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第20話 取りこぼしたもの

足を止めて、イクスは問うた。


「ーどうして、レオンさんを拒絶したんですか」


ダムダムが振り返る。


「通してはならないからだ」

「どうしてですか」


イクスはダムダムをにらみつける。

どんな答えでも逃さないように。


相手が違う文化の住民でも、納得できないものは納得できなかった。


ダムダムが目を細める。

オオカミのように。


「あれはオオカミにはなれないからだ」

「…どういう意味ですか」

「言葉通りの意味だ」


ダムダムが軽く首を横に振った。


「お前は極端に意味を追いかけ過ぎだ。地面に顔を近づけすぎている。足跡が全てを語るわけではない」


イクスは黙る。


「そもそも」


ダムダムが肩をすくめた。


「お前は何故、あの男をそんなに気に掛ける」

「どうして、って」


イクスは声を荒げた。


「あの人が、一番ここに来たがってたんだ。なのにー」


ダムダムの声が、イクスの問いを遮った。


「ならば、どうしてお前はここにきた?」

「お、れはー!」


こたえようとして、こたえにつまった。


(俺はー)


始まりは、『ひしめく爪(クラウディッドクロー)』を見返すための力が欲しくて、レオンの旅に便乗した。

『隠れ陸に興味がある』と偽ったイクスを、あっさりとレオンは信じて、同行を決めた。


(…俺、今思うと、最低なことをしようとしてた)


イクスの少し先に、今、イクスが文化を奪おうとした相手が立っている。

自分が自分で嫌になる。


(…レオンさん)


彼との会話が、旅が。

イクスを変えていった。


精霊哲学。

ムンベルベル。


レオンが語ってくれたり、一緒に経験したりするうちにー


(…いつの間にか、旅が楽しくなっていたんだ)


世界をもっと知りたいと思った。

レオンのことをもっと知りたいと思った。


ーいや。


(……俺自身は、何がしたいんだろう)


答えられずにいるイクスに、ダムダムが静かに問いかけてきた。


「-お前は何のために付与をする?」

「ー何のためにって」

「我々にとって器官が役目であるように。お前たちは『ジョブ』というものがある」


ダムダムは淡々という。


「付与術士とはジョブでありながら、『助ける』器官に近いものだ。お前は何を助けたかった」

イクスは思い出す。


己の両手を見た。


思い出すのも久しい記憶。


(そうだ。俺が、付与術師を選んだのはー)


■■■


イクス=ブランシェイム。

イクスの本名。

『フランシェイス』の方は、ギルドで登録している名前だ。


ブランシェイム伯爵家の次男。


兄ロクスは優秀で、どんな人とも仲良くなれる。

皆が、尊敬していた。


イクスは、兄が苦手だった。


時々、目が怖かったから。


イクスにとっての転機は、貴族学校の一年生の時だ。

貴族の子弟が通う学校。

貴族学校を卒業することが、将来、社交界にデビューするための必須条件のようなものだった。


ある日。

イクスは、いじめを目撃した。


『やめろ』と止めに入った結果。


翌日からイクスが標的に変わった。

それを見て介入したのが兄。


その翌日、またターゲットはいじめられていた子にもどった。


そして、それもまたおわった。


兄が『和解』の場を作ったから。


あのいじめは『いじめ』ではなく、貴族同士の派閥争いだったらしい。


いじめられていた子は、兄に頭を下げていた。


『お前は正しいんだろう、イクス。でも、俺はちゃんと終わらせた。正しさは遺恨を残す。貴族は見栄と妥協だ』


兄が正しいのはーイクスにも、痛いほどにわかる。

それでも、あの和解の場には、『痛かった』『辛かった』という感情が置いてけぼりにされていた。


分かっていても納得できなかった。

イクスはー貴族学校を退学した。

改めて冒険者学校に入りなおして、ジョブとして付与術師を選んだ。


(俺は、自分の手で、助けたい)


形だけの和解ではない。

『痛い』を、きちんと拾い上げたい。


(俺は、兄さんとは同じにはならない。自分の手で、誰かを引っ張り上げたいんだ)


そう願って付与術師になった。


■■■


冒険者学校では、かなり浮いてしまった。

『行き場がなくなった貴族が付与術師をしている』といわれたりもした。


それでも。


(俺は、形式じゃなくて、ちゃんと痛みに向き合えるようになりたい)


付与術を基礎から勉強した。

当時生まれたばかりで、複雑さ故に敬遠されがちだった加速範列型を、血がにじむような努力で習得した。ものにした。


リアルタイムに状況に適した柔軟なバフを生成できる技術。


ジョブを、肉体を、武器を、あらゆるものを記号として掛け合わせることで、取りこぼさないバフを生成できるもの。


(和解なんかよりもはやく。俺は、ちゃんとひっぱりあげたい)


■■■


冒険者学校の卒業試験は、パーティを組んでの実地試験だった。

浮きすぎて、イクスは組んでくれる相手がいなくて困っていた。


魔物が跋扈する森の奥に生えている薬草の採取。

付与術士ひとりではどうにもならない、アタッカーが必須の試験。


そんな時に声をかけてきてくれたのがー


「おっ!今度のギルド登録の実地試験。お前、まだフリー?」

「…フリーだけど」

「助かった!俺と組まない?風邪ひいて休んでたらもうみーんなパーティできててさあ、このままだと卒業試験も受けられなかったっていうか」


そして、彼は手を差し出してきた。


「俺はグラノス=アティオス。ジョブは剣士。お前は?」

「…イクス。みんな俺とは組みたがらないの、知ってるだろ」

「冒険者は命の瀬戸際じゃあ好き嫌いいってらんねえよ。お前、意外ととがってんな!」


グラノスは大きく口をあけてわらった。


「いいじゃん。腕は学校じゃトップクラスって聞いてる。よろしくな」


試験を突破して、冒険者としての資格を得て。

二人で、パーティを組んだ。

『ひしめく爪』。

好き嫌いではない、実力で集まる。

『力』がひしめく集団になろう、という願いを込めてつけたパーティ名。


それからいっぱい冒険を重ねた。

仲間も5人に増えた。


イクスは自嘲した。


「…分かってもらおうとし過ぎた。押し付けてばかりで、俺は結局、追放された」


涙が、あふれた。


「ちゃんと聞かなきゃいけなかったのに」

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