はやいなー。俺たち夜行性の魔物の討伐引き受けちゃったから、見送りいけねえな」


もはやセリュームを無視するヴァンがちょっと悲しそうな顔をした。

鼻の奥がツンとするのを隠して、レオンは笑う。

ヴァンの胸板に拳をぶつけて、


「生きて帰ってきて、酒くみかわしながら語るのが冒険者、だろ?」

「そうだな。じゃ、新しいこと見つけたらまた教えてくれ。手紙書けよ。あ、そうだ。リーダーが伝えとけって言ってたんだよ」

「え?」


リーダーからの言伝。

思わずレオンも真顔になる。

ヴァンが口を開いた。


「変なもんは食べない、拾い食いしない、水は煮沸して…」

「みんな俺を何だと思ってんだ…」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ